かつてラブコメのプリンスとして数々の映画に出演し、世界中をメロメロにしてきたヒュー・グラントも、今や60歳。一時はキャリアが低迷し、パニック障害に苦しんだことで、引退説も浮上したが、近年また評価が高まっている。
【写真】ヒュー・グラント 逮捕ショットや元カノ・現在の妻との2ショットなど
■普通の家庭出身・奨学金で大学へ
ヒューは、1960年ロンドン生まれの60歳。名門大学オックスフォードの出身で、在学中に映画『オックスフォード・ラヴ』(1982)でデビュー。1987年の『モーリス』で鮮烈な印象を与え、ヴェネツィア国際映画祭男優賞を受賞した。出身校や、定番の役どころがリッチでハンサム(だけどダメ男)である事も手伝って、高貴なご出自かと思いきや、実は普通の家庭の出身。私立校と大学へは奨学金を得て進学し、初めて収入を得たのはパブのトイレ掃除だという。金持ちや特権階級の出身でないから、お金の大切さがわかると話している。
その後リチャード・カーティスが脚本を手掛けた『フォー・ウェディング』(1994)で大ブレイクし、ラブコメの帝王の名を欲しいままにする。翌1995年には、出演作が5本(うち3本が主演)も公開されているから、その人気ぶりが知れる。カーティスとはこの後、『ノッティングヒルの恋人』、『ブリジット・ジョーンズの日記』2作、『ラブ・アクチュアリー』でタッグを組み、互いに名声を高めた。
■ハチャメチャすぎるプライベート
その裏で、プライベートが取り沙汰されることもしばしば。1995年、『9か月』のプロモーションのため渡米していたヒューは、公道に停めた車中で売春婦とわいせつ行為をしていたのが見つかり、あえなく逮捕。
■ほとんどの共演女優と不仲!?
また、スクリーンの中でロマンスを繰り広げた共演女優との関係も面白い。本人いわく、『9か月』で共演したジュリアン・ムーアは、才能あふれる女優だけれど、「僕の事をひどく嫌ってる」という。予定外の子どもを授かったカップルを描くラブコメなのに、公開直前に起こしたスキャンダルを考えると、当然と言えば当然。また『アバウト・ア・ボーイ』のレイチェル・ワイズは、賢くて美しいが、ヒューのことは軽蔑しており、『ラブソングができるまで』のドリュー・バリモアに至っては、「魅力的な映画スターの顔立ち」というものの、泣かせてしまい嫌われているそうだ。これらはあくまでもヒューの談。
その中で、『ブリジット・ジョーンズ』のレネー・ゼルウィガーは、険悪にならなかった数少ない女優だそう。長文メールを交わす仲で、『ジュディ 虹の彼方に』でレネーが英国アカデミー賞を受賞した際は、舞台袖でハグ! その後プレゼンターとして登壇すると、「まず最初に…ジョーンズよくやった。
順風満帆、無敵にも思えたヒューのキャリアも、その後暗雲が立ち込める。『ラブソングができるまで』(2007)の頃から出演作が激減し、続く『噂のモーガン夫妻』(2009)の興行的失敗が決定打に。また、時期を同じくして、『ノッティングヒルの恋人』(1999)の撮影中に初めて見舞われたという、パニック障害の症状が悪化。『ラブソングができるまで』は抗不安薬を服用しながら撮影に挑んだと明かしている。
露出の激減とパニック障害の報道もあって、一時は俳優引退がささやかれたが、実際は仕事が減ったというのが内情だったよう。態度の悪さが原因でオファーが来なくなったと話しており、「あの時、僕がハリウッドを見限ったのではなく、ハリウッドが僕を見限ったんだ」「高額ギャラをもらう主演男優の日々は一夜にして消え去った。若干キマリが悪かったけど、ほかのことをする自由な時間ができた」と後に振り返っている。
■私生活では5児の父に
自由な時間ができたことで、充実したのがプライベートだ。ラブコメの役柄と同じく、モテモテの独身貴族がパブリックイメージだったヒューだが、2011年、中国人女優ティンラン・ホンとの間に長女タビサちゃんが誕生。中国名を「うれしいサプライズ」という意味のシャオシーといい、トーク番組で嬉々として「シャオシー!」と叫んでいたのには驚いた。
続けて翌年、当時恋人だったアナ・エリザベット・エーベルシュタインとの間に、長男ジョンくんが誕生。さらに同年、ティンランとの間にも男の子が誕生しているから、少なくともこの頃まではハチャメチャぶりは健在だった。
そんなヒューも、アナとの間にさらに2人の子どもを授かり、2018年には地元の役所にてついに結婚。2つの家族は近所に居を構えており、ヒューは意外にも父親業を楽しんでいる様子。ツイッターには、子どもと一緒に遊んでいることをうかがわせる投稿もアップされている。
■プライベートの変化がキャリアにも好影響
プライベートの充実は、仕事の面でも良い影響を及ぼしているようだ。2016年に公開された『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』では、名優メリル・ストリープの夫を演じ、『アバウト・ア・ボーイ』以来14年ぶりにゴールデングローブ賞にノミネート。役柄の幅も広がり、ゴールデングローブ賞のほかエミー賞にもノミネートされた『英国スキャンダル ~セックスと陰謀のソープ事件』(2018)では、七三分けスタイルで、保身のためにゲイの恋人暗殺を画策する政治家を好演。『パディントン2』では、ヒュー本人を思わせる落ちぶれた俳優役で(実際に彼を念頭に書かれた)、ハゲ頭や女装など七変化を見せている。実際、“ここ10年で俳優として良くなったけどなぜ?”と人に聞かれるそうで、子どもが出来たせいかもしれない、と話している。
現在放送中のドラマ『フレイザー家の秘密』(BS10スターチャンネル)では、ニコール・キッドマン演じる臨床心理士グレイスの夫で、医師のジョナサンを演じる。息子の通う私立校の保護者が殺され、同時にジョナサンは失踪。
ラブコメのプリンスと呼ばれた時代の数々の役柄も、実は入念な役作りの上に演じていたヒュー。当時の過小評価には歯ぎしりしたというが、波乱万丈を経て60代になり、彼の演技派としての可能性はますます広がっている。(文・寺井多恵)