印象的なのは、その目だ。

2021年4月9日、新宿ピカデリー他にて公開された映画『砕け散るところを見せてあげる』の主人公・清澄を演じた中川大志(石井杏奈とのW主演)。
2018年に撮影され、新型肺炎ウイルスの影響で公開が遅れた本作を待ち望んでいたファンも多いのではないだろうか。

公開舞台挨拶が行われると聞き、筆者も喜び勇んで参加した。中川大志演じる清澄には不思議な圧があり、勢いがあり、有無を言わせぬ熱量がありーーそれはどこからどう見ても、紛うことなくヒーローなのだった。鍵になるのは、その目だ。スクリーンの力に圧倒されながら、あらためて中川大志という俳優の魅力について考えざるを得なかった。


--{『砕け散るところを見せてあげる』清澄はどこまでもヒーローだった}--

『砕け散るところを見せてあげる』清澄はどこまでもヒーローだった

「好青年役」から脱皮しつつある?あらためて確認しておきたい俳優・中川大志の魅力


2016年に刊行された竹宮ゆゆこの小説「砕け散るところを見せてあげる」を映像化した本作。男子高校生である主人公・清澄は特別に熱血漢というわけではないけれど、困った人や悲しんでいる人を見たら放っておけない性質だった。


全校集会に遅刻してしまった高3の清澄。急いで入った体育館ではすでに校長の話が始まっていて、彼は仕方なく最後列にいる1年生の列に紛れ込む。そこで、おかしな光景を見た。とある1年女子に向かって、紙くずや消しゴムが投げつけられている。教師の目を盗みながら、くすくすと気づかれない音量の笑い声を立てながら、確実に投げつけられている悪意。彼女は黙ってうつむきながら、耐えていた。


集会が終わり、自身に投げつけられたゴミを拾っている彼女に向かって、清澄は手を差し伸べる。しかし、彼女はなぜか盛大な拒否の姿勢を示すーー助けようとしたにも関わらず無下に扱われる自身を慰めながらも、清澄は彼女の力になりたいと行動するのを止めない。

中川大志演じる清澄は、決して熱血漢ではない。「目の前で困ってるんだから、放っておけるわけないだろう!」と声高に言って、正義感をアピールするタイプではない。ごくごく普通の男子高校生なのだ。陰湿ないじめを受けている年下女子を積極的に助けに行く、その行動は決して普通ではなくとも、清澄がやっていると人として当たり前のことのように思えてくる。
そのバランス感覚が絶妙なのだ。

理由は「相手をしっかり見ようとしている目」にあった

なぜなのかを考えていた。映画『砕け散るところを見せてあげる』を観ながら、このバランス感覚はどこから滲み出てくるものなのだろうと考え続けていた。

理由は、目だ。中川大志の目には、主観と客観の両方を備えた力がある。

「好青年役」から脱皮しつつある?あらためて確認しておきたい俳優・中川大志の魅力


ネタバレを避けるため詳述は避けるが、映画『砕け散るところを見せてあげる』作中には、中川大志演じる清澄が石井杏奈演じる玻璃(いじめられている1年女子)に向かって「ヒーローの変身ポーズをやってみせる」シーンがある。

ヒーローとはなんたるか、その三か条を唱えながら、夜の商店街のど真ん中で披露された渾身の変身ポーズ。
なんとかして玻璃を笑わせてあげたい、一瞬でもいいからつらいことを忘れさせてやりたいと願いながら「変・身!」と叫ぶ清澄の目には、主観と客観があった。

「玻璃に笑顔でいてほしい」「笑ってくれるだろうか」と願う主観。
「自分は彼女に対して何ができるのか」と観察する客観。

どこか非日常感もただようこの作品がファンタジーで終わらなかったのは、現実的な力を持たない高校生ふたりを取り巻く「大人の視点」がしっかり描かれていたのも理由のひとつではある。しかしもうひとつの理由は、清澄自身が自分のやっていることに酔うことなく、どこまでも客観性を持って状況を観察する「目」を持っていたからではないか。

その目は、自分だけではなく、相手である玻璃をしっかり見据えていた。
このバランス感覚がなければ、ただ恋に落ちたふたりが空想に浸るだけの話になってしまっていただろう。中川大志の演技の妙味は、ここにある気がしてならない。

--{振り返る「家政婦のミタ」阿須田家の長男役}--

振り返る「家政婦のミタ」阿須田家の長男役

ここで、中川大志のルーツをあらためて振り返りたい。

小学5年生の頃、父親と原宿で買い物をしていたら事務所関係者にスカウトされ、それをきっかけに芸能界入りした中川大志。やはり彼の名を広く知らしめることになったのは、ドラマ「家政婦のミタ」だろう。

