大久保の選出はまさにサプライズだった(C)Getty Images

 1998年フランス大会から2022年カタール大会まで過去7回のワールドカップ(W杯)に参戦している日本代表。長い歴史の中には、98年のカズ(三浦知良=福島)、2002年日韓大会の中村俊輔(日本代表コーチ)のような大物落選もあれば、ラスト1枠に滑り込んだ幸運な人間がいたのも確かだ。

【関連記事】日本が揺れた“衝撃の落選” 98年・02年W杯…カズ、中村俊輔が外れた「メンバー発表の舞台裏」

 その筆頭が、2006年ドイツW杯にサプライズ選出された巻誠一郎だろう。

「ヤナギサワ(柳沢敦=鹿島コーチ)、タマダ(玉田圭司=名古屋コーチ)、マキ」

 2006年5月15日のメンバー発表会見でジーコ監督が口にしたこのフレーズを覚えているサッカーファンも少なくないはずだ。

「マキ(巻)は昨年あたりから所属クラブで顕著な活躍を見せるようになり、特に今年から出る試合でフィジカルの強さ、それを裏付けるコンディションのよさを発揮した。ペナルティエリア内での仕事もできる本来のFWの資質を代表戦で出してくれた。それが理由だ。今のレベルを維持していけばかなりやるだろう」と最初の質問に対し、ジーコは目を輝かせながら回答したのだ。

 ご存じの通り、当時の巻はイビチャ・オシム監督率いるジェフユナイテッド千葉のエースとして頭角を現しつつあった。が、日本代表経験は2005年東アジア選手権・北朝鮮戦の初キャップからまだ10試合足らず。実績で勝っていた久保竜彦の選出が有力と見られていたが、最終的には巻が最後の1枠を勝ち取った格好だ。

「本当にクボは素晴らしい選手だし、この数年間見てきて、彼のプレーには興味を持っていたし、大好きだった。しかし、今のサッカーで自分のよさを生かすためにはフィジカルコンディションがよくないと難しい。腰、ヒザ、足首を問題を抱えていて、彼は完璧なコンディションではない。

いろいろ考え抜いた結果、こうなった」と指揮官は久保落選の背景を説明。コンディション重視という考え方を示したことはポジティブだった。

 だが、そのコンディション調整に失敗して本大会で惨敗したのは大いに悔やまれること。日本代表は大会直前から大会中までずっとボンを動かずに合宿していたが、練習がフルオープンだったこともあり、選手たちがサッカーに集中することが十分にできなかった。

 加えて言うと、5月末から6月にかけてドイツは真冬のような寒さに見舞われたのに、6月12日の初戦・オーストラリア戦(カイザースラウテルン)と18日のクロアチア戦はいずれも15時キックオフの猛暑で、選手たちは明らかに疲弊。特に初戦では終盤に3失点しているが、これもコンディショニングのミスだと言われた。

 サプライズ選出の巻自身も最後のブラジル戦(ドルトムント)に出ただけで、1-4で完敗。巻はその後のオシムジャパンでエース級に成長したが、W杯出場はこの1回だけ。本人にとっては悔しさの残るドイツW杯参戦だったかもしれない。

W杯メンバー発表はなぜドラマになるのか 巻、川口、大久保…日本代表「ラスト1枠」をつかんだ男たち

巻にとっては悔しさの残るW杯だったかもしれない(C)産経新聞社

 続いてラスト1枠を射止めたのが、2010年南アフリカW杯の川口。GK3枠のうち、楢崎正剛(名古屋GKコーチ)、川島永嗣(磐田)に続く3人目として岡田武史監督(現FC今治代表取締役会長)から呼ばれた大ベテランは半年以上、Jリーグの公式戦から遠ざかっていたため、大きなサプライズ以外の何物でもなかったからだ。

「川口には昨日電話をして、『第3GKをやってくれるか』と聞いた。

本人は『力になれるなら』と快諾してくれた。すでに練習試合をしていて、プレーも元に戻っている。代表合流時には普通のプレーができるという判断で呼んだ。チームにおける存在感があり、若手を引っ張る力が彼にはある。チームキャプテンもしていた選手なんで期待している」と指揮官はコメント。2月の東アジア選手権など、直前の強化試合で結果が出ておらず、不安視されていたチームのまとめ役に指名したのである。

 大ベテランはピッチに立つ機会はなかったものの、揺れ動くチームを確実に統率した。直前キャンプ地・ザースフェーで超守備的戦術にシフトした時も、川口が意見を集約して岡田監督に伝え、方向性を統一させた。

 長谷部誠(日本代表コーチ)がゲームキャプテンに指名された時も、前任主将の中澤佑二(解説者)との間に立って意思疎通を図り、チーム全体が円滑に進むように努めた。指揮官が見込んだ通り、川口はチームの力になった。そういう意味で、南アW杯時のラスト1枠の価値は大きかったと言える。

 もう1人、印象深いサプライズ選出は2014年ブラジルW杯の大久保嘉人。

「今回選んだ選手全員には、それぞれの特徴を出してほしいと思っており、オオクボにもそれを出してほしい。彼は経験があり、クオリティが高く、30歳を越えているが、フィジカルも衰えていない。相手に読まれない動きという、意外性も持っている。私が就任した当初はケガに悩まされていたというイメージがあるが、ここ1年半の彼のプレーは素晴らしいものがある。期待しているのは、彼の経験、クオリティ、意外性だ」とアルベルト・ザッケローニ監督は5月12日のメンバー発表会見で語ったが、大久保が入るかどうかはギリギリのところまで分からなかった。

 実際、大久保がブラジルW杯前に代表入りしたのは2012年2月のアイスランド戦(長居)。ザックジャパンで招集されたのはその1回だけだった。当時は「メンバー発表リストが配られなくてもスタメンが分かる」と言われていたほど、指揮官のメンバー固定は顕著だった。グループに入っていない人材がW杯に行くというのは考えられなかったのだ。

 吉田麻也(LAギャラクシー)が当時「嘉人さんが入ったら、いい意味でチームを壊してくれる」と前向きに話したことがあったが、ザック監督もそう考えて抜擢したのかもしれない。

 6月19日の第2戦・ギリシャ戦(ナタル)を筆頭に、本当に劇的な効果を表しそうな雰囲気もあったが、大久保は惜しいチャンスをモノにできなかった。「嘉人さんが入ったことで、それまでとは違う戦いになった」と話す選手もいて、もう少し早い段階でグループに入れていたらよかったという意見があり、サプライズ選出の難しさを痛感させたところもあった。

 巻と川口、大久保の選出から森保一監督から学んだことはいくつもあるはず。「グループの一体感」を何よりも重んじる現指揮官が、2026年北中米W杯で未招集、あるいは最近呼んでいない選手を呼ぶ可能性は極めて低そうだ。

[取材·文:元川悦子]

編集部おすすめ