それは“男が男に惚れる”とかそういうのじゃなくて、いつの間にか自分が女子の立ち位置に立ち、心の中で「抱いてください」とつぶやいているみたいな、そんな心境なわけで。
だからこそ、ここで一つ私の“抱かれたい男ランキング”を発表させてください。まず、俺はデヴィッド・ボウイに抱かれたい。あと、若い頃の大江慎也(ルースターズ)にも興味がある。
そして、もう一人。私は昔から、前田日明との邂逅に憧れていた。
長い歴史を持つ新日本プロレス、売り出しをかけられた選手が何人いただろうか。藤波辰巳、佐山聡、高田伸彦、武藤敬司……。さすが、猪木はわかっている。お客さんを相手に仕事する“プロレスラー”という職業。だからこそ、ルックスのいい選手の背中ばかりを押してきたのだ。第一、若き日の猪木自身が“ルックスの人”だったから!
だからこそ、前田日明。
そんな前田の容姿全盛期を堪能できるのは、『燃えろ! 新日本プロレス9号』だろうか。
これは2週に1回のペースで刊行されている、DVD付きムックの第9号。プロレス黄金期の名勝負を収録したDVDと、業界記者らのコラム等を掲載した冊子の二つがセットとなり販売されている人気シリーズである。
そして、私がレコメンドするVol.9のテーマは「新日本vs UWF」。表紙を開くと、そこにはいきなり猪木の喉元を蹴り飛ばす前田の姿が! これぞ、“黒髪のロペスピエール”(古舘伊知郎が命名したキャッチフレーズ)
待ちきれずにDVDを再生してみると、冒頭に映し出されるのは試合ではない。そこには、スーツ姿でリング上に現れるUWF軍団(前田日明、藤原喜明、木戸修、高田伸彦、山崎一夫)が。自社が倒産し、新たな闘いの場を古巣の新日本プロレスに求めた彼らが、正装でやって来たのだ。
「この一年半のUWFでの闘いが何であったのかを確認するために、新日本に来ました。試合を見てください」(前田日明)
播州弁と河内弁と大阪弁がミックスされた独特のイントネーションによる、静かなる決意表明。この艶っぽさ! さすがこの頃、斉藤由貴との交際が囁かれていただけのことはある。
そして始まる、一試合目。カードは「アントニオ猪木vs藤原喜明」。歴史に残る名勝負なのだが、ここは藤原のセコンドに付いた前田の姿にスポットを当てさせてください。
試合開始直前。先にコールを受ける師匠・藤原の傍らにいる前田の顔が、既にゴンタ顔。レフェリーに注文を付ける前田。選手よりもセコンドの方がはやっている。
そして、ゴングが鳴った。実はこの試合には、ポイントが二つあります。共に、試合の終盤におけるシーン。
互角の攻防を繰り広げていた両者だったが、藤原が腕を取った場面で常軌を逸する。猪木が不自然に体勢を入れ替え、猪木自身からは死角となる藤原のボディ目がけて後ろ蹴り。
そしてクライマックスは、そのすぐ後にやって来た。藤原が得意の頭突きを連発する。膝から崩れる猪木。そして、何発目かの頭突きを見舞おうとした藤原のアゴに、猪木のナックル(に見えるエルボー?)が突き刺さる。「ナックルやないか!」と、エプロンに立ち上がる前田。しかし、それには構わず藤原にスリーパーを極める猪木。落としてしまった。
猪木、勝利。……と同時にリングに駆け上がり、猪木の喉元を蹴っ飛ばす前田日明! 「アントニオ猪木なら、何をやってもいいのか?」というプロレス史上に残る名言が飛び出したのは、この直後のことである。
そういえば、当時の新日本プロレスの中継は金曜の夜8時。
ここで、引用させていただきたい。「Gスピリッツ」(辰巳出版)のVol.23では、新間寿氏(当時の新日本プロレス営業部長)、櫻井康雄氏(当時の新日本プロレス中継・解説者)、舟橋慶一氏(元・テレビ朝日アナウンサー)による座談会が行われている。
――当時は、日本テレビの人気刑事ドラマ『太陽にほえろ!』が裏番組でしたが、やはり意識されましたか?
「『太陽にほえろ!』に視聴率で勝ちましたからね。『3年B組金八先生』がスタートした時は苦しんだんですけど」(舟橋氏)
「確かに『太陽にほえろ!』は、あまり意識しなかったな」(櫻井氏)
「勝つ自信がありましたから」(舟橋氏)
そんな時代にカリスマ的人気を獲得していたのが、20代後半の前田日明。3段論法で考えると、神田正輝(ドック刑事)や渡辺徹(ラガー刑事)より前田の方が格上! 何しろ、当時は元C.C.ガールズの原田徳子が「前田日明ファンクラブ」の会員だったそうなのだ。
その後の前田は糸井重里に見初められて西武百貨店の広告に起用されたり、山咲千里や石田えりとの交際も噂されるなど、ジャンルを超えた活躍を見せ始める。
これら業界外との人脈が広がった大きな要因の一つとして、やはり“ルックスの良さ”が挙げられると思うのだ。端正な顔立ちなのに、妙にタレ目なのも良い。
そんな彼の危険なフェロモンを堪能できる、このムック。どうにも、満喫してしまいました。まだ、今みたいにお腹も出てないし。
言っておきますが、私の性癖はノーマルです。
(寺西ジャジューカ)