「普通の女の子に戻りたい」

そんな言葉と共に、キャンディーズがマイクを置いてから、かれこれ約40年。今では、“普通の女の子”が簡単にアイドルになれる時代。
いや、正確には、アイドルへの「敷居が低くなった」というべきでしょうか。

一説によると、日本におけるアイドルの総数は、メジャー、インディーズ、ご当地を含めると、1万人以上はいると言われています。もちろんキャンディーズのように、時代のアイコンとなれるようなグループは、いつだってほんの一握り。
けれども、昔よりもずっと多くの女の子たちが、スタァへなるための入り口に立てるようになったのは、間違いないでしょう。

普通の女の子がアイドルに!? おにゃん子クラブの功罪


こうしたアイドルの間口拡大は、紛れもなくおにゃん子クラブによる功罪でしょう。1985年4月1日、フジテレビのバラエティ番組『夕やけニャンニャン』と共に活動を開始したおにゃん子は、同年7月、『セーラー服を脱がさないで』でメジャーデビュー。
芸能事務所無所属で(一部、芸能事務所に所属していたメンバーもいましたが)、高校のテスト期間中に番組を休むのもOKだった彼女たちは、これまでのアイドルが持ち得なかった一般感覚・親近感を武器に、当時の中高生男子から熱烈に支持されていきました。


1987年、夕ニャンの終了と共に、わずか2年半で解散してしまいますが、その短い活動期間の中で鮮烈な輝きを放ったおにゃん子を、今もなお、自身の青春時代のように愛してやまない人は多いようです。
おにゃん子の夢をもう一度……。そんな考えのもと、誕生したアイドル『チェキッ娘』でした。

チェキッ娘の生みの親は元夕ニャンAD


『チェキッ娘』の生みの親は、水口昌彦という元フジテレビの社員。彼はもともと夕ニャンのADを務めていた人物であり、90年代後半に同局のプロデューサーへ出世してからは、幾度となく「平成のおニャン子クラブ」をつくるために画策。何度も企画書を提出するも、予算の関係上、ことごとく上層部からハネられたといいます。

その悲願が成就したのは1998年。
当時、セガの社外取締役を務めていた、おニャン子の仕掛け人・秋元康氏が、セガの社運をかけた新ハード『ドリームキャスト』の広告戦略担当に就任したと発表されます。
その情報を聞きつけた水口が秋元氏へ「ドリームキャストPR企画の一環として、おニャン子のようなアイドルを誕生させられないか?」と打診し、了承を得ることに成功。

かくして、平成のおニャン子は誕生に至るのです。その名も『チェキッ娘』。何でも、当時一世を風靡していたシノラーこと、篠原ともえが「チェキー!(Check it)」と言っているのに、水口がインスパイアされて、名づけたのだとか。

チェキッ娘の冠番組として始まった『DAIBAッテキ!!』


98年10月5日から10月9日にかけて行われた、第一回チェキッ娘オーディションでは、田中里奈、下川みくに、矢作美樹、新井利佳、五十嵐恵、熊切あさ美が合格。時を同じくして放送を開始した番組が、『DAIBAッテキ!!』(ドリームキャスト提供)でした。

当時は、フジテレビが新宿区河田町から港区お台場へ移転して、まだ1年半ほどの時期。東京の新名所「台場」という初々しい響きを、これから誕生する新たなアイドルに重ね合わせて、命名した番組名だったのでしょう。

電波少年でブレイクしたドロンズがMCを担当


夕ニャンを模倣して制作されたこの番組は、当時の時代背景が垣間見える、なんとも興味深いコンテンツとなっています。

たとえば、電波少年のヒッチハイクから帰ってきたばかりのドロンズが「第2のとんねるず」にならんとばかりにMCを務めていたり、ブレイク間近だった藤井隆がチェキッ娘とエアロビクスを踊るコーナーがあったり、96年に完成したセガのテーマパーク「東京ジョイポリス」からの生中継があったり、まだこの頃は新鮮だったドリームキャストのインターネット端末を利用した、視聴者からの投稿を紹介する企画があったり……。
このように、フジとセガがタッグを組み、新世紀の到来に向けて、新たな試みを次々と打ち出していったわけです。

結局、チェキッ娘は第2のおにゃん子、ドロンズは第2のとんねるずというにはあまりにも小さいスケール感のまま、それぞれ1999年と2003年に解散。
その後、モーニング娘。が大ブレイクを果たし、今はAKBグループの天下。「普通の女の子がアイドルへ」。そのコンセプトはより洗練されたものへと変容し、今の時代へと受け継がれています。

おにゃん子⇒モー娘。⇒AKB。
「アイドルの正史」というものがあるのなら、このように表されるのでしょう。しかしおにゃん子⇒モー娘。の間に、フジとセガのコラボによるドリームキャスト、つまり“夢のアイドル”が花火のように打ちあがって消えていったことを、私たちは決して忘れないでしょう。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりチェキッ娘 in GUAM [DVD]