河﨑秋子氏の狩猟小説。
そう聞いただけで、いても立ってもいられなくなるのは私だけだろうか。
今度の舞台は現代である。主人公は、若い女性の新米ハンターだ。彼女の選択を通し、現在の狩猟をめぐる状況を垣間見ることのできる小説だ。温かいばかりではない周囲の視線を静かに跳ね返し、自分が決めた道を進んでいく主人公が眩しい青春小説でもある。
札幌在住の大学生・マチは、全国展開をしている製菓会社の創業者一族の生まれだ。クールな美貌と父譲りの長身を持ち、トレイルランの経験を生かして、元オリンピアンの母が経営するジムでインストラクターのアルバイトをしている。「前世でどんな徳を積んだのか」と問いたくなるタイプだが、そういう不躾な視線には慣れているようだ。女性からは羨望と嫉妬を、男性からは厄介な執着を向けられることもあるが、胸を張って堂々と歩く強さを持つ女性である。
狩猟に興味を持ったのは、アウトドア趣味の恋人の家で見た雑誌がきっかけだ。大学生の娘が「ハンターになりたい」と言い出せば、驚いたり反対したくなる親の方が多いのではないかと思うが、マチの両親は違う。
「撃たれて死んで肉にされて食べられる動物にとっては、撃った人が男か女かなんて関係ないんだって。お金があるかないか、性格がいいか悪いか、そんなの関係ないんだって」
自分から離れていこうとする親友にそう伝えたマチは、免許を取得し散弾銃を手に入れる。さまざまなハンターたちと共に猟をし、苦い経験も重ねて単独でも行動するようになり、ついに人を襲った熊と対峙する日がやってくる。
登場するハンターたちの個性が魅力的だ。若い世代を育てようとする師匠の新田は頼もしく、半農半猟で暮らすベテランハンターのアヤばあは、豊富な経験と温かい人柄でマチを助けてくれる。若い女性であるマチが狩猟をすることに侮蔑の目を向けてくる勇吾は、ムカつく性格ではあるが、クマ撃ちにこだわる興味深い人物だ。
命と命が対峙する場面には、全身をどこかに持っていかれるような緊張感と迫力がある。
(高頭佐和子)