その2
※最終巻のネタバレを含みます。
●前に進める人、進みそこねた人。
───白井先生が少女だ、というのはこだわって描かれてましたね。
私屋:自分がそうだと思うんですが、昔にこだわってると、そうでない人が会得していく年齢なりの経験値が足りない気がするんですね。人のダメな部分を許していくとか、自分も他人も含めていろいろな部分に「まいっか」と折り合いが付けられるスキルって、経験値で身につくと思うんですけど、白井先生は自分の心やプライドを守るために、人を許せない。人を許せない人って自分も許さない。
───ああー、白井先生らしい。
私屋:人にきついと、「そういうあなたはどうなの?」ってブーメランが返ってくる。だから隙を見せちゃいけない、ちゃんとしなきゃってなる。謝ったり頼ったり、「ごめんこれやってくれる?」って下手にでられないタイプだと思うんです。でもそういうのが上手にできる方が人として強いし、大人じゃないですか。そういうのを30超えてもこの人は会得して来なかったんだなって。
───でも、こういう人はいますね。
私屋:いますね。
でもいつか、何かのきっかけで「ま、いいか」と思える瞬間が来たら、昔のわだかまりが消えていくと思うんですよね。それこそ子供を産んで「あ、ちゃんと育てられてる私」ってなった瞬間とか。小矢島先生と結婚して、ちゃんと認めてくれる人がいるっていう瞬間とか。そうじゃなくても「私社会人として働いてるし、人として大丈夫じゃん」と思える瞬間がくれば、自己肯定できて楽になるんじゃないかな……白井先生も、白井先生に共感してくれている読者さんも。
───白井先生の対になるのがレイジだと思うんですよ。
私屋:「トラウマを持ったまま成人した子供」の男性版女性版ですね。
白井先生は専門知識もあるので、自分の家庭環境から受けた影響をある程度客観視できるんだけど、レイジはそれがないまま大人になったので、なんで自分はこうなんだろうと思いつつも、止められないみたいなところがある。その違いを書きたかったんです。レイジくんの呪いが解けたらお話も終了なので、自分がアダルトチルドレンだと気づくエピソードを最後にしました。
●自分に価値がないと感じる時代
───途中で「ぼくは自分が大嫌いだ、なくなればせいせいする」って、自分をすごい無碍に扱う感覚は男性によくあるの感覚だなって感じたんです。
私屋:そうなんですか。
───増えているんですか?
私屋:なんだかそれとリンクして大人の幸せ度も下がっていった気が……なんで今の子は自分に自信がないのかが気になったんですね。親の愛情が足りないと自分に自信が無くなるというのは過去の例から知っていたんですけど、それが増えているってどういうことなんだろう? 別に親が冷たくなってきたとかじゃなくて他に色んな要因があると思うんですけど。その時私は30歳くらいだったから、自分の半分くらいの歳の子が、そうやって悩んでいることに「そういうふうに思わなくていいんだよ」って言いたかったですね。
───卒業式の時の、レイジに対する青木先生の、「卒業式は子供を祝うためだけではなく、親のためでもある」ってのはまさにそれですよね。
私屋:青木先生の贈る言葉は、自分が言いたいこと出し過ぎちゃった(笑)。あそこまで、溜めて溜めて。青木先生、ここまで成長しましたと。
───青木先生に言って欲しかったのはあそこと、林間学校で星を見ている時のセリフです。
私屋:「オリオン座のベテルギウスが実はもう爆発して無いかもだけど、それに比べたらみんなの悩みなんてちっぽけなものだよ」って、そりゃそうだよ!(笑)
───でも視野が狭くなっている人にはこの言葉ってすごくでかいと思うんですよ。
私屋:青木先生は本気で天然なんですよ。
●子供の怖さ
───ショッキングだったのは、二巻の窓の外にいるりんちゃんでした。みんなで脱走するシーンで、上の階なのに窓の外で笑っていて。
私屋:子供って、それやったら死ぬよ!ってことしがちじゃないですか。洗剤飲んだりするし。車に突っ込んで行ったり。危ないってところいきますよね。
───ぼくが教員だった時も、そこありえないでしょ!ってところに乗って怪我したりしていましたね。
私屋:中学の同級生で4階の窓から外壁を伝って隣の教室に行こうとして落ちた子がいましたね。
りんちゃんはとにかくハラハラさせて青木を振り回すんですが、「この子は何をするかわからない」というのは読者にも感じて欲しかったので、何をしたら「目が離せない!」ってなるか考えていました。
あとは自分が子供の頃、このくらい頭がよかったらよかったのに…って(笑)。
───あーなるほど。
私屋:りんちゃんの頭のよさって、思いをちゃんと「言語」にして話せるってことだと思うんですよ。現実の子供って感受性はあるんだけど、表現する語彙を持ってない。だから、りんちゃんみたいな子が現実にいたら、大人は「危ない」と思うでしょうね(笑)
───ゾクっとしますよね。
私屋:頭が良すぎる子供は怖いと……マンガなのでファンタジーですけど、子供にこんなに見抜かれたら、どうしよう、ごまかせない、って。
───ぼくもですが、りんちゃんを好きな男性ファンは多いはずなんですけど、頭があがらない感が。
私屋:アニメのプロデューサーに「こどものじかんを好きなのは、男性はみんなドMです」って言ってました。小学生の女子に振り回されて、でもそれがいい!って人が読んでるんですよ、と言われて、なるほどと。男の人って美少女に振り回されたいんだなー(笑)
───うん、はい(笑)
●バッドエンドレイジと、ハッピーエンド?宝院先生
───レイジは共依存の話になっていくじゃないですか。
私屋:運命共同体、共依存関係みたいのって、病んだ憧れみたいのあるじゃないですか。閉ざされた世界で、ぼくとキミ二人だけ、みたいな。
───レイジとりんの家がシェルターで、外の世界滅びるんじゃないかくらい。
私屋:ゲームだったらそれもひとつのエンディングですよね。
───ちなみに「つきあうなら」どのキャラクターですか?男女問わず。
私屋:私は、んー、宝院先生がいいんじゃないのかなー? 気楽な感じが仕事のストレスを癒してくれそう。明るくて救ってくれる感じもするし、かと言ってバカじゃない。ちゃんと考えて、もっとこうした方がいいって出来る人だし、ただのおっぱいじゃない。青木先生はちょっと……イラッとする……。
───それはなぜ?
