「思い出しても、それはハードボイルドな部屋だった。ベッドとテレビと電話の3つが極端に目立っていた。
殺風景といえば、これほど殺風景な世界はない。早い話が、寝るためだけのマンションといえた。それが、この部屋の住人にとっては、限りなくふさわしく感じられた。(中略)ところで殺風景な長州の部屋に大きなこけし人形が置いてあった。けげんそうな顔をすると『衝動買いだよ』という言葉が返ってきた。寒々とした部屋に愛くるしいこけし人形。
部屋に帰るたびにそのこけしを見たはずである」

1987年、長州力は一般女性の英子さんと結婚する。プライベートが見えないどころかプライベートが存在しないとさえ思える長州が結婚したという事実はファンにとって衝撃で、それでいてこれほどの喜ばしい出来事もなかった。今から振り返ると、この頃こそが長州力の最も脂が乗っていた時期である。
“色んなこと”を経た長州力、プロレスラーの晩年に残ったのは妻 今回の「出戻り」を非難する人はいない
1987年に新日復帰を果たした長州は藤波、前田たちへ共闘を呼びかけ、猪木らとの「世代闘争」に突入していく。
(※画像は『長州力DVD-BOX 革命の系譜 新日本プロレス&全日本プロレス 激闘名勝負集』バップより)

冒頭の文章は、「週刊プロレス」二代目編集長のターザン山本氏が連載コラム「ザッツ・レスラー」で発表したエッセイの一部。英子夫人をこけし人形になぞらえ、“時代の寵児”が渦中の中で掴んだ幸せを祝福した名作である。

プライベートが見えなかった長州力に放たれた「文春砲」


先ほど「長州からはプライベートが見えない」と述べたが、それはある時期まで姿勢として一貫している。ブーム期にあたる新日本プロレスを“プロデューサー”として牽引し、天下人となった90年代の長州力。
選手として、現場監督として、ビジネスマンとして「長州力」のパブリックイメージを頑なに守り続けていた。

とは言え、秘密主義というわけでもない。同輩・後輩の結婚式に仲睦まじく出席する長州夫妻の姿を専門誌で垣間見ることはあったし、一度目の引退時のセレモニーでは3人の娘さんをリングへ上げている。意外なところでは、「週刊プレイボーイ」編集部でアルバイトしていた長州の娘さんが落合福嗣くんに見初められ、熱烈アプローチを受けていたという話も漏れ伝わってきている。

そして、2011年。長州の家庭事情が週刊誌にスッパ抜かれてしまう。
「文春砲」なる呼び名が与えられる前の週刊文春にて、長州が夫人にドメスティックバイオレンスを振るい、離婚危機に陥っているという記事が報じられたのだ。
当時の長州は、苦しい時期であった。新日本プロレスを退社して2003年に旗揚げしたプロレス団体「WJ」は一年と数ヶ月で活動を停止。文春によると、莫大な借金を背負うことになった長州は2010年に地上2階地下1階の豪邸を売却。しかも現役復帰を果たした頃から、長州は夫人へ手を上げるようになったとされているのだ。

この報道が事実かどうか、我々にはわからない。
ただ、記事中には当時の英子夫人と三女のコメントが掲載されており、また、“天下人”時代の長州の豪腕を知っていたファンからすると「さもありなん」と説得力のある内容であったことは否定できない。正直、プロレスファンの10割近くはこの報道を信じていた気がする。

スイングする長州夫妻


だからこそ、驚く。1月15日の『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)に長州力がゲスト出演、しかも放送前には「長州力の美人妻がテレビ初登場」(※「テレビ初登場」は事実とは異なる)と告知されていたのだ。「は? 離婚してたんじゃないの!?」、プロレスファンの多くは驚きの声を上げたはずだ。

でも大々的に告知されているし、収録は滞りなく行われたようなので、出演が覆ることはないはず。果たしてスタジオに登場した英子夫人、数年ぶりに見ると全く変わってなかった。
たしかに「美人妻」と呼ぶにふさわしい若々しさに溢れている。あれ? あの報道、一体なんだったんだろうか……。

英子夫人、長州について語る。
「定位置に色々なものが置いてないとダメなんです。リモコンはここ、何はここ。それがちょっとズレてると、定位置に戻さないと気が済まない」
「食事をして手を拭くじゃないですか。
そしたらそれでテーブルを拭いて床を拭いて」「それは助かるじゃないか、お前……」
なんだ、やっぱり一緒に生活してるんじゃない!

