『週刊ダイヤモンド』5月28日号の第1特集は「儲かる農業2022」です。肥料などの価格高騰により、農家の大離農時代がやってきました。
118JAが赤字転落か、金融依存の危うい経営
農協の大淘汰時代がやって来た。ダイヤモンド編集部の独自試算で、対象農協の「4分の1」に当たる118農協(JA)が赤字になることが分かった。農協の経営の危うさを徹底解明する。
農協幹部たちが組合員に黙して語らない“マル秘の試算結果”がある。農協は金融事業への依存から脱却し、農業関連事業で利益を出すための計画を定めるよう政府から求められている。実は、計画作成のために内々に行った損益試算で、多くの農協が「5年後に赤字に転落する」との結果が出ているのだ。
ある農協幹部は「金融機関である農協が赤字の試算を公表するわけにはいかない。試算は何も手を打たなかった場合の“成り行き”のものだ。
そこで、ダイヤモンド編集部は農協がひた隠しにしている5年後の損益試算をできるだけそれに近い形で再現した。
JA赤字危険度ランキング首位は京都にのくに減益想定額ワースト1位は山口県、2位は晴れの国岡山
減益要因は大きく二つある。一つ目が信用事業(銀行業務)における農林中央金庫からの運用益の還元(奨励金)の減額。二つ目が共済事業(保険業務)の縮小である。日本銀行によるマイナス金利政策の影響で2018年度以降、金融2事業の収益は急速に悪化している。
信用事業と共済事業という二つの稼ぎ頭を失うインパクトは甚大だ。25年度の両事業の減益想定額は最大19億円(JA山口県)に達した。
ダイヤモンド編集部は過去にも農協の財務データから減益額を割り出す試算を行っているが、今回の特徴は共済事業の減益額が大きくなっていることだ。前出のJA山口県の減益額の内訳は、信用事業6億円に対して共済事業13億円である。
共済事業の損益が悪化する理由は、保険加入者の高齢化で収益の減少が続くとみられるからだ(計算上では、前年度比の減益率〈試算では3.5%〉がマイナスの複利効果で増幅する)。全国の農協の共済事業の粗利(共済事業総利益)は19年度に前年度比4.6%減、20年度に同3.8%減となっており、試算で採用した減益率3.5%は悲観的とはいえない。
おまけに農協では共済のノルマ推進で不適切販売が多発している。この問題を是正するため事業推進のペースを落とさざるを得ないことを踏まえれば、減益額が試算より膨らむ可能性も否定できない。
損益試算で算出した金融部門の減益額で、25年度の税引き前利益をはじき出したところ、試算対象510JAの「4分の1」に相当する、118JAが赤字に転落した。
ただ、これらの試算結果は、農協の未来を楽観視し過ぎているかもしれない。農協の内部資料によれば、千葉だけで8JAが26年度までに赤字に転落するという試算結果を得ていることが分かった。
農協の試算は、対象期間がダイヤモンド編集部より1年先である他、利益項目に「事業利益」を採用している点でも異なる。そのため単純比較はできないが、農協自身も金融部門の減益影響が極めて大きいことを覚悟しているのは間違いない。
共済依存の農協が大撃沈大減益ショックの実態
話をダイヤモンド編集部の試算に戻そう。
減益想定額ワースト20JAにはJA山口県、JA晴れの国岡山、JAとぴあ浜松、JAならけんなど共済推進ノルマの必達を職員に求めることで有名な農協が並んだ。
なお、今回のJA赤字危険度ランキングは順位付けの方法を見直した。従来は減益想定額の大きさで順位を付けていたが、今回は粗利に占める減益額の比率の高さでランキングを作成した。
同比率がワースト1位だったのはJA京都にのくにだ。
金融の減益額を農業関連事業の増益でカバーできればよいが、農業部門の体制が弱体化した農協にはできない相談だ。その結果、農協ではリストラや支店の閉鎖が相次いでいる。農協が負のスパイラルから脱するのは難しいだろう。