そう、おれはこんな映画をずっと待っていた……! 「ハリウッドの超大作映画らしい超大作映画を見たい!」というボンクラの心にぴったりと寄り添い過ぎている、文字通りのガバガバ超大作『ジオストーム』。こんなの、好きに決まってるじゃないですか……。

「ジオストーム」に漂う圧倒的ガバガバ感、90年代ハリウッド超大作スピリットの清々しさよ

超大作路線の申し子、ディーン・デヴリンとは何者か?


『ジオストーム』はすごい。まさか2018年にもなって、ここまでオールドスクールな"ハリウッド超大作"が見られるとは思っていなかった。90年代に少年時代を過ごし、テレビで毎週末に洋画が垂れ流されていたのが当たり前だった人間としては、もう感涙にむせぶばかりである。

『ジオストーム』の話の前に、本作の監督であるディーン・デヴリンについて説明しておきたい。現在55歳のデヴリンは脚本家・俳優・プロデューサーのドン・デヴリンと女優のピラー・スーラットの間に生まれた。本人も俳優として映画に出演していたが、1992年に初めて映画の脚本を執筆する。

その作品が、あの『ユニバーサル・ソルジャー』である。
「ヴァンダムとドルフ・ラングレンがガチンコで戦ったら面白い!」という、まるで授業中の男子中学生が考えたようなアイデアをローランド・エメリッヒと組んで実現したデヴリンは(『ユニバーサル・ソルジャー』はエメリッヒのハリウッドでの初監督作品でもあった)、その後も『スターゲイト』、『インデペンデンス・デイ』、『GODZILLA』のエメリッヒ監督作3本で製作と脚本を担当。90年代にディザスタームービーの帝王へと登りつめたエメリッヒを、陰ながら支えたのである。言うなればデヴリンは『タイタニック』〜『アルマゲドン』あたりでピークになったハリウッド超大作志向の申し子なのだ。

そんなデヴリンが製作でも脚本でもなく、映画を初めて監督するという。「なにそれ? そういう接待?」と思ったけれど、タイトルが『ジオストーム』。気象衛星が暴走して地球が異常気象になったりする話だとか。
やっぱりディザスターものなのか……ていうかそれって『デイ・アフター・トゥモロー』なんじゃないの……と半信半疑で映画館に向かったおれが見たものは、空前の職人芸的ガバガバ超大作だったのである。

暴走した気象コントロール衛星を止めろ!


『ジオストーム』の舞台は近未来。環境破壊による異常気象によって存亡の危機に立たされた人類は協力し、全地球規模の気象コントロール衛星「ダッチボーイ(堤防に指を突っ込んで結界を防いだオランダの少年に由来するネーミング)」を軌道上に浮かべた。

そのプロジェクトの中心となって活躍したのが、科学者であり技師でもあるジェイク・ローソンだった。しかし度重なる命令無視やダッチボーイをコントロールしたいアメリカ政府の思惑により、ジェイクはダッチボーイ関連業務から外されてしまう。代わってダッチボーイの管理を任されたのはジェイクの弟マックス。激怒したジェイクはそのまま引退してしまう。


3年後。アフガニスタンの奥地で集落ごと氷漬けになったエリアが発見される。昼間は50度近い高温になる地域でなぜ……? と思う間もなく、リオデジャネイロのビーチでは超強力な寒波に襲われて人間がカチカチに凍り、香港では地割れが発生! ダッチボーイの暴走による異常だと判断したマックスは兄ジェイクに連絡を取り、もう一度宇宙へ向かうよう要請する。渋るジェイクだが、結局娘を置いてダッチボーイへ飛ぶことに。

しかし、地上での被害は拡大。おまけにダッチボーイの異常は何者かが衛星をハックして人為的に起こしたものだったことが判明する。
ダッチボーイの暴走により、迫り来る地球規模の巨大台風ジオストーム。宇宙と地球で危機にさらされるローソン兄弟、そして人類の未来やいかに!

