「劇場版トリコ 美食神の超食宝(スペシャルメニュー)」の座古明史監督に聞く、作品のみどころと演出のこだわり。後編では「演出家」としての生き様にも迫ります。


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《やっぱりトリコが真ん中に立っていて欲しい》

─── 美食屋四天王をはじめ、オールスターキャストそれぞれに見どころがあるのが本作の魅力ですが、一方で、「ホントはもっとこのキャラクターをメインにしたいんだけどなぁ」という葛藤はなかったですか?
座古 今作のゲストキャラである「ギリム」と「あやめ」に関しては、もうちょっと掘り下げたかった気持ちはありますね。でもそうなると、ギリムとあやめの映画になってしまう。子ども向け映画として、やっぱりトリコが真ん中に立っていて欲しいという気持ちも当然ありますので、そのバランスですよね。子どもたちが喜ぶことを集積していくだけで膨大な尺になってしまうので、自分としてはやってみたいことがあっても、第一義として「子どもたちのために描く」という部分は外せないですね。

─── 劇場版でのゲストキャラの立ち位置はバランスなども含めとても難しいと思いますが、キャラクター造形において、生い立ちや設定で意識したことはなんですか?
座古 僕は、「トリコ」世界の中で一番強いのはだぶん「一龍」(IGO会長)なんじゃないかと思っているんです。その一龍と同じレベルにいるのが美食會のボス・三虎。
でも、トリコたちがまだ三虎と戦うわけにはいかないので、じゃあ一龍たちの同僚にかつてものすごい人物がいた、という設定はどうだろう? と。

─── そうやって、元美食屋にして美食會にも属していた「ギリム」というキャラクターが生まれたわけですね。
座古 そんなバックボーンがあるから、ギリムはすごく強くなくちゃいけないし、過去を捨てた人間だから、強くなる過程で心を失ってしまったキャラクターなんですよね。ある意味、家庭をないがしろにする父親像と重なってくるのかな、って僕は勝手に思ってるんですけど。


《演出っていうのはすごく恥ずかしい仕事》

─── 父親像、という部分で、ご自身の両親から影響された部分はありますか?
座古 そうですねぇ……ウチは父親も母親も、ものすごく忙しい人だったんですね。僕には弟がいるんですが、その弟が20歳の誕生日を迎える際、「ハタチになったら何したい?」と聞いたことがあるんですよ。
酒飲みたい! とか、タバコ吸いたい! といった答えを想定していたら、「親父にだっこされたい」って弟が言ったんです。その時に……初めて自分の人生について気づく瞬間って誰しもあると思うんですけど……ふと自分のことも振り返って、「僕らが子どもの頃、実は寂しかったんだなぁ」と気づいたんですね。

─── 淋しさが源泉。
座古 家族で旅行に行ったこともないし、運動会に来てくれたのもごくごく僅かしかないし、卒業式にも入学式にも来れなかった……しょうがない! 二人とも忙しかったんだから。でもそれって、裏を返せば、淋しかったのは僕らだけじゃなく、両親もきっと淋しかったんだろうなぁと思って。そういう部分部分みたいのが……

─── 作品に出ちゃうんですね。

座古 もちろん、自分の両親の話を映画にしよう、なんてことは全く思ってもいないんですが、「こういうのがいいよね」「こんな話もアリだよね」とやっているうちに、ある時できあがったシナリオを読み返したら、「これって父ちゃんと母ちゃんのことだな」とつながる瞬間っていうのがあって。

─── そうやって、座古監督ならでは「演出」になるんですね。
座古 だから、演出っていうのはすごく恥ずかしい仕事だなっていつも思うんです(笑)。自分の人生で達成できなかったことであるとか、こうあって欲しいという希望や願望が、ついつい出てしまうんですよね。父親と母親の話だけじゃなく、自分のいろんな願望とかも出てしまうことがあると思うので……そこは、結構痛々しい部分でもあるので(笑)、あんまり掘り下げないでください。

─── 今作でも、監督自身の願望が反映されたり?
座古 いや、それはないですよ。
まあでも、ちょうどプライベートでいろいろ途方に暮れる事件があったりしまして、見る人が見ると「可哀想だな、アイツ」って苦笑いするという。ホントに欲しいモノはいつも手に入らない。でも、僕には仕事がある! って余計に痛々しいですよね。

─── いやいやいや。
座古 あ、でも、その途方に暮れる事件が起きたのはシナリオが完成した後なので……影響は……たぶん……って変な汗をかいているんですけども。僕の“インフィニ・ビー”はどこにいるのかなぁと。
“インフィニ・ビー”が見えない! いたとずっと思っていたんだけど飛んでっちゃった……アハハハハハハー。
※インフィニ・ビー……行く先を指し示すという蜂で、アニメオリジナルの食材。


《「あなたの人生が好き!」って言われるのと一緒》

─── えー、何だか辛そうなので話を切り替えまして(笑)、座古監督がアニメ作家になろうと思ったキッカケは?
座古 小学4年のときに映画館で観た「風の谷のナウシカ」ですね。それがもう、どうしようもないほどの衝撃で、未だにその衝撃は言葉にできないんですけども、そのときの「得体のしれない何か」が今でも僕の中にあってですね、ずーっとモヤモヤモヤモヤしているんです。

─── そのモヤモヤがキッカケ?
座古 ですね。そして中学生の時にたまたま読んだ映画のファンブックの影響も大きいですね。
そのファンブックの中で、あるアニメーターさんが「どうしてこの業界に入ったんですか?」という質問を受けて、「中学3年のときになりたいと思ってなったんです」と答えていたんです。中学生の僕はソレを読んで、「今なりたいと思えばなれるんだ!」と思っちゃったんですよね。「あ、このモヤモヤは、プロになればいいんじゃないか」と。そこからはもう、プロになろうと思って絵を描いて、アニメのことだけ考えて、大人になっちゃったという。

─── でも、今では座古監督のファンもたくさんいますよね。プリキュアなどでも「座古監督の演出が好き」という声を良く聞きます。
座古 ありがたいですね〜。「演出を好き」って言われるのは「あなたの人生が好き!」って言われるのと一緒なんです。だから、とっても嬉しいんですよ。でも逆に、「作品ツマンね」と言われるのは、「お前の人生クソツマンネ」って言われてるのと同じになっちゃう。演出の方みんながそうかはわからないんですが、僕はちょっと極端なんですよね。

─── 話を聞いていると、心の叫びとかいろんなモヤモヤが作品や人生にも影響を与えていますね。
座古 もう、しょうがないんですよ! 演出っていう仕事は、全裸になって全てをさらけ出す仕事なんです。

─── では、今作で座古監督が一番アピールしたい全裸ポイントはどこになりますか?
座古 それ言うと子ども向けじゃなくなっちゃうので(笑)。いや、真面目に答えると、やっぱり「サンシャイントリコ」ですよ。テンションがあがって、「太陽!」と言ってすごく光って、なんだか胸がすごく熱くなるんですよね。

─── あの輝きは、観ていて確かに胸アツでした。
座古 自分で言うのもなんですが、「おぉ、かっけぇぇぇ!」ってなりますよ。「お前のその炎より、俺たちの炎が勝る!」と言ってギリムをぶっ飛ばすわけです。あぁ、このカット入れて良かったぁって。そういう爽快な……サンシャイントリコのかっこよさを一番見て欲しいですね。

「劇場版トリコ 美食神の超食宝(スペシャルメニュー)」は全国東映系にて公開中。
(オグマナオト)