長澤まさみ主演、古沢良太脚本の月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』。“コンフィデンスマン”と呼ばれる信用詐欺師たちとターゲットの騙し合いをコミカルに描く。


先週放送された第2話の視聴率は7.7%。かなり低空飛行を余儀なくされているが、春先はみんな忙しいからドラマの視聴率が低迷するのは仕方ないのかも。豪華キャストを揃えた昨年春の月9ドラマ『貴族探偵』も初回11.8%、第2回が8.3%と、『コンフィデンスマンJP』と非常によく似た視聴率の推移だった。
「コンフィデンスマンJP」2話。レビューサイトの星が真実とは限らない、視聴率にも騙されるな
イラスト/まつもとりえこ

ケレン味こそ『コンフィデンスマンJP』の魅力


「目に見えるものが真実とは限らない。グルメサイトの星の数は信用できるのか? 温泉の効能は根拠があるのか? ゲレンデで出会った彼女と目の前にいる彼女は本当に同一人物なのか? コンフィデンスマンの世界へようこそ。あーっはっはっは(高笑いした後、脱兎のように逃げ出す)」

オープニングからカメラ目線で長澤まさみがこんな風に啖呵を切るこのケレン味。これが『コンフィデンスマンJP』の最大の魅力だ。
冒頭のシークエンスでロシアンマフィアを騙そうとする手口は今回もユルユル。だけど、その大仕掛けとドタバタ感がなんとも楽しい。

なにより、長澤まさみ、東出昌大、小日向文世の主演3人が楽しそうなのがいい。ロシアンマフィアから逃げるため、3人仲良く自転車カバーを被っているところで思わず笑ってしまった。まるでかつての『ルパン三世』だ。

「ホーホケキョと泣いてみぃ」


今回のターゲットは、桜田リゾート社長の桜田しず子(吉瀬美智子)。全国のホテルや老舗旅館を買収し、新たにリゾート施設として生まれ変わらせることで成功を収めた「日本のリゾート王」だ。
贈賄や談合、地上げは当たり前、レビューサイトの星まで操作しているのだから芸が細かい。悪事は置いておいて、モデルは明らかに「星野リゾート」だろう。

偶然訪れた老舗旅館「すずや」で若女将の操(本仮屋ユイカ)に惚れてしまったボクちゃんは、桜田リゾートに買収されそうになっている彼女らを助けるために桜田相手の信用詐欺をダー子とリチャードに持ちかける。「僕はすっかり『すずや』の虜になって……」と話しているボクちゃんの目が、しっかり操に注がれているところが面白い。どう見ても操の虜になっている。

桜田の次の狙いはカジノを含む統合型(IR)リゾート開発だった。
血眼になって国土交通大臣を買収しようとしていた桜田に目をつけたダー子たちは、周到な罠を張り巡らせる。

大臣の秘書に化けたリチャードに桜田が「コンニャク程度です」と封筒を渡すが、これは政界の隠語で「100万円」のこと。昨年、森友学園問題の渦中にあった鴻池祥肇元防災担当大臣が記者会見で「カネであったかコンニャクであったか」と発言して話題を呼んだ。選挙カー内でのウグイス嬢へのセクハラも多く、2015年に「ウグイス嬢たちのセクハラ・パワハラレスキュー」という相談窓口が開設されると、1カ月半の間に31件もの相談が寄せられたという。

「今も……耳元で囁く声が……。『泣いてみ、ウグイス。
ホーホケキョと泣いてみぃ』って。……(号泣)」

ダー子のアドリブ、本当に最低だ……。

夕食ぬき=タヌキ


ダー子たちは神奈川県の真鶴をIRリゾート開発の候補地だと桜田に信じ込ませ、真鶴にある個人所有の無人島を5億円で買収させようとする。しかし、契約成立寸前に島の所有者に化けたボクちゃんの正体がバレてしまう! 危うし! ここでも「売れ残り」を意味する「お泊まり」と、「夕食抜きの客」を意味する「タヌキ」という2つの業界の隠語が使われていた。「タ」の字が「夕食」の「夕」の字に似ていることから「夕食ぬき=タヌキ」となった。

「この男はニセモノ! 詐欺師だったということです!」とダー子にあっさり見捨てられたときの東出昌大のマンガのようなリアクションがおかしい。その直前にシリアスな芝居を見せていたから落差がすごかった。


縛られて拳銃を突きつけられるボクちゃん。しかし、ご安心を。実は桜田が雇っていた裏社会の男・五十嵐(小手伸也)はダー子たちが派遣していた腕利きの詐欺師だった。ボクちゃんが会っていた本当の島の所有者(小野塚勇人)も五十嵐の手の者。なお、小手と小野塚は『仮面ライダーエグゼイド』で共演している。

桜田はまんまと5億円を騙し取られて、会社を追われることに。
一方、ボクちゃんが大金を持って駆けつけた「すずや」はというと……。しっかり桜田リゾートに買収されており、モダンで快適な宿に生まれ変わっていた! 女将の操は板前とデキており、さっさと旅館を売却してマイホームを建ててしまっていたのだ。

伝統と看板にあぐらをかいたまま、女将が従業員を「あの子たち」と呼ぶ『陸王』的な古き良き家族経営をあっさり否定する脚本が痛快。また、ホテル業・観光業に情熱を注いでいたのは、実は悪辣で強欲に見える桜田のほうだったということでもある。冒頭でダー子が言っていた「目に見えるものが真実とは限らない」という言葉のとおりだ。セクハラ疑惑やレビューサイトの星だって真実とは限らない。

ボクちゃんと視聴者が騙されるドラマ


今回もボクちゃんがダー子とリチャードに騙されて詐欺の片棒をかつがされるが、このパターンはこれからも続くのだろう。東出昌大は人を騙す役より人に騙される役がよく似合う。

で、ここが大切なポイントなのだが、ダー子とリチャードとボクちゃんの3人がターゲットを騙す手口は視聴者に明かされるが、ダー子とリチャードがボクちゃんを騙す手口は最後まで明かされない。

つまり、このドラマは主役の3人がターゲットを騙すドラマであるのと同時に、ダー子とリチャードがボクちゃんと視聴者を騙すドラマだという二重構造なのだ。ボクちゃんは視聴者に限りなく近いポジションにいる。我々視聴者もボクちゃんと一緒に気持ちよく騙されたい。

今夜放送の第3話のターゲットは女癖が悪い悪徳美術商の石黒賢。石黒は『正義のセ』の第1回でも部下を殴る蹴るするパワハラ上司役を演じていたが、今回はどんな非道な顔を見せてくれるのだろうか? 今夜9時から。
(大山くまお)