BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2026」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、森バジル(もり・ばじる)著『探偵小石は恋しない』です。
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「本屋大賞2026」ノミネート以外に、ミステリを愛する人が今年おすすめしたいと思った作品を選ぶ「メフィストリーダーズクラブ大賞2025」で第1位に選ばれている『探偵小石は恋しない』。ライトノベルのようなエンタメ感あふれる文章と、予想を裏切る本格推理の要素が読む人の心をとらえています。
小石探偵事務所の代表の「小石」は大のミステリオタク。名探偵のように華麗な推理で難事件を解決することを夢見ているものの、実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼ばかりです。小石が色恋調査を得意とするのには理由があり、それは「恋情が見える」という特殊能力を持っているから。恋している人間の胸元から、恋されている人間の胸元へと突き刺さる赤色の矢印が見えるというのです。
あるときはお嬢様高校生・佐藤 澪の父親から彼氏の素行調査、あるときは日暮最人という男性から内縁の妻に対する不倫調査、あるときは君塚泰我という男性から「妻に脅迫状を出した相手の尾行と張り込みをしてほしい」という調査の依頼が持ち込まれ、小石と相談員(兼調査員)の蓮杖は仕事に繰り出します。しかし、それぞれの事案は独立しているようでありながら、実はその裏では思いもよらない大きな事件へとつながっていたのでした――。
まず、探偵・小石のキャラクターがとっても魅力的。自分は誰にも恋をしない冷めた性質でありながら、特殊能力のせいで色恋調査にずば抜けた能力を発揮するという設定がユニークです。そんな小石をはじめ、小石にボヤきながらもサポート役に徹する蓮杖、小石探偵事務所のアルバイトであり、脳科学専攻の大学院生でもあるギャル風の見た目をした雛未、小石探偵事務所に出入りする生活安全課の警察官・片矢など、個性的なメンツぞろい。
小石と周りの人物たちが織り成すポップな探偵モノかと思いきや、後半はそれまでと打って変わって二転三転する衝撃的な展開が続き、ラスト1ページまで気を抜くことができません。
「オチを記憶から消してもう一度最初から読みたい!」と思ってしまう読書体験。本書はミステリ好きな人にも恋愛小説好きな人にも刺さる、異色の探偵小説だと言えるでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]