
ふた役を大熱演
「(私の思うぼたんと富貴子が)と違う違う」と怒りながら、部屋をうろつく美輪子(逢沢りな)が、手にした謎の物体。柔らかい肩たたき棒みたいなもので、それをイライラ振り回す姿が、なんとなく厳しい演出家のように見えたのです。
そしたら31話では、ほんとにダメ出しの嵐。
瀬尾綱輝(片岡信和)の全快祝いが、ローズガーデン行われ、その際の富貴子(黛英里佳)の態度にあれこれ文句を言う美輪子は笑えました。
もしもぼたん(黛英里佳ふた役)が生きていたらこうするだろうバージョンがいちいち挿入されるのです。
瀬尾に対する態度があけすけで「下品」だと言われる富貴子と比べて、ぼたんは上品でおくゆかしく振る舞います(美輪子の妄想)。
とりわけ、瀬尾におばあちゃん萌子(山口いずみ)と踊るように譲るバージョンは愉快。ぼたんと富貴子を交互に演じる黛英里佳、大活躍の巻です。
美輪子が演出家気質なのは、歌舞伎俳優の血が入っているからと理由もつかないことはありません。
原作漫画家ばりに、演出家・美輪子が厳しいので、その後、富貴子は瀬尾に、バーで、ぼたんがどういう人物だったか聞きますと、彼女の繊細さや潔癖さがわかり「ガラス細工のようだったのね」と富貴子は感嘆。
でも、多摩留(戸塚純貴)に迫った時のことをふたりは知りません。美輪子も。
ぼたんの秘密を知っている本人と多摩留が既に亡くなっているという運命の皮肉。何も知らずにぼたんを神格化する富貴子たちが滑稽で、中島丈博先生の筆の冴えを感じます。
まだまだ冴えます。
ぼたんを思っているふたりのところへ、美輪子が、清塚(すっかり存在感が失せています、多摩留のほうが死んでもなお存在感ある美味しい役)を伴ってやってきて、富貴子とまた一悶着。
富貴子も激して「男が大好きなのよ 男なしでは生きていけないのよ」と激白、瀬尾のことを「いままで体験したことないくらいの超ど級で」などと表し、あけすけ過ぎて笑わせてくれた挙げ句、ついに、自分の正体を美輪子に明かすのです。
あの天ぷら屋に連れていかれ、富貴子が多摩留の義理の姉だったことがわかって、美輪子は錯乱の極地に。それにしても、なんで、いつも、営業中にお店のなかで、わいわい騒ぐのでしょうか、という小姑チェックはさておき、そもそも美輪子が、多摩留と愛欲にふけり過ぎたうえに、急に気持ちを変えてしまったことがすべての原因。この美輪子の贖罪のドラマはどう収束するのでしょうか。最終回まで、あと2週間ですが、このまま、おもしろメニューなどの小ネタを盛り込まず、ただただ、どストレートに話は進むのでしょうか。ストレートしか投げないと決めてマウンドに立った意地っ張りのピッチャーが、ストレートの球の勢いだけにすべてを賭けている。それこそ超ど級ですよ。
(木俣冬)