
衝動を隠せない山田孝之
面白いことをしている現場をまたしても見られてしまう圭司。真柴祐太郎(菅田将暉)が事務所へ入ろうとすると、部屋の中では「リラックス、リラーックスして」「力はいらない、いらない。スッと曲がる、スーッと曲がる」と、圭司がスプーン曲げに挑んでいた。
祐太郎 フフフフ、いが〜い。ケイがこんなインチキにハマるなんて。
圭司 いや、インチキじゃない。確かにインチキも多いが、中には間違いなく本物もある。世界の権威ある機関が研究してるし、警察だって捜査に活用してる国だってある。だいたい、今の科学で説明がつかないから全否定する、そんなの傲慢な考え……まあ、いい。お前には理解できない。
ドラマが超能力を扱う場合、「トリックありき」の立場を貫く場合と「本物」として描くパターンの2通りがある。『dele』が取ったスタンスは「インチキも多いが、中には間違いなく本物もある」だった。
このドラマが指す「本物」とは、RADWIMPSの野田洋次郎演じる日暮裕司。PDFファイルの死後削除を「dele. LIFE」に依頼していた彼から、遺書ともとれるメールが届いた。そこに書かれていたのは「人は二度死ぬと言う」「呪われた力を持った僕」「あの判断は間違っていなかったはずだ」「あれまで消えてしまうことが正しいのか」という文面。
「あれ」が削除依頼ファイルだと推測した圭司は、自ら進んでファイルを開いた。以前は、頑なに開けるのを反対していたのに……。そこに入っていたのは、子どもが描いた絵だ。
2話のレビューで「ストーリーを転がしているのは祐太郎」と書いたが、今回は圭司のほうがフルスロットル。「今回は特別」という言葉と共に、真相解明のため自ら外に出ると名乗りを上げたのだ。
圭司は衝動を抑え切れない。依頼人宅に到着すると、そこには息絶えた日暮の姿が……。傍らには、日暮が死の直前に描いた絵がある。車椅子からずり落ちてまで、圭司は確認せずにいられない。
「俺は依頼人を知ってる。正確には、25年前の依頼人を。日暮裕司はかつて“天才超能力少年”として世間の注目を集めた男だ」(圭司)
日暮は、飛び抜けた霊視能力を持つ男。行方のわからなくなった人の写真に触れると、その人のいる場所が見えてしまう。日暮は、圭司の幼き日のヒーローだった。
25年前、日暮はある少女の依頼で、失踪した母親の居場所を霊視しようとするも失敗。世間から猛烈なバッシングを受け、以降、日暮はメディアから姿を消していた。
祐太郎 やっぱ、インチキだったわけか。
圭司 違う! 彼の能力は本物だ。最初はみんな、それを面白がった。だが、次第に怖くなった。自分たちの常識で説明ができないからだ。
恐怖したのは、社会だけでなく家族もだ。日暮の両親が離婚した原因は、日暮の能力。父は借金を背負い、すでに他界している。「自分は悪魔を生んでしまったのではないか」と、実の母親からは縁を切られていた。
「このまま消去ってわけにはいかないでしょう。ケイの憧れのヒーローなんだから」(祐太郎)
第4話のストーリーを転がすのは、圭司の衝動である。
すぐに予想できる結末は問題ではない
圭司と祐太郎は、日暮の“最後の依頼人”となった少女・松井美香(松本若菜)に会いに行った。失踪した母親・恭子の探索を、彼女は日暮の霊視能力に頼ったのだ。
美香は近所に住む父・重治(矢島健一)の助けを借りながら幸せな家庭を築いていた。
「あの時、きっと日暮さんには母が死んでいる姿が見えていたと思うんです。死体が見つかったら私が傷付く。
その時、美香の娘・沙羅と重治が帰ってきた。
今回、話自体はシンプルだ。はっきり言って、重治は始めから怪しい。恭子の殺害犯候補としてマークせざるを得ない存在。結局、彼が犯人だった。結末は予想の範疇だが、大した問題じゃない。依頼人の人生の描写こそ、このドラマの本分なのだから。
菅田将暉より山田孝之のほうがウブ
25年前に日暮が描いた絵を頼りに、車を走らせる圭司と祐太郎。
疑心暗鬼だった祐太郎も、日暮の能力をすでに信じかけている。何気なく、祐太郎はスプーン曲げにチャレンジしてみた。すると、コップの水に波紋が起こる。祐太郎が念を送るスプーンはグニャリと形を曲げていた。
圭司 おい!
