
オスカー俳優、サイコお父さん化して子供を襲撃!
とうとう最近、「あと3〜4年で俳優やめるわ」とか言い出したニコラス・ケイジ。俳優をやめた後は製作や監督に回るのではとか、借金がすごいのではないかとか好き勝手言われている。
『マッド・ダディ』でケイジが演じるのは、4人家族の父ブレントだ。最近老けてきた妻のケンダル、高校生で反抗期真っ只中の長女カーリー、幼い長男ジョシュという家族構成で、中国人のメイドを雇う程度の金銭的余裕もある。仕事は退屈で子供は生意気盛り、妻との関係も微妙。おまけに長女カーリーの彼氏デイモンが黒人なのも頭痛の種。良くも悪くもアメリカのアッパーミドルそのものという生活を送っていた。
平凡なある日、テレビが「親が子を殺した」という内容のニュースを流す中、カーリーはいつものように登校する。が、授業中にも関わらず続々と生徒たちが家に呼び出されていく。疑問に思うカーリーだったが、途中で学校に生徒たちの親が大量に押しかけ、授業が中止に。ついに校門を突破して学校に突入してきた親たちは、自分の子供を狙って猪突猛進。
一方その頃、職場でニュースを聞きつけたブレントも子供を守るため自宅へ到着していた。ブレントの家では中国人のメイドがやっぱり自分の娘を殺しており、パニックの中でカーリーとデイモンはジョシュを探す。そこで運悪くブレントと顔を合わせてしまうデイモン。階段から顔を出す息子のジョシュの姿を見た瞬間、ブレントの中で何かがキレた! この子たちを殺す! 殺意に突き動かされた実の父から、カーリーたちは逃げ切れるのか。
先回りして書いておくと、「なぜ全米で親たちに殺意が芽生えたのか」は劇中で特に説明されない。説明されないがゆえに、学校に押しかける親たちの大集団の絵面はゾンビ映画さながら。「全速力で我が子を追いかけながら、タックルして倒してビニール袋をかぶせて息の根を止めようとするお父さん」という冗談みたいなシーンが続出し、見ている方も「あっ、これ悪ふざけ的な味つけの方が強いな!」とだんだんわかってくる。
そう思って見ると、『マッド・ダディ』のケイジは圧巻のパワープレイを見せていると言える。娘に下ネタを言ってはキモがられ、職場ではグーグー寝ているダメ親父から、突如として殺意に目覚めるサイコお父さんへとスイッチが切り替わる様はさすがオスカー俳優。狭い家の中を走り回っては息子が置きっ放しにしたミニカーを踏んですっ転び、嬉々として電ノコを振り回し、娘たちが隠れた地下室の扉を「ママがドアを開けろと言ってるだろ!!」と叩きまくる。暴れまわるケイジが本当に生き生きとしているので、見ているこっちまでなんだか楽しくなってくる。
ケイジ、絶対俳優続けた方がいいって!
さらに言えば、『マッド・ダディ』にはケイジを起用したからこそ表現できた中年の悲哀も盛り込まれている。なんせブレントは娘カーリーにはキモがられ、妻ケンダルとも上手くいってない。息子のジョシュはまだ子供だから多少は相手もしてくれるけど、たまにやらかすイタズラが猛烈にウザい時がある。ケンダルにしても同様に、高校生の娘をもてあまし気味だ。おまけに娘は財布から親の金まで盗んでいく。反抗期だから……と思えばそれまでだが、子供がめんどくさい瞬間があるのは間違いない。いっそ、この子さえいなければ……!
思い返せば昔はこうじゃなかった。腹だって出てなかったし、髪ももっと生えていた。娘だって子供の頃はもっと可愛かった。女にもモテたし火遊びだってできた。人生そういうものだと思ってやってきたけど、なんでオレだけが我慢しないといけないんだ!? ブレントが地下室で妻を相手に盛大に愚痴るシーンは涙無くしては見られない。
こんな愚痴を言うのが、あのニコラス・ケイジなのである。アカデミー賞をもらい、大作に出まくっていたのも今は昔。前述のように、近年のケイジはなんだかよくわからない映画にばかり出ている。しかも浪費が原因の借金も相当抱えているようだ。まさに中年の危機を乗り越えてる最中のケイジが、自らの人生について「こんなはずじゃなかった!」と怒鳴り、そしてムカつく子供を大喜びで襲う……。わかるよ、ケイジ。アンタも大変だよな!
ニコラス・ケイジという人は、現在のところヒット作に恵まれない、鳴かず飛ばずの俳優ということになってしまっている。しかし、この鳴かず飛ばず期を経過したことで、現在のケイジには他の俳優にはない味わいが出てきているのもまた事実。ツルハシを振り回すケイジの大暴れを見ながら、このエイジング・ケイジ味をゲラゲラと堪能できるのが『マッド・ダディ』なのだ。もう俳優業には飽きちゃったのかもしれないけど、やめるなんて言うなよ、ケイジ! アンタまだまだこれからだぜ!
(しげる)
【作品データ】
「マッド・ダディ」公式サイト
監督 ブライアン・テイラー
出演 ニコラス・ケイジ セルマ・ブレア ザカリー・アーサー ランス・ヘンリクセン ほか
6月23日より全国ロードショー
STORY
平凡な生活を送っていた冴えない中年男、ブレント。しかしある日全米で親たちが子を襲う事件が続発。ブレントと妻ケンダルも狂気に取り憑かれ、自宅で2人の子供を襲撃する。