自分が撮られた写真に、てんで満足できない。誰しもがある経験ではないだろうか? 私にだってある。
特に印象深いのは、体育祭で学校が勝手に撮っていた写真たち。「よりにもよって、どうしてこんな瞬間に」みたいな、あの手のショットの出来映えといったら! 変に力んでおかしなポーズになってたり、妙な表情をとらえていたり……。勘弁してほしいのだが。
自分の写真は、コチラがそのつもりの時になるべく撮ってほしいのだ。その中からでも、さらに“気に入った写真”と“気に入らない写真”が出てくるというのに。

何故こんなことを思い出したかというと、あるサービスの存在を知ったから。
広島県にある「株式会社アスカネット」が2月1日よりスタートしている『遺影バンク』なる試みが、実に興味深い。

これは、自分の写真をネット上に“遺影”として保存できるサービス。まず、『遺影バンク』サイトから会員登録(無料)を済ませ、自身が「遺影にしたい」と思った写真をアップロード。そして、その日が来るまで同社に預かっていてもらう。

そして、もしも“その日”が来てしまったら……。まず、サイト登録時に発行された「遺影バンクカード」(有料。
希望者のみ)を遺族が提示、もしくは名前などの情報から葬儀社が遺影バンクの登録者を検索する。そこで本人の確認が取れたら、『遺影バンク』が葬儀社に写真データを転送。それを受け取った葬儀社は、写真データを引き伸ばして祭壇に使用することに。結果的に、当事者が「遺影として使ってほしい」と望んでいた写真が、葬儀で実際に使用されている! 生前の意思が反映されている。

非常に興味深い試みであるが、どうしてこのようなサービスを思い立ったのか? どういうきっかけが? 同社に伺ってみた。
「元々、当社は葬儀の際、当日にご家族からお預かりした写真で遺影を作成している会社です。
これまで累計で150万枚近くの遺影写真を加工・出力させていただいてきましたが、その多くは集合写真からの小さい写真やピントの甘い写真などでした。それらは修正したとしても画質が悪く、最期の一枚としてはとても残念なものが大半でした」

そこで、同社は考えた。「家族に遺す最期の一枚は、家族のためにも自分らしい写真を遺しておいて欲しい!」。このような思いから『遺影バンク』サービスは始まった。

すでに、同サービスに登録されている方もいるそうだ。では、現時点で何歳くらいの方々からの申し込みが多いのだろうか?
「だいたい40~50歳代の方が中心のようです。
中には70歳以上の方のご登録もあるようです」(担当者)

なるほど。そこで新たな疑問というか不安というか。お年寄りの中にはパソコンを使えない人も多いと思うのだが、その辺についての対応は?
「『パソコンが使えない、写真もプリントしかない』という方にも郵送でお写真を送って頂いた上で、代理で登録させていただいております」(担当者)

また、この『遺影バンク』には「家系図」「住所録」「メッセージ」「自分史」「日記」といったデータも無料登録できるという。
「家計図」は、インターネットの特長を利用している。自分が知らない未来の家族のために、『遺影バンク』にて気軽に家系図を作り、後世に残すことができるのだ。
「住所録」は、家族が知らない自分の知人の住所を登録したファイルを作成できる。

「メッセージ」には、普段は照れくさくて言えないようなことを記す。長い間お世話になった家族や友人に、何か一言伝えてみたい。
「自分史」では、幼少時代からの写真を探し出して、思い出の整理をしてみたり。
「日記」は、あくまで日記帳のインターネット版のような位置付けで。気軽な気分で書く場所である。

これらのデータを保存しておけば、葬儀時における様々なトラブルが解消されるだろう。
たとえば「良い写真が見つからない」とか「故人の友人の住所録が無く、連絡できない」といった、ありがちな問題たち。すべて、未然に回避することができるのだ。

そんな、この『遺影バンク』は同社の専用サイトで登録が受け付けられている。サイトから写真を登録する際の費用は無料(プリント写真で郵送登録の場合は3,150円)。
また登録した写真が葬儀に使用される場合は、同社からの請求ではなく葬儀社より遺影写真作成料金として請求されることになる。

自分の葬儀は、言うまでもなく一度しか行われない。そして、葬儀は自分のために行われるものであり、また残された家族のために行われるものでもある。
だからこそ、みんなが悔いのないように。『遺影バンク』というネーミングも、言い得て妙ではないか。
(寺西ジャジューカ)