「給湯流茶道」、いわば茶道界のニューウェーブだ。
一体どういうことなのか。家元の谷田半休(たにだ はんきゅう)さんに話を聞いた。

国宝の茶室で大爆笑
──給湯流茶道について教えてください。
谷田 2010年に生まれた現代茶道の流派です。オフィスビルの給湯室を茶室に見立てて、そこで茶会を開いています。
──給湯室って、よく会社にある普通のあれですか。コーヒーカップを洗ったり、ゴミを捨てたりする?
谷田 はい。サラリーマンって実は、戦国武将にすごく似てるんですよ。武将は戦に、会社員は仕事に命をかけているでしょう。戦国時代、武将たちは戦場で抹茶をたてて飲んでいました。だから私たちサラリーマンも、戦いの場であるオフィスで抹茶をたてよう、というのがコンセプトです。
──えええ……なんかすごい。何があってそんな考え方に?
谷田 立ち上げのきっかけになったのが、週刊モーニングで連載していた『へうげもの』を読んだことです。

──漫画を読んで、新しい流派をつくろうと。
谷田 最初は全然そんな気なくて、ただの利休ファンだったんです。あるとき京都に行って、現在は国宝になっている利休作のお茶室・待庵(たいあん)を見てきました。わずか2畳の茶室です。建設当時はそれが最高にわびているとされていました。実際に自分の目で見て、たしかにわびてる。でも、どう考えても狭すぎる。
──お茶室って、茶碗とか茶釜とか、いろんな道具を中に置きますもんね。
谷田 そうなんです。狭すぎて絶対ぶつかる。
茶道はラッパーのMCバトル
──国宝のお茶室と、会社の給湯室がつながったんですね。
谷田 茶道の世界に「見立て」という言葉があります。本来は茶の湯のために作られていないものを茶室に持ち込んで客人をおどろかせるという、ゲームのようなルールです。給湯流茶道ではこの見立てを大いに活用しています。給湯室を茶室として使うのも見立ての一種です。
──他にはどんなものを見立てるんですか?
谷田 はじめての給湯流のお茶会では、冷蔵庫を床の間に見立てて、そこに掛け軸の代わりに領収書を貼り付けました。ちゃんと理由があって、むかし利休が書いた注文書みたいなものが、現代の掛け軸になっていたりするんですよ。
──亭主と客人とのコミュニケーションの中で、ただの領収書が価値ある掛け軸に見えてくると。
谷田 茶道って見方を変えると、ラッパーのMCバトルに近いんじゃないかと思っています。伝統的なお茶会でも同じなんですよね。「なぜ私は今日この道具であなたをもてなしたいか」を相手に伝える。一見ぼろぼろのお茶碗だけど、以前は秀吉が所有していて、そこから誰それの手に渡って、とか。するとみすぼらしい茶碗がすばらしい宝物に変わる。そこの話術が大切なんです。身のまわりのものすべてが茶道具になります。

コーヒーをいれるように抹茶をたてる時代へ
──伝統をアレンジすることに対して、批判を受けたりはしないですか?
谷田 ないわけではないですが、好意的に受け入れてくださる方がほとんどです。本家のお家元や、長く茶道をされてきた方など、茶の湯をよくご存知の方ほど応援してくださいます。
──積極的に外に向けて活動されているんですね。
谷田 茶道は時代とともに変わっています。かつては武将のたしなみだった茶道が、明治以降は若い女性の花嫁修行として広まりました。今茶道をしている方の多くはご高齢の女性です。ということは、このままだと近い将来、茶道人口が一気に減ってしまう。そうなる前に若い人たちを巻き込まないと、この文化がなくなってしまうかもしれないんです。
──だから気軽にできる給湯流を。
谷田 抹茶をお湯に溶かせばどこでもできます。足りない道具は見立てたらいい。
給湯流茶道は、狂言・雅楽・詩吟のメンバーによる公演と茶会をかけあわせたイベントを行っている。現代サラリーマンにありがちなエピソードを、伝統的な狂言のスタイルで演じる試みだ。直近のイベントは下記。
給湯流侘びミュージカル茶会(茶会後に狂言を鑑賞)
・2018年8月4日(土)19:00開演 @アーツ千代田3331 →詳細
・2018年8月5日(日)20:15開演 @ホテル雅叙園東京 →詳細
会場のひとつ、目黒区の雅叙園では、夏季限定のイルミネーション「和のあかり」にあわせて、現代茶人や茶師、僧侶による大茶会を開催中。お見逃しなく!
(小村トリコ)