北朝鮮が韓国を「敵対国家」と規定する中、生涯にわたって体制宣伝の前面に立たされてきた朝鮮戦争(1950年~53年に休戦)の退役老兵たちが、従来の朝鮮戦争に関する公式史観と現在の対韓国路線が矛盾しているとの趣旨の不満を漏らし、その家族が当局から警告を受けたという。

咸鏡南道の消息筋は21日、韓国デイリーNK に対し、「咸興市のある地区の戦争老兵たちが最近、住民らに『韓国がもはや同じ民族ではなく敵対国だというなら、これまで学生たちに説明してきた祖国解放戦争の話はどうなるのか』という趣旨の発言をした」とし、「その後、当該老兵たちの家族が地元当局に呼び出され、警告を受けた」と伝えた。

北朝鮮はこれまで、朝鮮戦争を「米帝と傀儡集団から南朝鮮(韓国)人民を解放するための戦争」、いわゆる「祖国解放戦争」と規定し、学校などでもそのように教育してきた。朝鮮戦争に動員された老兵たちは、各種講演や思想教育事業で、こうした公式史観を基に自ら体験した戦争当時の状況を説明し、若い世代に「愛国心」を植え付ける宣伝活動に積極的に動員されてきた。

しかし、金正恩総書記が南北関係を「敵対的な二つの国家関係」と規定して以降、「同じ民族」という概念を消し去る動きが国家的に進み、体制の核心的な宣伝道具だった老兵たちの間ですら混乱と不満が広がっているという。

消息筋によると、咸興市のある老兵は、住民が集まった公開の場で「我々は米国の支配下で苦しむ南朝鮮を解放するという思いで戦った。同じ民族ではないというなら、我々はいったい何のために戦ったのか」と、虚脱感と不満をあらわにした。また別の高齢の老兵も、「韓国が完全に別の国だなんて、白々しいにもほどがある」と、自嘲混じりの批判を公然と口にしたという。

結局、問題の発言をした老兵たちの家族が当局に呼び出され、「行動を慎ませろ」「外で余計なことを言わせるな」と警告を受けたとされる。当局は象徴的存在である老兵を直接処罰するのではなく、子どもたちに圧力をかける形で、内部の動揺につながりかねない老兵たちの口封じに乗り出した格好だ。

消息筋は「老兵たちは自分が実際に感じたことをそのまま口にしただけだ。しかし、その程度の発言で彼らを収監するわけにもいかず、結局は子どもたちが呼び出されて苦境に立たされた」とし、「老兵の子どもたちは、再び問題を起こせば刑務所送りになるかもしれないと不安を抱き、親が外で余計な発言をしないよう強く釘を刺している」と語った。

これは、北朝鮮当局が長年積み上げてきた「民族解放」の叙事と、現在の強硬な「敵対的二国家論」との間に大きな隔たりが存在し、内部でもイデオロギー的混乱が生じていることを示唆していると言える。

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