リュック・ベッソンがコミック原作のSF映画を撮った……。「そんなことやらせて大丈夫か!?」という疑問が湧いてくると同時に、「見、見てえ!!」という気持ちにもなる。
結果から言えば、『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は、往年の『フィフス・エレメント』を思い出す良作でありました。
リュック・ベッソン最新作「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」はカーラ・デルヴィーニュがとにかく凄え

いろんな意味で複雑な男、リュック・ベッソン


90年代前半、アクション映画といえばアメリカ映画以外に選択肢なしという時代にヨーロッパ勢として殴り込みをかけ、『ニキータ』『レオン』といった作品で「最近のフランス映画、なんかイケてるやん……!」というムードを確立したリュック・ベッソン。『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』などの大作から『アーサーとミニモイの不思議な国』のようなファミリームービーまで監督し、また『TAXI』『トランスポーター』『96時間』などでは製作も手がけたりと、長年活躍している。

リュック・ベッソンという名前に、複雑な気持ちを抱くマニアは多い。前述のように色々活躍してはいるのだが、ここ15年くらいは正直なところ「どう扱っていいのかよくわからない監督」だったように思う。「この人の映画って面白いの?」と聞かれても「まあ、『レオン』は俺も好きだよ」みたいなボヤけたことしか言えず、だからと言って嫌いにもなれず……。「しょうがねえなあ、ベッソンは!」という印象だった。

しかし、おれは『フィフス・エレメント』が大好きだ。「フランス製SFコミック特有の偏執狂的に描き込まれた絵を動かす」という目的だけに猪突猛進した清々しさ。フランスならではのトラッシュかつエレガントなビジュアルに見とれ、ゲイリー・オールドマンやクリス・タッカーの怪演に爆笑し、「愛は地球を救う」というメッセージに呆然とする。ベッソンが16歳の時に書いたSF小説を自分で監督したという向こう見ずさもチャーミングだ。普通、自分が16歳の時に書いた小説なんか恥ずかしくって見たくもないだろうに……。とにかく『フィフス・エレメント』を撮ったというだけで、ベッソンは偉人なのである。


『ヴァレリアン』は、彼が久しぶりに撮ったSF映画だ。しかも原作は同名のバンド・デシネ(フランスのコミック。大判で絵本のような製本と、細密な描き込みなどが特徴)。ビジュアル面にステータスを全振りした、まぎれもなくベッソン印の作品である。

突飛なビジュアルとアイディアを、宇宙規模で使い倒せ!


20世紀より人類は宇宙に進出し、様々な宇宙人と遭遇。当初地球の衛星軌道上に作られたアルファ宇宙ステーションは、宇宙人との接触を経て平和と結束のメッセージを込めて外宇宙へと送られた。ステーションはどんどん拡張され、今やあらゆる種族が共存する"千の惑星の都市"として知られている。『ヴァレリアン』の舞台は、宇宙人と人類がごちゃまぜになって暮らす西暦2740年の宇宙なのだ。

連邦捜査官ヴァレリアンは、相棒のローレリーヌと組んで宇宙の平和を守るエージェント。仕事では有能なヴァレリアンだが、私生活は適当極まるプレイボーイで、ローレリーヌを口説こうとするものの一向に相手にされない。今回の2人の任務は、砂漠の惑星キリアンにあるビッグ・マーケットへの潜入。マーケットには巨大なエネルギー源を生み出す生物「ミュール変換器(コンバーター)」が違法に出品されており、ヴァレリアンたちは捕獲に向かう。

トラブルに見舞われながらもミュール変換器を奪取し、アルファ宇宙ステーションに戻るヴァレリアンとローレリーヌ。
しかし存在記録が失われていた幻の民族パール人の一団がステーションに現れ、ヴァレリアンたちが警護していたフィリット司令官を連れ去ってしまう。司令官を取り戻すべく追跡を開始する2人。彼らは追跡行の中で、パール人にまつわる秘密と陰謀にぶつかる。

