◆寺子屋、藩校、入札、合議…維新前の世
薩長主役の強権政治=明治維新でなくてもよかった。江戸時代には豊かな民主主義の伝統があったから。
2013年に発足した「赤松小三郎(あかまつこさぶろう)研究会」が本書の発端だ。赤松は上田藩士、≪慶応三年に日本史上初めて議会制民主主義の政体構想を提案し、その実現のために奔走し…薩摩藩に暗殺され≫た。2024年、同会のシンポジウムで田中優子氏が講演し、関良基・橋本真吾両氏が報告したのを機会に本書が具体化。今回収録された三氏の座談会も内容が豊富だ。
第一章「江戸の教育」は、田中優子氏が寺子屋や藩校のユニークな教育法を紹介する。寺子屋の教員はほぼ無給のボランティアで、子どもを個別指導した。子どもはよく騒ぎ学級崩壊状態、それでも庶民の多くが読み書きや社会道徳を身につけた。藩校では学生同士が激論を交わし、村の寄合では全員が納得するまで議論を続ける。どれも民主主義の基礎になる。
第二章「江戸時代に民主主義を考えた人びと」は、関良基氏が民主的な政治的意思決定の伝統を紹介する。≪村役人を入札で選出する≫村々。
第三章「江戸後期の民主主義概念の輸入と受容」は、橋本真吾氏が蘭学のもたらした新知識を紹介する。朽木(くつき)昌綱『泰西輿地図説(たいせいよちずせつ)』は最新の世界地理書。幕府の蕃書和解御用(ばんしょわげごよう)は蘭書の翻訳を続け、青地林宗はリパブリックを共治国と訳し、アメリカ合衆国の政体を説明した。箕作(みつくり)省吾『坤輿図識(こんよずしき)』は幕末知識人の常識となった。
第四章「座談会」は本書のハイライトだ。田中/幕府は世界情勢の知識を重視し蘭書を集めた。関/幕末には蘭学者でない人も蘭書を読み始めた。田中/産業革命前は西洋が進んでいるという感覚はなかった。
歴史は後からみれば、一本道にみえる。でも本当は右か左か、歴史の分岐点の連続である。
【書き手】
橋爪 大三郎
社会学者。1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。執筆活動を経て、1989年より東工大に勤務。現在、東京工業大学名誉教授。著書に『仏教の言説戦略』(勁草書房)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『社会の不思議』(朝日出版社)など多数。
【初出メディア】
毎日新聞 2026年2月28日
【書誌情報】
江戸から見直す民主主義著者:田中 優子,関 良基,橋本 真吾
出版社:現代書館
装丁:単行本(208ページ)
発売日:2025-12-17
ISBN-10:4768459854
ISBN-13:978-4768459850