
タイトルに「削除」の意味があることは、お分かりいただけると思う。
取り扱う題材は、すこぶるタイムリーだ。自分が突然死んでしまった時、誰にも見られたくないデータはどう処理したらいい? 全ての人にとって大きな懸念材料「デジタル遺品」が、作品のテーマだ。
なのに、どこか懐かしい。古き良きハードボイルドの匂いがする。70年代の探偵ものドラマが、うまく現代風にブラッシュアップされた。そんな印象だ。
今作はオリジナルドラマだが、原案として本多孝好の小説『dele』がある。

同書とドラマの類似点は無論多く、まず、仕事内容が同じ。でも、依頼内容は異なる。要するに、ネタバレを心配する必要がない。安心して毎週楽しめるドラマになりそうだ。
今作では、本多が脚本に初挑戦している。異なる脚本家が各話を担当する1話完結が、このドラマの特徴。本多以外には、金城一紀をはじめとした6人の脚本家が揃った。本稿でレビューする第1話、脚本を担当したのは本多だ。
見どころのある菅田将暉
クライアントの依頼を受け、死後に不都合なデジタル記録を全て“内密に”抹消する仕事を請け負うのは、「dele. LIFE」という会社を立ち上げ単独従事する坂上圭司(山田孝之)。
裁判の被告人だった何でも屋・真柴祐太郎(菅田将暉)に興味を持った弁護士・坂上舞(麻生久美子)は、すぐさま保釈手続きを取り、祐太郎に「dele. LIFE」の仕事を紹介した。舞は圭司の姉だ。
デバイスが依頼人の指定した時間以上に操作されなかったら、圭司のPC端末「モグラ」が信号を感知。本当に死んだのか確認を取った上で、デジタル記録を削除する。これが、「dele. LIFE」の業務の流れだ。
早速、「モグラ」が信号を感知した。圭司は祐太郎に死亡確認の作業を丸投げする。祐太郎は依頼人の携帯に電話をかけた。
「あの〜、私、金を貸してた者なんですけどぉ。返済、どういうことになりますかねえ?」
代わりに出た者が「死んだと分かったら、すぐ金かあ!」と、電話口で激昂してる。これで、死亡確認は終了。それにしても、なぜ金貸しを装ったのか?
「誰にとっても関係を一番切りたい人でしょ? その人が死んだって伝えるのに一番ためらわない相手だから」(祐太郎)
祐太郎は単純で素直な青年に見える。なのに、息を吐くように嘘をつくことのできる男。始めは祐太郎を歓迎していなかった圭司も、いきなり見る目が変わった。淡々と「Delete」を押しながら、内心では思っていたはずだ。「こいつは使えるな、と」。
山田と菅田の差異はバディものとして最高
再び、「モグラ」が信号を感知した。ゴシップ記者をしている依頼人・安岡春雄(本多章一)のデバイスが、全く操作されなくなったのだ。
死亡確認を任された祐太郎は、別居中の夫人を経由して依頼人が住むアパートへ訪問。2階の安岡宅へ侵入、窓を開けると、その下には頭から血を流した男の遺体が横たわっていた。どうやら、依頼人は自殺したよう。
でも、祐太郎は納得いかない。データをDeleteしようとする圭司を、祐太郎は力ずくで制止する。安岡の夫人を訪ねた時、依頼人の子どもは言っていた。
「父ちゃん、今度、悪い奴をやっつける凄い記事を書くんだって。それを書き終わったら、家に帰ってくるって」
そんな約束をした息子を残し、自分勝手に父親が自殺するなんて祐太郎は思えなかった。データの中に、依頼人が自殺ではないことを示す証拠があるかもしれない。Deleteする前に、データを俺に見せてほしい!
契約通り、淡々とデータを削除しようとする圭司。ピュアで人情派の祐太郎。2人の差異はバディものとして最高のバランスだ。
加えて、死亡確認でアナログな作業が必要な点もいい。車椅子で生活する圭司は、フィジカルを用いた調査が不得手。
結局、熱意に根負けした圭司は安岡のデータを祐太郎に見せた。ここからの圭司、祐太郎にどんどん引っ張られてしまうのだ。データを削除するだけが仕事のはずなのに、安岡の死の真相を究明すべく、得にならない事件に首を突っ込みまくる。淡々と無表情のくせして、やってることは超協力的。そういえば、「こいつは何ができる?」と圭司が祐太郎を拒絶した時、舞はこう言っていた。
「人を少しだけ優しい気持ちにすることができる」
息を吐くように嘘をつく菅田将暉
依頼人の死因は自殺じゃなかった。警視庁・城南署の組織ぐるみの横領の事実を知った安岡は、警察の不正を告発しようとして消されたのだった。
安岡は死んだが、圭司と祐太郎の働きで不正の事実は公表された。一人の命は失われたものの、勧善懲悪の結末である。……では、話は終わらない。
安岡の隠しフォルダには、とても胸を張ることのできない仕事の痕跡が残っていた。
「依頼人は自分で種を蒔いて、自分で育てて記事にしてた」(圭司)
依頼人の内には確かな正義感があり、いわゆる“マスゴミ”としての側面もある。安岡が本当に消したかったのは、警察の不正にまつわるデータではなく、自分が“マスゴミ”である証拠の方だった。
圭司 そういえば、あいつについて調べたよ。(舞にパソコンの画面を見せて)……あっ、知ってた?
舞 今の祐太郎君からは想像できない。確かに人って、何人もの自分を持っているものね。
圭司 そうだな。その中から残したい自分を選んでもらう。それが、うちの仕事だ。
一見すると素直な青年だ。でも、安岡が自作自演で記事を書く自分をDeleteしたように、祐太郎も過去をDeleteした。頭の回転が早く、息を吐くように嘘をつく彼(第1話で何回嘘をついただろう!?)が、普通の人生を送ってきたとは思えないのだ。
単純な人情もので話が終わらなかったところに、期待値が上がる。1話完結でありながら、過去が気になり今後を夢想してしまうのだ。キーワードは「多面性」だ。
山田と菅田に当て書きしたという圭司&祐太郎のキャラ設定も見事だった。良い役者、良い脚本家、スタッフらが結集した、稀有なドラマという印象。『探偵物語』や『私立探偵 濱マイク』を好きだった人たちにとっては、特に“買い”だと思う。
(寺西ジャジューカ)
【配信サイト】
・ビデオパス
・AbemaTV
・テレ朝動画
金曜ナイトドラマ『dele』
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本 智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日