パドレス戦で桁違いの活躍を見せた大谷(C)Getty Images

限界だった大谷の「超人」ぶり

「投げ心地がそんなに良くなかったので、やっぱり、自分の中のパフォーマンスレベルとして、高いものが出せるかどうかっていうのが、一番しっくりきてなかった」

 現地時間5月20日、敵地で行われたパドレス戦。「1番・投手兼指名打者」で先発登板をした大谷翔平(ドジャース)は、マウンド上で感じていた“不安”を語った。状態の悪さは、4月22日以来の“投打リアル二刀流”でのプレーを後押ししたデーブ・ロバーツ監督も「限界だった」と指摘するように、誰の目にも明らかだった。

【動画】これは投手の打球ではない 二刀流復活!大谷の先頭打者アーチシーン

 決して満足のいく状態ではない。それでも強打のパドレス打線を無失点に抑えてしまうのが、今季の「投手・大谷」だ。無論、打ち損じもあった相手の拙攻が影響したにせよ、5回(88球)、被安打3、4奪三振、無失点で勝利投手となったのは流石。加えて、打者として先頭打者アーチも放った。まさに超人ぶりは発揮された。

 もっとも、今季の大谷は、とくに投手として、これまで以上に傑出した状態にあると言っても過言ではない。開幕から8登板(49.0イニング)を消化しての防御率は0.73。さらにWHIP0.84、被打率.163、奪取した空振り率32.3%と、ほぼ“無双状態”と言っていい。これだけの成績を、打率.273、8本塁打、出塁率.399、長打率.486、OPS.885の強打者が残していると考えると、もはや末恐ろしさすらある。

 いわゆる「現代野球」が始まったとされる1921年以降のMLBの歴史において、防御率0点台を残した投手は一人もいない。歴代最少は1968年にカージナルスの大エースだったボブ・ギブソンの残した1.12。ちなみに同年のギブソンは、304.2イニングを投げており、どれだけ圧倒的であったかは一目瞭然である。

 当然、レギュラーシーズンが進んでいく中で、さしもの超人・大谷と言えども、疲労の蓄積は想像に難くない。このパドレス戦が紙一重だったようにコンディションが乱れれば、「打たれない」という保証はない。とはいえ、あらゆる不可能を可能にしてきた天才なら、防御率ゼロ点台も夢物語ではないかもしれないという期待感はある。

異次元の防御率ゼロ点台はなぜ持続? 桁違いの活躍を生む至高の技術 元MLB選手が分析する“投手・大谷”の真髄「球種の球速を操るのがとんでもなく巧い」

大谷が戦うのは、相手だけでなく、想像を絶する投打二刀流の負担とも格闘が続いている(C)Getty Images

大谷が見せる技術面での“変化”

 ではなぜ、今季の「投手・大谷」は安定して抑え続けられるのか。すでに様々な見解が示される中で、興味深い意見で切り込んだのは、元MLB投手のアダム・オッタビーノ氏だ。

 現役時代にヤンキースやレッドソックスなど計5球団を渡り歩き、MLB通算195ホールドをマークした40歳の名投手は、MLB公式ネット局『MLB Network』の番組内において「今年のショウヘイはマウンド上での闘争心が本当に最上位クラスにある。明確な目標を持っていて、その達成に本気なって取り組んでいる」と指摘。桁違いの活躍を生んでいる集中力を称えた上で、技術面での“変化”に言及した。

「投球技術で言えば、球種自体は大きな変わりはない。ただ、全ての球種の球速を操るのがとんでもなく上手いんだ。たとえば、スイーパーなら80マイル(約128.7キロ)から88マイル(約141.1キロ)まで幅があるし、速球も94マイル(約151.2キロ)から100マイル(約160.9キロ)までほとんど自在に投げられる。つまり、彼は自分の投球の中に層を作っている感じなんだ」

 打者からすれば、同じ真っすぐでも球速差が生じれば、当然ながらボールの見え方は変わる。

それが極端なものになればなるほど戸惑いは生じる。大谷はコントロールミスさえしなければ、打ち損じをさせる機会が増えるというわけである。

 投球の微妙な変化を作り出せる大谷の至高の技術力。そのレベルの高さを掘り下げるオッタビーノ氏は、「打者として打席に立つ経験が活きているんだと思う」と指摘。球界で唯一無二の二刀流がマウンド上でのアプローチ改革に繋がっていると分析した。

 では、大谷はこの先も抑え続けられるのか。防御率ゼロ点台の歴史的快投を続ける天才の今後をオッタビーノ氏は、次のように見据えた。

「普通に中5日で投げていくことも、かなりの負担がかかる。まして彼は本来ならリカバリーに充てるべき投げない日に打線の中心にいなければいけないからね。自身の中では、毎年それを続けていく準備が出来ているんだと思うけど、やはりどれだけ上手く休めるかがプラスにならない理由はない。休養日は長い目で見れば、必ず彼の助けになる。そうすれば、良い数字は出しつ付けられるはずだ」

 今まさに“無双”状態にある「投手・大谷」。

仮にハイパフォーマンスが続き、怪腕ギブソンが残した偉大なる数字を超える日が来れば、一部で論争が展開されているサイ・ヤング賞の行方も異論の余地なくなるはずである。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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