『プラハの古本屋』(中央公論新社)著者:千野 栄一Amazon |honto |その他の書店
現代最先端の言語学者というと、複雑な文法規則を数式のように操ったり、鳥やイルカと話をしようとしたり、とかく常人離れしたイメージがあるが、千野栄一氏(一九三二―二〇〇二)はまったく違っていた。こよなく本を愛して古本屋を漁(あさ)り、入手した珍しい本を極上の肴(さかな)として、ブルタバ(ドイツ名モルダウ)河畔でビールを飲む。
そう、千野氏が本の次に好きなのは、ビールを飲むことと、ビールを飲みながら友人と楽しく語らうことだった。

そんな著者の姿が鮮やかに浮かび上がってくる名エッセイ集の文庫化である。プラハを自分の庭のように知り尽くし、古書店の主人や愛書家たちと親交を結んだ体験に裏打ちされた軽妙な文章の数々が、読者を稀覯本(きこうぼん)の世界に誘う。その多くは『キエフ紙葉とプラハ断片の起源について』といった、普通人の理解を絶するものなのだが、千野マジックはそれがまるで世界で一番面白い本であるかのように思わせてくれる。

このデジタル時代、かび臭い紙の本なんてお呼びでない、と思っているそこのあなた。違うんだなあ。この本を読めば、本への愛は永遠だということがきっとわかる。

【書き手】
沼野 充義
1954年東京生まれ。東京大学卒、ハーバード大学スラヴ語学文学科に学ぶ。2020年7月現在、名古屋外国語大副学長。2002年、『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社)でサントリー学芸賞、2004年、『ユートピア文学論』(作品社)で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。著書に『屋根の上のバイリンガル』(白水社)、『ユートピアへの手紙』(河出書房新社)、訳書に『賜物』(河出書房新社)、『ナボコフ全短篇』(共訳、作品社)、スタニスワフ・レム『ソラリス』(国書刊行会)、シンボルスカ『終わりと始まり』(未知谷)など。


【初出メディア】
毎日新聞 2025年10月11日

【書誌情報】
プラハの古本屋著者:千野 栄一
出版社:中央公論新社
装丁:文庫(304ページ)
発売日:2025-08-21
ISBN-10:4122076935
ISBN-13:978-4122076938
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