私屋:青木は明るいけどデリカシーがないので、人の地雷を踏んで歩くタイプ。そのぶん心を閉ざしている白井先生にグイグイ入っていけたんですけど、イラッとしますね。
───とはいえ、黒ちゃんの心がとけたのは、青木先生が踏み込んだからなのかなと。
私屋:あのクラスは、前の中村先生が美々ちゃんをいじめてたせいで、実は先生に対して不信感を抱いているんです。だから青木が来た時に、こいつはどうなんだ?、って目で見ている。赴任直後に学級崩壊したのも、青木先生が未熟だからだけじゃなくて、前の先生の影響が残っていたんです。
●男子にはりんちゃんはむりだよ。
───試していたんですね。男子も試す行動があったりして。男子が出てきて先生に嫉妬するのはかわいい。
私屋:いやあ……でも君たちにはりんちゃんはムリだよ、って思いますね……精神年齢が違いすぎる。小学生の男女ってこのくらい違いますね。小学校5・6年だと。
───「おれ100万貯金持ってるんだぜ」ってりんちゃんに言ったりとか、ゴミ箱持ってやるぜとか、あのバカさ加減が好きなんですよ。
私屋:小6の時、帰りの会の最中、隣の席の男子に急に小声で「内緒だぞ、おれ100万持ってるんだぜ」と言われました。
───わはは(笑)。実体験ですか?
私屋:すごいって言って欲しかったんでしょうね〜。私もぼんやりしてたんで「はあ……(なんで?)」と……もっとリアクションしてあげればよかったかなあ(笑)
●ロリコンが見るマンガとしての『こどものじかん』
───このマンガを始めるにあたって、ロリコン的部分に関して注意された点はありますか?
私屋:私の知ってるロリコンマンガって、女の子が大人にいいようにされているものが多かったので、そうじゃない方向で。子供が主導権を握っている方がギャグになって面白い、セクハラされるのはいつも先生のほうです。それにりんちゃんは手放しで青木先生が好きなわけじゃない。大人だからと偉ぶったり、思い違いをしたりすればはっきり拒絶する。彼女が手綱を握っているので、一般的に言われるロリコン漫画とはちょっとイメージが違うんじゃないかなって思いますね。
───青木先生が完全な童貞だからりんちゃんが変なことしても安心できるのかな?と。
私屋:そうですね。りんちゃんがエッチなモーションをかけるのも、「とはいえ青木先生なら何もしてこない」っていう信頼があってやってるんですよ。そのへんのズルさというか、意地悪な感じって子供にもあるよねって。手を出したら負けなのわかっていて挑発する。
───ありますね。鳴らすよ!みたいな。
私屋:そうなんですよ! ランドセルに付いてる防犯ブザー、ずっと描いていてたけどなかなか鳴らすシーンがなくて、このニコニコマーク、防犯ブザーだって読んでる人わかっているかな!?
───今20代の人は防犯ブザー世代ですが、ぼくが子供の頃は無かったです。
私屋:無かったですよね。このブザーも美々ちゃんが痴漢に襲われるシーンで、やっと鳴らせました。
───名札も気になったんですよ。
私屋:これは表側が校章で、裏の名前が見えないようにマジックテープになっていて、学校入ったら裏返して、また貼るんですよ。私が通っていた小学校もこれでしたねー、「名前が覚えられるとおかしな人が寄ってくるから」って。
●青木先生とりんちゃん、お幸せに。
───長い連載を経て、りんちゃんに対してどんな感情を抱かれましたか?
私屋:このまま素敵な美人さんに成長して行きそうでよかった。青木先生がいなければ、こんなふうにはならなかったので。
───青木先生に対してはどうですか?
私屋:青木先生は色々あって、りんとの婚約をオープンにしてからは周りの人に「おいロリコン!」ってからかわれながら幸せになっていくんだろうと予想。その後二人はどうするんだろう? 結婚となると、またあの家でレイジと青木と同棲、いや同居することに……!
───わー、めんどくさい!
私屋カヲルは、コミケ84の双葉社ブース254にて発売の『水着アクション』『有明のふたばブースちゃん』にも参加しています。
是非手にとって御覧ください。
また、kindle版も順を追って発売中。
まだ読んでない方、あるいは持ち歩いて読みたい方は、こちらもチェック!
(たまごまご)