司会の明石家さんまがムリヤリ二人に腕を組ませると、照れてその腕をほどいてしまう長州。
「最近、仲良いなと思ってるんですけど、コレはないなと思って」

なぜ、こんな長州に英子夫人は惹かれたのか? 司会の明石家さんまに問われた彼女は「イカツイ感じなのに、笑うとすごく可愛らしいから」と答えている。

息を大きく吹き、腕時計をチラ見し、空を見つめる長州力と、そんな長州を「照れてる感じが可愛い」と笑う英子夫人。年上の夫より優位に立ち、笑顔でツッコミを入れる13歳年下の妻。円満夫婦の関係性の典型に見える。結果的に最高にスイングしている。

「なんでこんな時間がなかったのか」(長州) 「愛しています」(英子夫人)


悲しいかな、プロレスファンは擦れっ枯らしだ。過去の報道を知ってるだけに「カメラの前だけで仲良くしてるんじゃないの?」という先入観のフィルターを通し、長州夫妻のやり取りを観察してしまう。

結婚以来、一度もデートをしたことがなかったという2人が30年ぶりにデートするロケが今回は行われた。
待ち合わせで、うしろからやって来た英子夫人が「わっ!」と驚かせるように長州を振り向かせる。「天気いいから、一緒に」と自ら手を握りにいく長州。遊園地で一緒にジェットコースターに乗り、共にソフトクリームを食べながら「なんでこんな時間がなかったのかな……」とつぶやく長州。

デートも終わり、家路につこうとした刹那、サプライズで花束を夫人にプレゼントする長州。「ユリ系が好きだったんだよな」と、自ら選んで作った花束だ。
英子夫人も、サプライズを用意している。「普段言えなかったようなことをパパに」と、手紙を書いてきたという。
「光雄さん(長州の本名)へ。愛しています。一緒に過ごす毎日がとても心地よく幸せです。先日、子どもたちに口を揃えて言われたことがあります。『パパとママの関係はレアすぎて、私たちの人生において何の教訓にも参考にもならないわ。でも一つだけ間違いなく言えることは、運命の結びつきは絶対にあるということ。それだけは絶対にあるよね』、そんな事を言われました。光雄さんとの毎日が尊く幸せで、心底嬉しい。ありがとう」

手紙を聞いた長州は夫人にキスをし、「こういうのはダ~メだって言ってんだろ。ダメなんだよ」とぼやき始めてしまう。
英子 なんで? 泣けちゃうから?
長州 なんで泣けるんだよ(照怒)。

「カメラの前だけで仲良くしてるんじゃないの?」という勘繰りが不毛だということは、プロレスファンもいいかげん気が付いている。

スタジオで、明石家さんまから強烈なツッコミを受ける長州。
さんま 長州さんも「愛してるよ」って言ってあげたほうがいいんですよ!
長州 あっ、僕はもう毎日言ってますから。
さんま そうなの!? 奥さん、毎日「愛してる」いただいてるの!?
英子 (うなずく)

「妻とは籍を1年前に抜いています」(長州)


1月23日に、長州がブログを更新している。英子夫人と『行列ができる法律相談所』で共演したことを受け、一部の週刊誌が長州夫妻について言及しているそうだ。

「楽しくデートしてたけど実は離婚していたとかのような内容みたいです。(中略)妻とは今は籍を1年前に抜いています。そこから色々ありまして、あんなに小さかった3人の子供たちが心配してくれて自分と妻の間に入ってくれました。そういうこともあり、妻とも再度お互いに話し合ってもう一度、子供たちも含めた家族5人で歩んでいこうということになりました」
「籍は近いうちに入れます。そのタイミングは自分の中で決めているのでそこに合わせてですね」
「30年も結婚生活送っていると誰もがそうであるように色んなことがあります。別々になっていた時もありましたが、その間も子供たちがお互いを行き来してくれていたので空白の時間というのは自分の中ではないですね。娘たちにレアケース過ぎて全く参考にならないと言われますが、自分もそう思うようになってきました。今は楽しく過ごしてます」

かつて新日本プロレスに所属していた長州は、「ジャパンプロレス」を立ち上げて全日本プロレスへ参戦。しかし、古巣が恋しくなった長州は新日へUターンしていった。こうなると当然、契約問題がネックになってくる。全日本プロレスを中継していた日本テレビと新日本プロレスを中継していたテレビ朝日によるテレビ局同士の問題にも発展した。
この時、長州の“心の師”であったマサ斉藤は契約書のことを「紙切れ1枚」と表現して長州を徹底擁護。斉藤の発言は賛否を呼び、長州の“出戻り”は業界をあげた大事件となってしまった。

どうにも無理矢理だが、今回の長州夫妻の離婚→復縁も“出戻り”と表現できるかもしれない。「今はまたかつてのように男1人vs女4人の戦場の中で毎日楽しく暮らしてます」と明かす長州。現状を知り、あのデート風景を見せられたら「離婚届なんか紙切れ1枚だろ?」と思わず言ってしまいたくなる。
長州はブログで「夫婦には色んなことがある」と語っている。「夫婦」という認識が、2人の間では揺るぎのないものになっているようだ。

長州のレスラー人生にも“色んなこと”があった。たとえ団体を潰しても、最後に奥さんが残ってくれて良かった。プロレスラーの晩年は、幸せであってほしい。
(寺西ジャジューカ)