
新たな香港警察アクションのネタは"爆弾処理班"!
香港製アクション映画において、「警察もの」は伝統的なジャンルである。『ポリス・ストーリー/香港国際警察』『プロジェクトA』など往年のジャッキー・チェン作品や『導火線 FLASH POINT』『SPL/狼よ静かに死ね』といったドニー・イェンのモダンなアクション映画、さらに『インファナル・アフェア』のようなノワールな潜入捜査ものと、傑作が山ほど存在する。
主人公チョンを演じるのはアクションから歌、書道までこなす名優アンディ・ラウ。チョンは香港警察爆発物処理局(EOD)に所属し、潜入捜査で爆弾を使った銀行強盗グループを追っていた。捜査の甲斐あって主犯のホンの弟を含む犯罪グループを逮捕したチョンだが、ホンだけは取り逃がしてしまう。
18ヶ月後、アジア各地に潜伏していたホンが香港へと戻ってくる。手始めにチョンの上官を爆殺したホンは、続いて多数の手下を連れて香港島と本土とを結ぶ海底トンネルを急襲。トンネルの前後を大型トラックで塞いで中に残された人々を人質にとり、トンネル内に1000kgの爆弾を仕掛ける。捕らわれた弟の解放と膨大な身代金を要求するホンは、かつて潜入捜査で自分を騙したチョンを警察側の窓口に指名。タイムリミットは48時間。復讐を果たそうとするホンに対し、チョンと香港警察が打つ手はあるのか。
EODチームが主役というのはなんとも今時のアクション映画……と思いきや、冒頭から潜入捜査&盛り盛りのカースタントが炸裂。あっ、爆弾処理がネタだからって地味なアクション映画ではないのね……とこちらの想像をひっくり返し、映画全体の尺の2/3を占めるトンネル人質テロが発生するころには完全にペースを掴まれている。
このトンネルテロが、なんともよくできている。香港島という膨大な人口を抱えつつも交通には海底トンネルを通らざるを得ない地形を活かし、島全体を半分孤島にするというアイデアは秀逸。さらに大型トラックが突っ込んで銃を抱えたテロリストがだーっと降りてくるという絵面もド派手で映画映えする。もっと言えば、人質事件が長期化することで香港の人々の生活に混乱が生じ、あえて塞がなかった方のトンネルを所有している会社の株価が猛烈に上がることを見越した計画である点もポイントだ。ホンの見た目は黒縁メガネに口髭、髪型は2ブロックで中肉というデザイナーあたりの仕事をしている人みたいな感じなのだが、見た目に違わぬ頭の良さである。
それに対し、アンディ・ラウ演じるチョンはどう挑むのか……というのが『ショック ウェイブ』の見所なのだが、前半では実際のところあんまりちゃんと勝負にならない。というか、ホンにけっこういいようにやられてしまう。その過程でチョンと仲間たちが熱い香港警察魂を見せるシーンもあり、見てるこっちは「なんて卑怯な犯人たちなんだ!」「絶対許せない!」「なんだあの2ブロックは!」という感じで、ふつふつと怒りが湧いてくるのである。
ヤケクソ気味になだれ込むクライマックスは、是非劇場で!
で、チョンと観客のテンションが「もう許せねえ!」というところまで振り切れたところでクライマックスの大銃撃戦になだれ込む。トンネル内を縦横に行き来するカメラワークや、大量に放置されている車の中と外を自在に使い分けるアクションのトンチ具合、敵も味方も全員ヤケクソ気味な熱量と、どこをとっても見所だらけ。
特に音響は凄まじい。『ショック ウェイブ』は最近のアクション映画でよく聞く湿度感がない感じの銃声を採用しており、さらに言えばその音量がなんだか普通の映画より明らかに大きい。
『ショック ウェイブ』の監督はハーマン・ヤウ。『八仙飯店之人肉饅頭』『エボラ・シンドローム 悪魔の殺人ウイルス』といったスプラッタホラーで名を挙げた人であると同時に、「車を後ろ向きに走らせながらカーチェイスをさせる」とか「狭いところでシャカシャカ動く奴は強い」というアイデアが詰め込まれた大傑作アクション映画『ドリフト』で撮影監督をやった人でもある。香港アクションの巨星ツイ・ハークの下でアクション映画に関わっていた経験と、ケレン味のあるエグめの表現で客をビビらせる度胸が、『ショック ウェイブ』では見事に噛み合った形だ。
「ここまでやられたらもう許せねえ!」というヤケクソ感と、それを受け止める悪役の卑劣ぶり、そして唖然とするようなラストまでの流れはパーフェクト。加えてワケありの彼女を作るアンディ・ラウ、大人な恋愛を楽しむアンディ・ラウ、やっぱりエンドロールでは自分で歌うアンディ・ラウと、ラウ味も濃厚で言うことなし。随所に乗っかっている今風なディテールに感心しつつ、「香港電影らしい作品を見たな!」という満腹感も味わえる一本だ。
(しげる)
【作品データ】
「ショック ウェイブ 爆弾処理班」公式サイト
監督 ハーマン・ヤウ
出演 アンディ・ラウ チアン・ウー ソン・ジア フィリップ・キョン ほか
8月18日より全国順次ロードショー
STORY
香港警察の爆弾処理班に務めるチョンは、潜入捜査によってホン率いる強盗チームを逮捕する。しかし18ヶ月後、警察から逃れたホンは香港に戻り、香港島と本土を結ぶ海底トンネルに爆弾を仕掛ける。