「ドログバ~、決めろよーっ! ドログバーぁ。」
隣の席に座っていた男性がたまらず叫んだ。沸き上がる観衆。
一瞬の静寂の後、ドログバのPKはゴール左隅へ。チェルシー、UEFAチャンピオンズリーグ初優勝! 映画館には自然と拍手が湧き上がった……ん? 映画館? サッカー見てたんじゃないの? ここ、どこ?

いやぁ、いい試合だったよね、日曜早朝に繰り広げられたCL決勝戦・バイエルンvs.チェルシー。バルセロナとレアル・マドリーという両優勝候補を退けて決勝進出を果たした2チームの、延長でも決着がつかずPKにまでもつれ込んだ熱戦。試合の合間に流れたハイネケンのCMで、オペラを楽しむようにサッカーに魅入ってしまう映像が流れていたんだけど、まさにそんな感じのドラマ性のある試合だった。
で、私はこの試合をどこで観ていたかというと、新宿の映画館「バルト9」。パブリックビューイングを映画館で、というのは今までもありましたが、今回のは3D上映なんですよ。コレ、もう興奮しまくり。試合の内容についてはニュースサイトや専門誌にお任せしますが、この「スポーツを映画館の3D上映でリアルタイムに観る」という観戦スタイルは今後どんどん広がりそうなスポーツの楽しみ方だなぁと思ったので語らせていただきます。

◇映画館ならではの大音量&大画面のスケール感
ご自宅に3Dテレビがある方もいらっしゃると思いますが、映画館ならではの音響効果と迫力は比べるまでもありません。試合開始前の「チャンピオンズリーグ・アンセム」が流れてくるだけで鳥肌ものです。また、スポーツバーでプロジェクター観戦も楽しいけど、せいぜい100インチの画面ですよね。映画館のスクリーンで観るとユニフォームのシワ具合や選手の表情もはっきり読み取れて、「神は細部に宿る」ということを痛感します。


◇3Dだから実感できる、選手の質感
イケメンで背も高く、女性人気も高いフェルナンド・トーレス。実はちょっと華奢なイメージすら抱いていたトーレスのケツがあんなにデカいとは今回初めて知りました。全選手の中で一番大きかったんじゃないかな。その他にも、ロッペンの胸板ハンパないわーとか、リベリー想像以上に背が低いなぁとか、今まで雑誌やテレビで散々見てきて知っていたハズの選手の肉感・質感に改めて驚かされます。いやぁ、それにしてもトーレスいいケツしてたわぁ。

◇スタジアムの雰囲気がより実感できる臨場感
一番「3D感」を感じるのは、実は観客席を映したときだったりします。人波によって生まれるレイヤーのおかげでより奥行き感を感じる事が出来るから。そのおかげか、自分も現地のスタジアムにいるような雰囲気を味わえるのです。ほかにも、普段のTV観戦では(というか生で観戦していても)ただの緑の敷物にしか見えない芝生も意外とデコボコしている箇所があることがわかったり、踏み込んだ跡がクッキリ残っていたりと、今まで感じたことのない「現場感」を味わうことが出来ました。

◇前へ進む動きで痛感する迫力
時たまドリブル突破を真正面のカメラから捉える場面があったんですが、この迫力感は新鮮。前へ前への推進力をより感じることが出来るのです。漫画でよく見る強調線が一瞬見えたような気がしました。
これ、オリンピックの100Mを正面から映してくれたら、たまんないだろうなぁ。

◇大勢で観ることで生まれる一体感
27時30分スタートというタイムテーブルにもかかわらず、この日のバルト9の座席は8割近くが埋まっていました。いいプレーが起きたらみんな歓声をあげるし、選手交代のシーンでは退く選手に自然と拍手が沸き上がってなんかいい感じ。スポーツバーで観戦する際にも味わえる楽しみですが、混んでいるときは結構窮屈だったり、席によっては画面が見えにくかったりと、観戦に集中できない場合もありますよね。でも、映画館なら観えにくいなんてことはあり得ないし、みんなが座席に座って同じ方向を向いているからこそ生まれる一体感がありました。


今回の「UEFAチャンピオンズリーグ決勝戦 3D生中継」という企画は、スカパーの中継映像を映画館で楽しもうというもの。実は以前にも「ワールドプロレスリング3D」という企画でワーナー・マイカル・シネマズで3D上映をしたり、サッカーW杯南アフリカ大会でも日本戦で3D生中継は実施されています。でも、ワーナー系の映画館だけだったり、わずか数館だけの上映だったりと視聴環境が限られていました。しかし、今回は全国31館での上映。系列も複数にまたがり、今後ますます環境が充実していきそうです。唯一の課題はちょっと金額が高いことでしょうか(バルト9の場合は2400円)。スポーツバーに行けばビールが3杯ほど呑めてしまいます。
試合内容も相まって決して損をしたとかは思わないのですが、毎回気軽に行ける値段でもありません。この辺は改善をぜひ期待したいです。スポーツの新しい見方・楽しみ方が広まれば、そこには必ず新たなスター選手の誕生や新競技の普及が結びついてくるから。
スポーツの発展・進化とメディアの環境って実は密接なつながりがあります。1940~50年代はラジオが普及することで野球やボクシング、競馬などの「言葉で楽しむスポーツ」がまず発展し、その後テレビ中継が始まることで人気が不動のものになりました。また、1980年代の衛星放送とケーブルテレビの普及はNBAやF1などの新スポーツの普及につながり、マイケル・ジョーダンやアイルトン・セナといった世界的なスーパースターの出現を後押ししました。90年代後半からのインターネットの普及でヨーロッパや南米の海外サッカーがより身近なものになりましたよね。新たなメディアの普及が、今まで知られていなかった選手と競技を知るキッカケになるのです。
まだまだ、私たちが観たことのない映像やアングル、競技がきっとあるハズ。3D生中継は、そのキッカケになるチャンスなんじゃないかと思います。近くの映画館でスポーツの3D生中継が実施されていたら、ぜひ一度視聴をオススメします。
(オグマナオト)
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