新宿駅の構内にて、30秒間のうちに4人の女性に「悪質タックル」をかますリュックサック姿の男性。そんな“ぶつかり男”の犯行現場をTwitterユーザーが撮影し、大きな波紋を広げています。
映像をご覧頂ければ分かるように、明らかに不自然な動きで女性にだけ近寄り、体当たりを繰り返している様子は実に卑劣です。

なぜ今更“ぶつかり男”が問題視されるのか?


ですが、新宿の“ぶつかり男”は氷山の一角に過ぎません。Twitterでも「いるよね!こういう人!本当に迷惑!」のような女性アカウントの投稿が多数見られましたが、“ぶつかり男”は痴漢と同様に結構な確率で出没しています。新宿の映像は様々なテレビのニュースで取り上げられ、JR東日本も異例警戒を敷きましたが、今更テレビのニュースに取り上げられ、鉄道会社が警戒を始めることが、あまりに遅過ぎるのです。

今回はたまたまTwitterユーザーが背後からその犯行現場を撮影することに成功したというだけで、犯行そのものに珍しさは微塵もありません。ところが、ニュースとともに「こんな酷いことをする人がいるなんて!」という声が上がるのを見ると、痴漢の問題と同様に、女性が感じている「治安の悪さ」や「日常に転がる怖い体験」を本当に知らない人(特に男性)が多い社会なのだなと、残念に思ってしまいます。

「日本は治安が良いな~」という趣旨の発言をする男性は少なくないですが、ビクビクしなければならない女性たちの横で、そのような発言をすることがいかに無神経かお分かりいただけるでしょうか? 治安の良さはあくまで成人男性に限った話であり、男女で感じる体感治安の違いはかなりの差があることは、もう常識として知っていなければなりません。


髪を伸ばすと増えるぶつかり被害


ちなみに、私は男性ということもあり、これまで“ぶつかり男”の被害に遭うことはほとんど無かったのですが、実は最近何度か被害に遭うことがありました。おそらく、下記の写真のように髪の毛が女性のセミロング程度に伸びているため、中性的な服装をしている際に、女性と間違えた可能性が高いのではないかと考えています。

もちろん顔の輪郭や喉仏や肩幅を見れば、明らかに男性だと分かるはずなのですが、どうやらそういう違いを見極める目が無い人が多いようで、たとえば男子トイレから出てきた私の顔を見て、「間違えた!」という表情をして女子トイレに入って行く人や、親切に「女子トイレは向こうですよ」と教えてくれる人も結構な確率で出現します…先月はたまたまテレビの仕事前に寄ったスーパー銭湯では、番頭に女湯を案内されたこともありました…

“ぶつかり男”が今さら話題になることがおかしい


話がやや逸れてしまいましたが、このように社会的に女性の特徴と見なされるオシャレを身に着けてみると、女性は男性からの暴力の危険に晒されているということが、如実に分かります。さらにそれらをふんだんに入れ込んで女装まですればより確実で、痴漢被害に遭った体験談がインターネット上にもいくつか転がっているくらいです。

女性限定のぶつかり行為は痴漢と同じ


それにしても、“ぶつかり男”たちは何故このような行為に及ぶのでしょうか?

「男性が相手だと弾き飛ばされる可能性や反撃に遭う可能性があるから、あえて女性だけを狙っているのではないか」と思う人もいるかもしれないですが、おそらく彼はぶつかり行為そのものがしたいわけではないはずです。本当に弾き飛ばしたいのであれば、男性の高齢者や子供でも良いわけですが、彼らはそのような人を対象にはしないのですから。

きっと女性が憎くて仕方ないミソジニー(女性嫌悪)をかなりこじらせているため、その鬱憤を晴らそうと、支配欲や征服欲を満たせるこのような行動に出るのではないかと思います。つまり、これは痴漢と同様にある種の「性加害依存」だと感じるのです。



日本社会は「性加害者インキュベーター」


ところが、現行法では罪に問えない可能性が高いようです。見つかっても、ただ注意を受けるだけ。そのため、ずっと野放し状態です。被害者は泣き寝入りをし続けなければなりません。

このような状況の一番の問題点は、加害欲求を持つ人が治療を受ける機会が無いことでしょう。性加害依存は多くの疾病と同様に早期発見と早期対処が肝心なのですが、残念ながら日本の犯罪予防政策にはそのような視点がまるっきり抜け落ちているため、社会の中でその加害性を大きく成長し続けてしまう傾向にあります。まるで「性加害者インキュベーター」です。


性加害者のケアを専門とする精神保健福祉士・斉藤章佳氏はその期間をおよそ7年~8年と言っていますが、放置する期間があまりに長期のため、一人の加害者が何百、何千、何万もの被害者を生む構造になっているわけです。これは構造上の欠陥に他なりません。

「ぶつかり罪は無い」ままで良いのか?


朝日新聞社WEBRONZAの記事『「セクハラ罪はない」ままで良いのか?』では、フランスでセクハラ罪が既に導入されている例や、フランスとオランダにおけるストリートハラスメント(ナンパ行為)へ罰金が導入される例にあげながら、日本でセクハラ罪が無いことを問題視しました。

これまで男社会だったために社会悪として可視化・認識されていなかった行為が、ジェンダー平等が進めば、その人権侵害性が注目されるようになり、犯罪化されます。この「故意にぶつかり続ける行為」も本来は治安を脅かす行為であるにもかかわらず、違法になっていないのは、やはり日本社会がまだジェンダー平等には程遠い現状にあることを示唆するものでしょう。

痴漢は早期に軽犯罪から重犯罪化へと格上げし、このような故意のぶつかり行為に関しても加害者にしっかりと罰を与えられる社会にすることが、皆が安心して暮らせるには必要不可欠です。

(勝部元気)