こんなセリフで始まる野球マンガ『グラゼニ』(原作・森高夕次、漫画・アダチケイジ)。試合の勝敗や一瞬のプレーなどではなく、徹底的に「カネ」を切り口にプロ野球を描いて、人気を博した作品だ。
そして、『グラゼニ』のアニメ版が4月6日よりBSスカパー!で放送が開始された。放送時間は毎週金曜日の夜10時半から。ちょうどナイター中継が終わり、11時台のスポーツニュースを待っている間に観られるような時間帯に設定されている。ちなみにBSスカパー!とは、スカパー!のどこか1チャンネルと契約するともれなくついてくる「おまけチャンネル」のこと。

オーディションで勝ち取った主役の座
主人公の神宮スパイダースに所属する左のサイドスローの中継ぎ投手、凡田夏之介はプロとしてギリギリの位置にいるため、常にカネのことが頭から離れない男。12球団の選手の年俸をほとんど覚えている「年俸マニア」であり、自分より年俸が低い選手には滅法強いが、年俸が高い選手には打たれることが多い(ただし、1億円を超えると抑えることもある)。
夏之介を演じるのは、落合福嗣! ご存知、三冠王にして名将・落合博満氏の息子だ。「フクシ業」としか言いようのない活動を経て、2015年より声優として活動開始。すでに出演作品はアニメだけで40作を超えており、本作はオーディションを勝ち抜いて、ついに主演を勝ち取った。
実はオーディションの頃から「夏之介に似ている」という声が上がっており、公開されている夏之介のコスプレ姿は瓜二つ。原作者の森高夕次も「顔つきから体つきまで凡田夏之介にそっくりで驚きました。
ちなみに落合博満氏は映画好き、アニメ好き(特に『ガンダム』シリーズ)で有名。福嗣クンの仕事ぶりにも一言あるのかと思いきや、「プロになった人間に対して、(その分野の)プロじゃない人間がダメ出しをすることは失礼にあたる。プロに対して、それはやっちゃいけないことなんだから、俺は何も言わない」とコメントしただけで、何も言われてこなかったそう。落合氏にアニメ『グラゼニ』の感想を聞いてみたい!
『グラゼニ』がスカパー!の命運を左右する?
アニメ『グラゼニ』は、今までのところ驚くほど原作に忠実な作り。30分枠だが、2話構成になっており、原作が持っている多めの情報量をギュッと詰め込んでいる。必然的に夏之介のセリフも非常に多い(ナレーションも含む)のだが、落合は無理なくスムーズに演じている。
監督は長らく『ドラえもん』の制作に携わり、2005年のリニューアルで大きな役割を果たした渡辺歩。渡辺は4月からスタートした『メジャーセカンド』でも監督を務めており、同じ期に野球アニメを2本監督していることになる。
脚本は『ガンバの冒険』や『あしたのジョー2』などを手がけた超ベテラン、高屋敷英夫。「グラゼニって原作の構成がしっかりしてるんですよね。だから何の苦悩もない。“脚本”というより“脚色”程度ですね」とコメントしている。
スカパー!にとってオリジナルアニメは『グラゼニ』が初となる。アニマックスなどアニメ専門チャンネルはあったが、オリジナルアニメの制作は莫大なコストがかかり、ハードルが非常に高かったのだ。
しかし、それでもスカパー!が『グラゼニ』アニメ化を押し進めたのは理由がある。この作品はスカパー!の柱である「プロ野球セット」の加入促進という役割も担っているからだ。作品が話題になればなるほど、スカパー!の「プロ野球セット」にも注目が集まるというわけ。また、プロ野球シーズンが終わるときっちり「プロ野球セット」を解約してしまうお客さんに、シーズンオフもプロ野球にまつわるコンテンツを楽しんでもらいたいという意図もあるという。アニメ化のPRも1年以上前から入念に行ってきた。
もはやスカパー!は、落合福嗣クンに自社の命運を委ねたと言っても過言ではない。しかし、『グラゼニ』は1クールだけではなく、ずっと続けるということなのかしら?
『グラゼニ』が描くのは「カネ」と「人生」
『グラゼニ』のマンガ公式サイトには「『プロ野球は人生の縮図』と言う人がいるが、そんなことはない!」と書かれているが、「カネ」とはすなわち人生のことだ。プロ野球選手は、今は輝くことができても、一瞬先は闇。
「グラゼニといえば『お金』がテーマと思われますが、それだけじゃない! その奥にある人間の悲哀。それを年棒制のプロ野球で表現するから余計にグッとくるんです!!」
これは渡辺歩監督のコメント。第1話「僕の職場」ではグローブに息子の名前を書いて出場した一軍ギリギリの選手が夏之介に抑えられる場面があった。サラリーマン時代の年収をなげうってプロ入りした彼だが、来年は契約してもらえない可能性は高い。反面、プロにしがみつこうと悪戦苦闘する人たちの「おかしみ」もたくさんある。そんなプロ野球の世界にある無数の「人間の悲哀」と「おかしみ」をアニメ『グラゼニ』がどう描いてくれるのか、非常に楽しみだ。
なお、アニメ公式サイトには福嗣クンの動画(なぜか人生相談などをしている)や1年以上前からアニメ化を追ったアビディ井上によるドキュメントマンガ「その時、凡田が動いた」(本記事の渡辺監督や高屋敷氏のコメントはこちらから引用した)など豊富なコンテンツが用意されているので、ぜひご覧いただきたい。
(大山くまお)