竹中平蔵「高市政権、経済政策で何をやりたいのか未だ不明」有能なブレーンの不在を懸念…小泉政権とは「政策の充実度に雲泥の差」
竹中平蔵「高市政権、経済政策で何をやりたいのか未だ不明」有能なブレーンの不在を懸念…小泉政権とは「政策の充実度に雲泥の差」

ガソリン価格の高騰が続くなか、高市早苗政権が打ち出す補助金政策に、経済学者の竹中平蔵氏が強い危機感を示した。「支持率を気にしたポピュリズムにしか見えない」「補助金という麻薬で国民の目をくらませている」。

中東情勢の長期化、エネルギー危機、そして官邸機能の弱体化――。小泉政権や安倍晋三政権と比較しながら、高市政権の“決定的な弱点”を語った。

ガソリン補助金、極めて不安の残る政策

現在、高市早苗政権の経済政策、とりわけエネルギー政策を見ていると、いささかの危惧を覚えざるを得ません。例えば、石油備蓄やガソリン価格高騰への対応です。

漫然とガソリン補助金を出し続けていますが、経済政策という観点からすれば、これは極めて不安の残る政策です。

仮に、現在の中東情勢を巡る争いが短期間で終結すると本気で読んでいるのであれば、価格変動を一時的に平準化するために補助金を出したり、備蓄を放出したりすることには一定の理屈が成り立ちます。

しかし、現実の国際情勢を冷静に分析すれば、今の事態がすぐに好転するとは到底思えません。それにもかかわらず多額の税金を投入して補助金を出し続ける理由はただ一つ。政治的に国民を不安にさせず、内閣支持率が下がることを避けたいという思惑に他なりません。

トランプが犯した「2つの大きな失敗」

本来であれば、国難とも言えるエネルギー危機の現状において、政府は「自粛を早く促す」べきなのです。

国民に対して「安心だからこれまで通りガソリンを使ってください」という耳当たりの良いメッセージを発するのではなく、社会全体に省エネへの移行を促し、エネルギー源の多角化やイノベーションに向けた工夫を後押しするのが筋です。支持率を気にして補助金をばらまくのは、まさにポピュリズムと言わざるを得ません。

では、なぜエネルギーを取り巻く国際情勢がこれほどまでに混迷し、出口が見えなくなっているのでしょうか。根本的な原因の一つとして、私はドナルド・トランプ米大統領が犯した「2つの大きな失敗」があると考えています。

一つは、勝算のない戦いをイランに対して挑んでしまったことです。簡単に終わると思っていた対立が泥沼化してしまった。しかし、それ以上に決定的なミスは、2018年にオバマ政権時代に結ばれたイラン核合意(JCPOA)から安易に離脱してしまったことです。

オバマ合意に含まれた問題点

オバマ合意には様々な問題が含まれていたかもしれませんが、少なくとも「向こう15年間は高濃度のプルトニウムを作らせない」という確固たる制約がかけられていました。

トランプ氏は「そんなものは甘っちょろい。15年経ったらまた変なことをやるだろう」と勇ましく合意を反故にしました。しかし結果としてどうなったか。15年間作らないという約束が破棄された瞬間から、イランは堂々と高濃度プルトニウムの製造を再開してしまった可能性が指摘されます。

それが今、最も厄介な問題として国際社会に重くのしかかっています。アメリカが安易に離脱したために、皮肉なことにイランを非常に有利な立場に立たせてしまった。

今になって関連施設を物理的に攻撃して潰そうとしても、すでに強固な容器に保管された高濃度の核物質は潰せません。土中から掘り起こせば、いつでも兵器転用が可能になる状態にあると言われています。

アメリカとしても、核兵器開発をやめさせるという目的を掲げたからには、簡単には引き下がれません。

拳を振り上げた以上、両国とも「勝った」という体裁を整えなければ矛を収めることはできない。しかし、出口は全く見えないのです。

総理官邸機能の弱さ、有能なブレーンの不在

イランもホルムズ海峡の緊張で石油の輸出入が滞り、資産も凍結され、経済的に強く締め付けられています。本音を言えば双方がこの不毛な対立を「やめたい」と思っている。

しかしメンツのせいで終われない。したがって今後は、激しい戦火は交えないまでも、ダラダラと続く「低い戦争(低強度紛争)」状態が相当長く続くと見るべきでしょう。

こうした厳しい国際情勢のなかで、日本の政府がポピュリズム的、あるいは場当たり的な政策に傾斜してしまう背景には、決定的な弱点があります。それは「総理官邸機能の弱さ」、もっと言えば有能な「ブレーンの不在」です。