髭面のゴリラ系インテリ筋肉おじさんであるジェイク、そして兄の尻拭いをしてばっかりな苦労人の優男マックスという、なかなか味付けのきっちりしたローソン兄弟。オタク大喜びである。そんな彼らを筆頭に、総攻めオーラを全身から放射しまくっているマックスの婚約者でシークレットサービスのサラ、映画が後半に差し掛かるまで「デッコム」という名前が全然わからないアメリカ政府の偉い人デッコム(エド・ハリス!)、顔がアンディ・ガルシアなので10期くらい任期を務めそうなアンディ・ガルシア大統領(本当はパルマ大統領という名前です)などなど、どんなに朦朧としてても見分けがつくキャラがてんこ盛り!

おまけに彼らの会話の内容や仕草が、嬉しくなるほどハリウッド映画っぽい。偉い人であるマックスが普通のエンジニアの机に来ると「あ〜、なんで神の国から人間のところまで降りてきたんですか?」みたいなセリフを言うし(またそれを言うのが派手な黒人のお姉さんなのである)、大統領がとんでもないシチュエーションでマックスに向かって「結婚しろ」と言うタイミングも完璧にアメリカのセリフの間だ。これこれ……この味ですよ洋画は……! 筆者は字幕で見たが、多分この映画は吹き替えの方がしっくり来ると思う。


圧倒的ガバガバ性に感じる、開き直りの美学


そんな彼らが、宇宙と地球でワチャワチャしながら異常気象をなんとかしようとするわけだが、とにかく映画全体を徹底したエンターテイメントにするための割り切りがすごい。ダッチボーイに向かうジェイクはケープカナベラルの打ち上げ基地についた5秒後にシャトルに乗って通勤感覚で宇宙に飛ぶし、「めちゃくちゃ寒い」ということを説明するために人間を3秒でカチカチの氷像状態にしてしまう。「宇宙に行くまでの再訓練とか、別に見たくないよね、君たち!」という力強すぎるメッセージは、さすが90年代ハリウッドの申し子が撮った映画である。

『ジオストーム』はマジで全編がこのノリだ。ジオストームが発生しそうになるとディスプレイにでかい字幕(でかすぎると思う)で「ジオストーム発生まであと1時間30分」みたいなわかりやすい表示が出るし、「ドバイが津波で壊滅したら異常気象っぽいのでは」と判断したら巨大津波でドバイのビルがドミノ倒しみたいになる。

自爆シーケンスが始まればやっぱりでかすぎる表示で「自爆まであと何分」と出るし、宇宙での船外活動の様子はまるで火薬の量が50倍になった『ゼロ・グラビティ』。異常が起こったダッチボーイの衛星には交換用の衛星を発射、直接ぶつけて破壊してみんなで「イェーイ!」と喜ぶ! そんなやり方アリなのかよ! まさにスクリーンに映る全てがバカで大味でガバガバ。
しかし、「バカで大味でガバガバで何が悪い! そっちの方が面白いんじゃ!」という開き直りの清々しさが、そこには確かにある。

この開き直りの美学は、まさに90年代の超大作で仕事をしてきたデヴリンならではだろう。過去の自分の仕事に自信がなくては、2010年代も終わろうというこのタイミングでこんな映画を作る気にならないと思う。「接待かな?」とか言ってすいませんでした。職人芸的なガバガバ超大作の楽しさが、『ジオストーム』には確かにあったのだ。

【作品データ、キャスト】
「ジオストーム」公式サイト
監督 ディーン・デヴリン
出演 ジェラルド・バトラー ジム・スタージェス アビー・コーニッシュ エド・ハリス アンディ・ガルシア ほか
1月19日より全国ロードショー

STORY
近未来、異常気象対策として人類が建造した全地球規模の衛星ダッチボーイだったが、その暴走により地球は強烈な異常気象に見舞われていた。かつてダッチボーイを開発したエンジニアであるジェイクは、現在ダッチボーイの責任者である弟マックスの指示で再度宇宙へ向かうが……。
(しげる)

『ジオストーム』動画は下記サイトで配信中


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