それとも、史上初・二度目の春夏連覇で大阪桐蔭が制するのか?
夏の甲子園100回大会決勝は、金足農業(秋田)vs大阪桐蔭(北大阪)という組み合わせ。どちらが勝っても“史上初”が生まれる戦い。

優勝候補大本命といわれ、見事に勝ち上がってきた大阪桐蔭の強さも凄まじいが、“勢い”という意味では「平成最後の百姓一揆」なるハッシュタグまで生まれている金足農業だ。聞けば決勝戦にあわせ、JALが秋田から大阪・伊丹空港行きの臨時便を運行するという。
今年、甲子園の歴史を振り返る『ざっくり甲子園100年100ネタ』(廣済堂出版)という本を書くために関連書籍はだいぶ見てきたが、甲子園のために臨時列車が出たことはあっても飛行機の臨時便が出た、なんて聞いたことがない。まさに歴史的な事件といえる。

103年前、秋田勢はどのように戦い、敗れたのか
金足農業の決勝戦進出でもうひとつ大きなトピックスとなっているのが「秋田勢103年ぶりの決勝戦」というフレーズだ。
103年前とは、第1回大会があった1915年のこと。100回大会という歴史の節目に、第1回大会で準優勝した秋田勢が決勝に駒を進め、改めて大会の歴史を感じさせてくれるという粋な展開。ただ、103年前に秋田勢がどのように戦い、敗れたのかを伝えるメディアは少ない。
そこで本稿では、第1回大会準優勝校、秋田中の戦いぶりをおさらいしたい。そこには、今大会の「金農旋風」に通じる劇的なドラマがあった。
1回目も100回目も9人で戦う秋田勢
秋田中は、第1回大会で全国の舞台に立った10校のうち、唯一の東北勢だ。
そもそも、大会開催が発表されたのは1915年7月1日付の大阪朝日新聞の紙面。
そんななか、東北から唯一手を挙げたのが秋田中。ただ、無条件で出場というわけにはいかず、急遽、秋田中、秋田農業、横手中の3校で東北代表決定戦を実施。これに勝って、第1回大会の舞台、豊中グラウンド行きを決めたのが秋田中だった。
しかし、すんなり全国の舞台へ、とはいかなかった。大会の歴史をまとめた松尾俊治著『不滅の高校野球 上巻』(ベースボール・マガジン社)には、第1回大会に出場した秋田中の捕手、渡部純司選手のこんなコメントが記されている。
《選手は十一人いたんだが、親が反対して、大阪へ行かせてもらえず、その上右翼手野口信吉君が山田中の試合のとき、ねんざしてぎりぎりの人数になった》
時は大正4年。前年から始まった第一次世界大戦の真っ只中。野球なんてやっている場合か、という親がいても不思議ではない。
なお、「山田中の試合」とは全国大会の初戦。9対1と大勝した秋田中だったが、以降の試合は9人だけで戦わなければならなくなった。
ちなみに、今大会で金足農業はスタメン9人だけで戦い抜いていることが話題になっている。9人しかいない、という状況とは違うとはいえ、第1回大会と100回大会でともに9人で戦う秋田勢、という共通点が興味深い。
1回目も100回目も、決勝は「伏兵対西の名門校」
秋田中の次戦、準決勝の相手は東京代表の早稲田実業。当時、中学野球界No.1バッテリーと呼ばれた臼井林太郎と岡田源三郎を擁し、優勝候補と目されていた。
一方の秋田中は、たった9人の雪国学校。小野祥之著『高校野球100年を読む』(ポプラ社)には当時の秋田中の立ち位置についてこう記している。
《第1回大会の戦前の予想では、秋田中は弱いと思われていました。雪国の田舎のチームで、試合経験も少ないからたいしたことはないだろう。そう軽んじられていたわけです。ところが秋田中は、予想外の健闘をみせます。準決勝では早稲田実業(東京)を破り、決勝戦まで進出。(中略)「秋田中には負けることはない」と油断していたのが敗因となったようです》
早実を3対1で下した秋田中は、見事、決勝戦へ。
優勝候補の早実を倒してきた相手だけに、京都二中には驕りや油断はなかったという。再び、『不滅の高校野球』から。
《京都二中は秋田中の長所、短所を徹底的に研究し、秋田中のバッティングはストレートに強く、そのうえ強振気味であったので、京都二中の藤田元投手は下手投げから外角をつくアウトカーブを多く使って秋田の打線をかわした。秋田の長崎投手も好投、バックもよく守って六回まで0─0の投手戦がつづいた》
均衡を破ったのは秋田中。7回表に待望の先制点をあげた。対する京都二中も8回裏に追いつき、試合は振り出しに。結局、9回では決着がつかず、延長戦へともつれ込むことに。これが大会史上初の延長戦である。
この試合、どのように決着がついたのか? 最後は拙著『ざっくり甲子園100年100ネタ』から。
《迎えた13回裏。
一方、敗れたとはいえ、秋田中は大健闘の準優勝。だが、結果としてこれが「決勝で負け続ける東北勢」の第1号となってしまう。東北の悲願は、高校野球100年の悲願となった》
100回目の夏も残すところあと1試合。最後にはどんなドラマが用意されているのか。今大会のために新調された3代目深紅の優勝旗、その行き先がいよいよ決まる。
(オグマナオト)