デヴィッド・ボウイの『Space Oddity』をバックに、人類が連続で宇宙人たちと邂逅するド頭から「気が利いてんな〜〜!」となる『ヴァレリアン』。砂漠にゴーグルをつけた人たちがフラフラしてる"VR超巨大ショッピングモール"や、バカが考えたブレードランナーみたいなアルファ宇宙ステーション内部、リアーナの早着替えと異常に胡散臭いイーサン・ホークと、イカしたビジュアルとアイディアのつるべ打ちだ。

偉いのは、これらのSF的アイディアがちゃんとアクションに反映されている点だ。例えば、VRショッピングモールはすべてが仮想空間の上にあるので、商品を現実世界に引き出すためには「VR上の物品を現実世界向けに変換する箱」みたいな装置が必要になる。その箱を逆に利用して、VR空間上に拳銃を持った腕だけを突っ込み、自分の体の大半は現実世界に置いたままなので敵にバレない……みたいなトンチの効いた手段をヴァレリアンは使う。こういったアイディアからは「設定を使い切ろう!」という意志が見える。単に絵面が派手なだけの映画ではない。

ともすると「内容がない」とか言われそうな『ヴァレリアン』には、突飛なビジュアルとそれを活用するためのアイディアがパンパンに盛り込まれている。「映画の内容というのはメッセージ性や脚本だけにあるのではない……」というベッソンの熱い魂を勝手に感じて、つい涙が……。
そして、劇中でベッソンのソウルを体現しているのが、カーラ・デルヴィーニュ演じるローレリーヌだ。

イケメン女優カーラ・デルヴィーニュ、宇宙の彼方でひどい目に


ベッソンは超面食いの女たらしである。現在までに離婚を3回、結婚を4回。今の奥さんは映画プロデューサーだが、この人以外の元嫁たちは全員女優で、いずれも自分の監督作品に出演したことがある。「ドスケベ」「職権乱用」などの単語が頭にチラつく。しかしベッソンは戦う女性を主役に据えたアクション映画に関しては先駆的な存在。単なる女好きではなく、主張のある女好きだ。

無類の女好きであるベッソンが『ヴァレリアン』でほぼ主役級の扱いをしているのが、ヴァレリアンと組んで活躍する女性エージェントのローレリーヌである。演じるのはモデル兼歌手兼女優、カーラ・デルヴィーニュ。170CMの長身と同じ人類とは思えないほど細く長い手足、加えて抜群にイケメンな顔立ち(目と眉の距離がイーストウッド並に近く、イケメン感がすごい)を持つ。そりゃベッソンが使いたがるわけだわ……。

カーラ・デルヴィーニュ、『ヴァレリアン』では大変な目に遭いまくっている。
初登場時からいきなり水着なのは序の口。エージェントの装備が『GANTZ』みたいなボディスーツだったり、ゴミの山に放り込まれたり、粘液まみれでローション風呂みたいなことになったり、変なドレスを着せられて脳味噌を食われそうになったりと、「ベッソン、さぞ楽しかっただろうな……」というシーンがてんこ盛り。オタクも大喜び。さながら水を得た魚、デルヴィーニュを得たベッソンである。

デルヴィーニュの使い倒しぶりからくるベッソンのエンジョイ感こそ、本作のコアだ。『ヴァレリアン』には「カーラ・デルヴィーヌというイケメン若手女優を、ゲップが出るまでいじっていじっていじり倒す」という立派な内容がある。カーラをローションまみれにするより大事なことなんてないんだ、おれにはこれが一番いいんだ……、というベッソンのパッションをまたしても勝手に感じ、おれは心底シビれたのであった。

【作品データ】
「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」公式サイト
監督 リュック・ベッソン
出演 デイン・デハーン カーラ・デルヴィーニュ クライヴ・オーウェン リアーナ イーサン・ホーク ほか
3月30日より全国ロードショー

STORY
宇宙を股にかけて活躍する連邦捜査官ヴァレリアン。彼と相棒のローレリーヌは、巨大なエネルギーを生み出す"ミュール変換器"を闇取引からダッシュする。しかし、その直後に上官であるフィリット司令官を誘拐される。その実行犯は、記録が全て失われた宇宙人であるパール人だった。
(しげる)
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