「好青年役」から脱皮しつつある?あらためて確認しておきたい俳優・中川大志の魅力


松嶋菜々子主演、長谷川博己や相武紗季も出演していた本ドラマにおいて、中川大志は阿須田家の長男役を見事に演じきった。頼まれたことはたとえ殺人でもやってしまうという、笑うことを放棄した不可思議な家政婦・三田を迎え入れるところから物語は始まる。
テーマ自体がセンセーショナルで、最終回の視聴率は40%を超えたというのも納得だ。

当時13歳だった中川大志。自分自身も思春期に片足を突っ込んだ時期で、不安定な心境を抱えることもあったのではと想像するが、撮影当初のことを振り返る彼は実にさっぱりとしている。「たくさんのカメラがあって、たくさんの大人がいて、その環境自体が新鮮でとても楽しかった覚えがある。まるで習い事に行くような感覚だった」と別取材にて語った。演技そのものも含め、現場を楽しむ精神はこの頃から培われていたようだ。

演技に対してストイックである傍ら、「現場は楽しまないとならない」考えを少しずつ強くしていく。2020年にハリウッド実写映画化された『ソニック・ザ・ムービー』において、主人公・ソニックの日本語吹き替えを担当した際のインタビューでも「いつも現場が楽しい、辞めたいと思ったことはこれまで一度もない」と語った。役者が心から楽しんでこそ、良い空気が生まれ良い演技に繋がる。仕事に対して誠実に向き合ってきたからこそ、楽しむことの重要性を肌身に刷り込んできたのだろう。

「好青年役」「イケメンキャラ」が多かった2018~2020年

ドラマ「家政婦のミタ」で子役ながらも一俳優として名が知られることとなり、その後「GTO」や「夜行観覧車」「南くんの恋人~my little lover」「重版出来!」などで着実にキャリアを醸成させてきた。脇役はもちろんのこと主役を務めることも多くなる。2021年4月現在22歳の彼が「まだ22歳だったの!?」と思われるのも当然のことかもしれない。

19歳~20歳にかけて増えてきたのは、いわゆる「好青年役」「イケメンキャラ」だ。ドラマ「覚悟はいいかそこの女子。」「G線上のあなたと私」「親バカ青春白書」をはじめ、映画『きょうのキラ君』『ReLIFE リライフ』『虹色デイズ』では総じて”爽やかな好青年役”や”キラキラしたイケメンキャラ”を演じた。2020年頃までの中川大志が演じてきた役柄を振り返ってみると、観る人をキュンキュンさせる位置づけが多かったと思う。

「好青年役」から脱皮しつつある?あらためて確認しておきたい俳優・中川大志の魅力


とりわけ筆者が共有したいのは、ドラマ「G線上のあなたと私」で演じた理人役の”シャッタードン”事件である。あれはまさに事件であった。配信サービスTELASAで見放題視聴できるため、暇さえあれば繰り返し観ている(※配信日時は2021年8月31日までなのでご注意を!)。最初はツンしかなかった理人が少しずつ心をひらいてくれる様は、ベタだけどやっぱりキュンとくる……。年下男子によりもたらされる潤いが欲しい方にはぜひおすすめしたい。アラサー世代におすすめのドラマである。

「好青年役」「イケメンキャラ」が多かった中川大志だが、2021年公開作&公開待機作をみてみると、何やら様子が違うようなのだ。

--{公開予定映画が4作!これからの中川大志}--

公開予定映画が4作!これからの中川大志

「好青年役」から脱皮しつつある?あらためて確認しておきたい俳優・中川大志の魅力


2021年に公開される映画は『砕け散るところを見せてあげる』(4/9公開)『FUNNY BUNNY』(4/29公開)『都会のトム&ソーヤ』(7/30公開予定)『犬部!』(2021年公開予定)の4作。

『砕け散るところを見せてあげる』の清澄役については冒頭のとおりだが、4/29公開予定の『FUNNY BUNNY』で演じる剣持聡役は、とくにこれまでとは一味違う。

ウサギの被り物をして夜の図書館を襲うところから物語が始まる予告映像を観る限り、一風変わった男だ。「好青年」らしい爽やかさでもなければ、「イケメンキャラ」らしいキラキラ加減でもない。『砕け散るところを見せてあげる』の清澄がライトヒーローだとしたら、『FUNNY BUNNY』の剣持聡はダークヒーローといったところか。

その他『都会のトム&ソーヤ』と『犬部!』の2作が公開待機している。それぞれの作品で、それぞれの違った表情を見せてくれると思うと楽しみでならない。23歳になる年、ひとりの人としても俳優としてもいくらでも変化が待っているだろう。ファンの一員として、その変化を少しでもキャッチしたいと願ってやまない今日である。

2021年4月29日公開映画『FUNNY BUNNY』について、独占インタビューが実現した。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

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(文:北村有)