元ヤンキーの中学体育教師が生徒たちにダンスを教える話、と骨子を説明するのはものすごくカンタンなのだが、その真っ直ぐな骨をグネグネとねじったり曲げたりした上、いろんなものをくっつけて得も言われぬ奇妙なオブジェに仕上げててしまったという出来で、最初見たときはどうにも居心地が悪いが、毎週見ているとクセになってしまう妙な引力をもっている。
むしろ、本来、治外法権であるべき深夜ドラマはこれくらい独自の道をいったほうがいいのではないか。
まず1話から軌道を外れていた。
中学教師と生徒たちのダンスの話という前情報で見始めたが、いっこうに教師もダンスも、中学生も出てこない。
ヤンキー少女・真琴(高梨臨)と定時制高校に通っている中年女性・凛子(余貴美子)のバディものみたいな渋い話が続くので、番組を間違えたのか? と思ってしまった。
主演の高梨はアッバス・キアロスタミ監督の「ライク・サムワン・イン・ラブ」に主演している気鋭の女優で、余は、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など数々の賞を受賞している名女優。この2人芝居が見応えあるものだから、これはこれでいいかという気すらする。
なんと第1話はまるまるプロローグ。後に中学教師になって、新しく必修科目になったダンスを教えることになる真琴が、なぜ教師になったのか、その過去を描いていたのだ。
従来なら、こういうエピソード0は途中の回に入るのがセオリーなのだが、サブタイトルが「まずは主役の紹介を」だけに、やられた。
この「〜を・締め」のサブタイトルが「傷だらけの天使」みたいでかっこいい。第3話も「ラストダンスに花束を」で「〜を・締め」だが、といって全話それで統一しているわけでもなく、2話「春風ドライブ」、4、5話「Hot−DogExpress」(前編、後編)、6話「気流メソッド」7話「夕方ループ」と統一感があるようなないようなよくわからない気ままさである。
2話は、真琴が受け持つ男子生徒4人組(学年ワーストクラスのクルクルヘッド、3年先を行く天才、心優しきイエスマン、密着され歴7年(長男))の話で、3話が、女子生徒(冷静プロトタイプ(学級委員)、歩く激情)の話になっていて、これでようやく主要メンバーの紹介が終わり、話はダンスへの道へーーと思いきや、ビッグダディのような大家族とそれを7年追っているテレビクルーやら、事故で足が動かなくなってしまった車いすの少女・千夏(現在不登校(中1の秋から))などが出てきて、そっちの問題のほうに比重がかかっている。
千夏は過去ダンスをやっていて、ケガによってその道を断たれたという悲劇がダンスをテーマにしたドラマらしさではあるとはいえ、どうもダンスとドラマの関係がねじれているのだ。なぜ?
過去の例から考えると、野球部ドラマ「ROOKIES」、水泳部ドラマ「ウォーターボーイズ」、男子新体操部ドラマ「タンブリング」など、集団がひとつの目的に向かっていく話を真っ直ぐ描くことがドラマとして無難だが、「放課後グルーヴ」は、たまたまダンスをやることになった人たちが、なかなかテーマにたどりつかない。なぜ?
男子4人組が、区役所所員が盗んだタクシーに乗せられ、彼と無理心中させられそうになったり、女子生徒2人と真琴が、死期が近いホームレスのおじさんの住むツリーハウスに紛れこんだり、男子と女子が「スラムダンク」の面白さについて語り合うことで心が通っていったり、演劇のふたり芝居のように、真琴と千夏がカットバックしながらシリアスな話を驚くほど長いこと語りあったり、そんなことが毎回描かれる。それもそのはず。
言ってしまえば、実社会で平成20年度から文部科学省がなぜか突然、中学保健教育でダンスを必修にしたことと同じ、ドラマでも突然学校の都合でダンスが強化されることになって、先生も生徒も巻き込まれているだけだから。
ダンスシーンが出てくるのは、彼らの日常生活の悲喜こもごもの中に現れる一瞬の感情の盛り上がりのときだ。
いろいろあった後に抱く、なんとなくハレの気分を表すように、みんなが不意に踊り出す。
「ダンスは感情の開放、つまりエモーション」という台詞を、真琴が習うダンス教師が語るが、まさにソレ。
そして、その場面の映像は、ハイスピードカメラが多用されて、やたらとかっこいい。この毎回、JポップのPVのようなシーンが登場するところがドラマの最大の楽しみだ。
7話までは、チャットモンチー「きらきらひかれ」、ザ50回転ズ「Ican notbe agood」、電気グルーヴ「N.O.」、JUDY AND MARY「BLUE TEARS」、UNICORN「すばらしい日々」、YUKI「ふがいないや」、真心ブラザーズ「ループスライダー」が使用された。
殊に3話、ホームレスの人たちが電気グルーヴを踊る場面は心躍った。
「よろしくメカドック」が口癖の校長先生役・大和田伸也といい、ベテラン俳優の起用の仕方のセンスがいい。
中学生役の俳優たちがほぼ無名なのもなかなか新鮮だ。
単純にみんながひとつにまとまる話ではなく、ダンスの本質を見極めようとしている脚本、演出は「荒川アンダーザブリッジ」などを手がけ、その映画版に出演した井上和香を射止めた飯塚健。
「人生Jポップのように甘くないよ」という台詞が劇中出てくるが、ちょい苦な人生が、現代口語の軽快な会話と数々のコネタとメモしておきたい名言ふうな台詞で綴られ、その果てに、バラバラの人たちがふと集まったときに出来上がる一瞬の共同性(これがグルーヴというものだろうか)は思いきりロマンチック。
セオリー通りのドラマに食傷気味だったり、どんなに面白くてもあまりにたくさんの人が見ていると背を向けたくなったりする人たちには、「放課後グルーヴ」はほどよい夢が見られそうなドラマである。
6月10日放送の8話では、YO−KING「ずっと穴を掘り続けている」とアナログフィッシュ「Sayonara90‘s 」が登場。また心躍りそう。(木俣 冬)