昨年に放送されたドラマ『カルテット』(TBS系)で特に顕著だったが、あらゆる場面に伏線を効かせた作品が昨今では数多い。だからこそ話が進んだ後、遡って数週前を再見すると、スルーしていた些細な出来事に引っかかり驚くのだ。
「あの時のアレは、そういうことだったのか!」と。

1月7日よりスタートした『トドメの接吻』(日本テレビ系)は、完全にその類のドラマ。(関連
「トドメの接吻」1話。キス、山崎賢人タイムリープで状況を変える、キス、視聴者は目ざとく伏線回収する
「山崎賢人 連ドラ初主演 トドメの接吻 ダーティーホスト役 新聞記事」(amazonより)株式会社メイジャー

この作品は“伏線”と“タイムリープ”が綿密に絡み合っている。

山崎賢人が断言「愛なんか求めるから人は不幸になる」


歌舞伎町のホスト・堂島旺太郎(山崎賢人)は、ホストクラブ『ナルキッソス』のNo.1。ちなみに「ナルキッソス」とは、泉に映る自分の姿に恋い焦がれたまま命絶えた、ギリシャ神話に登場する美少年のこと。「ナルシスト」の語源でもある。

偽りの愛で女性を夢中にさせ、金が尽きたらポイ捨てするのがこの男のやり方だ。

「愛なんか求めるから人は不幸になる。必要なのは愛なんかじゃない」
「偽りの愛を振りまいて、俺は成り上がる」
そう断言する彼の人間性と店名は親和性があるということ?

しかし、同作の鈴木亜希乃プロデューサーは「まんたんウェブ」のインタビューにて発言している。
「徐々に分かるのですが、旺太郎はある過去を背負っていて、ただのクズではないわけです」

そういえば。個人資産100億円のホテル王・並樹グループのご令嬢・美尊(新木優子)がナルキッソスに来店した際、旺太郎はこんな言葉も放っている。
「まだ“本当の愛”に巡り合ってないのかもね。だって、そうでしょ? 愛がなきゃ、人は幸せになれないよね」

旺太郎がお金を求め続けるのには、理由がある。
12年前、父の旺(光石研)が船長を務めるクルーズ船『プロメテウス』のクリスマスクルーズに弟・光太を連れて忍び込んだ際、二人は運悪く沈没事故に巻き込まれてしまっている。
実は彼、事故の責任を問われ逮捕された父に課せられた賠償金(3億円)を肩代わりしていた。

キスで殺しに来る門脇麦は、山崎賢人の敵か味方か?


このドラマのタイトルは「トドメの接吻」。何がどう「トドメ」なのかが判明するには時間を要するが、キスを軸にストーリーが展開していくのは間違いない。何しろ、山崎賢人は初っ端から女優陣とキスしまくりだ。
しかし、その中で登場する正体不明の“キス女”(門脇麦)と交わすキスだけは意味合いが違っている。第1話で旺太郎が“キス女”とキスしたのは、計3回。
そのたびに、なぜか旺太郎は命絶え、そして7日前の時点に戻り生き返るのだ。

1度目のキス以来、“キス女”との遭遇を恐れるようになる旺太郎だが、もう一方で密かにある事態が起こっている。
“キス女”と遭遇する以前の彼だが、気合を入れるために健康ドリンクをグイッと飲み干してから美尊の接客に臨み、その直後に“キス女”と初遭遇。「あなた、死ぬ」と語りかけられてからキスされ、タイムリープした。
こうして7日前からやり直すことになった旺太郎は、流れの中で健康ドリンクを飲まずに美尊の席に付いた。そしてバックヤードに戻った彼は健康ドリンクを飲み干し、直後に“キス女”にキスされている。

みたび7日前からやり直した旺太郎であったが、健康ドリンクを飲まず逃げ出した彼に対し、“キス女”の追い込みはなぜか中断されている。しかしだ。車に轢かれ救急車で運ばれる子どもを歩道橋の上から見ている際、旺太郎は何者かから突き落とされて瀕死の重傷に。その後、病院に現れた“キス女”は「あなた死ぬ」と語りかけ、それから旺太郎にキス。
例によって7日前に戻る旺太郎であったが、彼が降り立ったのはホストクラブのバックヤード。健康ドリンクを保管するロッカーを開けると、そこには口紅で「デンジャラス」と記されたメモが残されていた……。


これは、あくまで私の推測に過ぎない。だが、健康ドリンクのみに注目すると話が見えてくる。“キス女”は旺太郎が失敗を犯した時に現れ、7日前にタイムリープさせることで正解へと導いているんじゃないだろうか?
そう考えると、瀕死の旺太郎に放った「あなた死ぬ」というセリフのニュアンスがまるで違って聴こえてくる。「自分のキスであなたを殺す」という宣言ではなく「このままでは、あなた死ぬ」という意味に捉えられてくるのだ。だから、本当に死んでしまう前にキスをして人生をやり直させたのでは? そういえば3度のタイムリープのうち、キス以外が原因で旺太郎が危機に陥ったのは、歩道橋から落下したこの時のみである。
それだけではない。
タイムリープのおかげで歩道橋の場面を無事やり過ごした旺太郎を見て、“キス女”はニヤリ。そして「まだ、生きてたんだ……」とつぶやいている。実は彼女、不敵な態度を取ってるわけじゃなく、素直に「生きててよかった」とホッとしているだけなのでは……。

話を観ては遡り、それを繰り返すことで、こうした予測が出来上がる。先に起こるストーリーを知り、立ち戻ったがゆえ、点が線になるのだ。これって、我々視聴者も一緒にタイムリープしたということ? オーバーな言い方だが、心境的にはそれにかなり近い。

山崎賢人と共に視聴者もタイムリープ!


はっきりと、わかることがある。キスのたび時間を戻らせているのは、旺太郎だけではない。
例えば、歌舞伎町の夜道で旺太郎を追いかけていたものの、サンタのマネキンに足を取られ転倒してしまった“キス女”。しかし、タイムリープ後の同じ場面で、彼女はマネキンをひょいと飛び越えている。交通事故が発生する間際、轢かれてしまうはずの子どもを寸前で救い出したのは“キス女”だ。
旺太郎だけでなく“キス女”の方も、ことごとく歴史を良い方向へと書き換えている。

旺太郎もそうだ。彼の好転は、健康ドリンクに関することのみじゃない。タイムリープを経てホストクラブの客・スミレ(ふせえり)のバースデーをサプライズする段取りを組んだり、来場を断られたパーティに不動産会社の女社長・都(井上晴美)の付き添いで参加する策を思い付いたり、美尊のお見合い相手・枝野に美人局を仕掛け話を破談させたり……。人生をやり直すごと、彼は絶妙な作戦を講じている。

そういえば、モデルプレスのインタビューで山崎賢人がこんな発言を残している。
「旺太郎はカネのためならなんでもやる、稼ぐならホストという職業が一番手っ取り早いと思っているので、そんな男が“7日前に戻れるキス”という能力を味方につけてしまったらどうなるのか」
やっぱり! 旺太郎にとって“キス女”のキス、即ちタイムリープは味方に成り得るのだ。

それは、視聴者の側も同様。先の展開を知りつつ、時には過去の出来事をふと振り返る。即ち、タイムリープする。そうすれば、伏線を予想以上に回収することができる。こうした作業で、ストーリーに潜む真理に触れることができる。
ただ、我々が時間を巻き戻すのに「キス」という手順を必要としないのは残念だ……。

とにかく、なかなかに新しい楽しみ方を提示したドラマのように思う。
(寺西ジャジューカ)