デブのいじめられっ子がいきなりドウェイン・ジョンソンに! 出オチみたいな話かと思いきや、意外にサスペンスで引っ張るバディ・ムービーの良作が『セントラル・インテリジェンス』だ。
元いじめられっ子がムキムキに「セントラル・インテリジェンス」に見る「2周目」のドウェイン・ジョンソン

もしも元いじめられっ子がロック様になってたら、どうする……?


同窓会で名前が思い出せない。同じクラスにいた影の薄いいじめられっ子だったのは覚えてるんだけど、印象がぼんやりしてる……。
というような状況はよくある。それをネタにした『セントラル・インテリジェンス』はある意味でアメリカ版『20世紀少年』と言えなくもない。主役はロック様ですが。

高校時代は学校のスーパースターで「ゴールデン・ジェット」なんてあだ名で呼ばれていたものの、今はしがない中年会計士をやっているカルヴィン。いつのまにか部下に出世を追い越され、高校の時から付き合ってゴールインした妻に愚痴る日々。同窓会の誘いにも気が乗らない。
そんなカルヴィンがある日フェイスブックにログインすると、「ボブ」という知らないアカウントから友達申請が。適当に承認した瞬間、異常に馴れ馴れしくメッセージやら「ネットで話題の面白動画」やらを送ってくるボブ。訝しがるカルヴィンを、ボブは飲みに誘い出す。

待ち合わせのバーに行くカルヴィン。そこで出くわしたボブは、ムキムキの大男。なんとボブの正体は20年前いじめられまくっていた気の弱いデブのロビーが名前を変えた姿だったのだ。
酒場で絡んできたチンピラを叩きのめしたボブ=ロビーはカルヴィンにある会計記録を調べてほしいと迫る。しかし次の朝、ボブを泊めたカルヴィンの自宅に押しかけてきたのはCIAの職員たち。そしてボブは瞬時のうちに姿を消す。驚くカルヴィンにCIAのエージェントが告げたのは、ボブがある情報を持ち逃げしていること、そしてボブ自身もCIAのエージェントでありながら組織に反逆した危険人物であるということだった。果たしてボブの正体と、その背後の陰謀とは……!

同窓会で顔を合わせたあいつが、なんか学生時代のイメージと全然違う……というあの現象をうまく使った『セントラル・インテリジェンス』。学生時代はスターだったのに、今では冴えない中年サラリーマン……というカルヴィンと、いじめられっ子がムキムキのCIAエージェントに!というボブのやりとりは抜群にテンポがよく、ずっと見ていたいという気持ちにさせられる。
また下ネタしか言わないカルヴィンの同僚や「おれはサイエントロジーだ!」と唐突に言いだすかつてのいじめっ子など脇役もなんだか変な人ばっかりでコクがある。

面白いのが「そもそもボブは何者なのか」という謎をけっこう引っ張る点だ。ルックスが全然変わっちゃった元いじめられっ子がいきなり「おれはCIAのエージェントだ」と言い出しても、はいそうですかとなかなか信じづらい。誰がどこまで本当のことを言っているのか? ていうかそもそもボブは本当のことを言ってるの? というカルヴィンの混乱とサスペンスでストーリーを引っ張るのは、設定の活かし方として上手い。

バディもののアクションコメディとしても充分楽しい映画だが、「いじめはよくない」というメッセージに満ちた志の高い作品でもある。なんせロック様が決め台詞のように「いじめ反対!」と言いながらチンピラをボコボコにする映画なので、説得力は抜群だ。
やはりいじめはよくない。

"2周目"に入ったロック様の明日はどっちだ


しかし本作を見てしみじみと感じるのは、ロック様ことドウェイン・ジョンソンのアクション俳優としての"2周目感"である。2002年の『スコーピオン・キング』から早15年。わかりやすくムキムキで強面なルックスと意外な愛嬌のギャップもありつつ、『ワイルド・スピード』シリーズなどの当たり役もゲットして、すでに「ドウェインのアクション映画」はそれだけで単体のジャンルになりつつある。「小心者のいじめられっ子が20年後にはドウェイン・ジョンソンに!」という『セントラル・インテリジェンス』のストーリーは、まさにそれを逆手に取ったものと言える。

この最近のドウェイン・ジョンソンの周囲に漂う雰囲気を見て、筆者は一人のアクションスターを思い出さずにはいられない。
そう、アーノルド・シュワルツェネッガーである。そもそもシュワちゃんとロック様には共通点が多い。両者ともボディビルダーとプロレスラーという体が売りの商売から俳優に転身し、初期のフィルモグラフィーにファンタジー系の作品(シュワは『コナン・ザ・グレート』、ドウェインは『スコーピオン・キング』)が含まれている。その後に正統派のアクション映画で当たり役を得ているところも共通。つまり、この先のドウェインはシュワちゃんと似通ったルートを歩む可能性が高い。

と考えると、自身のイメージを逆手に取った『セントラル・インテリジェンス』は、シュワちゃんでいうと『ジュニア』とか『ラスト・アクション・ヒーロー』あたりの雰囲気に近い。
あの90年代前半のシュワちゃん特有のゆるいムードが『セントラル・インテリジェンス』にも漂っているのだ! あの時期のゆるいシュワちゃんが好きな人間としては、正直嬉しい。アクション映画ばっかり見ててよかったと思う瞬間である。

多分、ドウェインは今後しばらくゆるめのアクションコメディに出たあと、もう一度シリアス路線に回帰する。そこで「ドウェインvsドウェイン」「ドウェインvs悪魔」みたいな映画が作られた後、恐らくドウェインは政界入りするはずだ(すでに2020年の大統領選に出馬するかもという話はある)。もしドウェイン・ジョンソン大統領が誕生した時に「ああ、あれがドウェインにとっての『ジングル・オール・ザ・ウェイ』だったんだな……」と実感するためにも、『セントラル・インテリジェンス』を今見ておくべきなのだ。

【作品データ】
「セントラル・インテリジェンス」公式サイト
監督 ローソン・マーシャル・サーバー
出演 ドウェイン・ジョンソン ケヴィン・ハート エイミー・ライアン アーロン・ポール ほか
11月3日より全国ロードショー

STORY
高校生時代は学校のスターだったカルヴィンは、20年後の今は冴えない会計士。そんな彼のところにいじめられっ子だったボブから20年ぶりに会いたいと連絡が。しぶしぶ会いにいったカルヴィンの前に現れたのは、マッチョな肉体へ変貌し、現在はCIAに勤めているというボブだった。

(しげる)