日本の政治において、官邸が強力なリーダーシップを発揮するために極めて重要な役割を果たすのが、官房長官、そして「官房副長官」です。

官房副長官は、国会との調整、与党内の複雑な利害関係の集約、そして霞が関のコントロールなど、実務において極めて重い役割を担います。

小泉内閣の時、その重責を担っていたのは誰だったか。後に総理となる安倍晋三氏です。彼は官房副長官として歴代最長の記録を持ち、北朝鮮電撃訪問の際もこのポジションで辣腕を振るいました。

優れたナンバー2の不在

また、第2次安倍内閣の発足時を振り返れば、官房長官に菅義偉氏を据え、副長官には衆議院から加藤勝信氏、参議院から世耕弘成氏という今や「ビッグネーム」となった二人を配置しました。その後も萩生田光一氏や西村康稔氏など、実力者が名を連ねていました。

翻って、現在の高市政権の政務の官房副長官はどうでしょうか。過去に政治的トラブルで「出入り禁止」の憂き目に遭った佐藤啓氏や、当選回数も少なく経験の浅い、3期目の尾崎正直氏が就いています。

「当選回数が少ないから能力がない」と単純に批判するつもりはありませんが、政治というものは本質的に「貸し借り」の世界です。過去の選挙で誰を応援したか、困難な法案を通す時に誰が泥をかぶってくれたか。そうした属人的な人脈やネットワークの蓄積がなければ、複雑な利害を調整し、大胆な政策を断行することなど不可能です。

さらに、事務担当の官房副長官の役割も重要です。安倍内閣が霞が関を掌握できたのは、警察官僚出身でありながら早くから内閣府などで幅広い経験を積んだ故・杉田和博氏を据えたからです。現在の露木康浩氏も警察庁出身ですが、杉田氏のようなかつての杉田氏のような動きはできていないように思います。

小泉政権との決定的な違い

官邸機能の弱さが懸念される一方で、高市政権は衆議院選挙において圧倒的な勝利を収めました。争点を極端に絞り込んだ「ワンイシュー・エレクション(単一争点選挙)」を仕掛け、大きな風を吹かせて圧勝したという構造は、かつての小泉内閣の「郵政解散」を彷彿とさせます。

しかし、両者には決定的な違いがあります。それは「政策のコンテンツ」の有無です。


小泉内閣の郵政民営化は、決して思いつきのポピュリズムではありませんでした。

私自身が担当大臣として法案を練り上げ、国会で1500回にも及ぶ答弁に立ち、徹底的な議論を重ねました。党内を二分するほどの激しい反対意見と正面からぶつかり合い、その上で国会採決した後の、いわば総決算としての選挙だったのです。

だからこそ、反対派がいる一方で、情熱を持って支えてくれる強固な応援団が全国に存在しました。

ところが今回の選挙はどうでしょうか。事前の徹底した議論も、血の通った政策論争も存在せず、「高市さんでいいですか?」という人気投票のような空気が作られただけです。経済政策に関して彼女が具体的に何をやりたいのか、いまだに誰も明確には分かっていません。

日本が直面する課題は複雑かつ深刻

リーダーとしてのパッションは共通しているかもしれませんが、政策の中身(コンテンツ)の充実度が全く違います。政治である以上、多様な人々と酒を酌み交わし、飯を食いながら人脈を広げるなど、政治家としての泥臭いネットワーク構築はどうしても不可欠です。

物価高、エネルギー危機、地方の衰退。日本が直面する課題は複雑かつ深刻です。その中で政治が果たすべきは、補助金という麻薬で国民の目を一時的にくらませることではありません。

リーダーに共通して求められるのは「現実を直視させる勇気」です。「今は国難だから、みんなで我慢して省エネをしよう」と合理的な道筋を示し、説明責任を果たすこと。そして、霞が関や党内をまとめ上げる強固な人脈と、ブレない政策のコンテンツを持つことです。

表面的なワンイシューの熱狂や、耳当たりの良いポピュリズムに頼る時代はもう終わりました。高市政権には、今一度官邸の足元を見つめ直し、国民に真実を語る「重厚な政治」を取り戻すことを強く求めます。支持率の高い高市政権なら、それができるはずだと期待しています。

文/竹中平蔵

 

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