祐太郎 うわっっ! ……なんで?
圭司 どっ、どっ、どうやった、今!?
祐太郎 あっ!?!?
圭司 なっ、何やった!?
祐太郎 何もしてないよ!
圭司 何もしてないわけないだろう! (スプーンを指差し)こんなになって……
祐太郎 何もしてないよ! (手をかざして)俺、こうやってただけ……
スプーン曲げに成功する祐太郎を見てパニクる圭司。
日暮の描いた絵が山のふもとにあるキャンプ場だとわかった2人は、夜が明けるのを待って向かった。
2人の眼前には広い森がある。美香の母親は、この中に眠っているかもしれない。圭司をおぶおうと祐太郎がしゃがみ込むも、圭司はためらった。
圭司 俺をおぶって森の中を歩くのは大変だろう。一人で行け。
祐太郎 何言ってんの!? ケイの憧れのヒーローが託したデータでしょ!? 自分の目で見届けないでどうすんの。はい、行くよ!
圭司 ……あれだ。足手まといになりたくないな。
祐太郎 こういう時だけ障害を利用するなっつうの。はい、行くよ。
祐太郎におぶわれながら、不気味な雰囲気に怯える圭司。
「超能力信じてる人間が、なんでビビリなんだよ」(祐太郎)
スプーン曲げを見て冷静さを欠き、いざとなったらビビりまくる圭司の可愛らしさ。圭司のチャーミング、爆発。1話ごと、加速度を増して人間らしくなっていくのが圭司だ。祐太郎より、よっぽどウブだし。
野田洋次郎に判断を委ねられた2人
唐突に霊感に目覚め、導かれるように森の中を方向転換する祐太郎。たどり着くと、日暮が絵に描いた瓶が落ちていた。そこを掘り起こしていると、祐太郎は白骨を発見する。日暮の能力は本物だった。
母が発見され、美香はマスコミから取材攻勢を受けた。
マスコミ これで、日暮さんの超能力が本物だったと証明されましたね。
美香 (マスコミを睨みつけ)私は日暮さんの能力を疑ったことはありません。ずっと信じてました。
自分が傷つかないよう、日暮は嘘の絵を描いた。美香はそう信じ続けていた。
「今の私だから母の死を受け止められますけど、10歳の自分だったらどうなっていたか……」(美香)
恭子の遺骨そばには、重治の名刺入れが落ちていた。つまらないケンカの拍子に突き飛ばし、重治は妻を殺害していた。
「何度も警察に電話しようと思いました。何度も何度も。けど、できなかった。言い訳に聞こえるかもしれませんが、母親が殺されて、父親がその犯人だとわかったら、美香はどうなってしまうのか? そう考えたら、どうしても……」(重治)
日暮から届いたメールには「あの判断は間違っていなかったはずだ」という一文がある。死の一カ月前、美香の家庭に訪れたのに何も言わず日暮が帰ったのは、幸せそうな美香の娘を見たから。やはり、真相を伝えるべきではない。日暮に心変わりはなかった。
「あの時、彼には私が恭子を殺している姿が見えたんだと思います」(重治)
日暮の思いを理解する圭司と祐太郎は、重治を責めなかった。
「どうするかは、ご自分で決めてください。ただ、我々の依頼人は、あなたが美香さんの幸せを守り通すことを望んでると思います」(圭司)
「沙羅ちゃん、おじいちゃんのお迎え待ってますよ」(祐太郎)
これまで通り、娘と孫の幸せを考える。そう生きるよう重治を諭し、2人は去った。
死の間際、日暮は逡巡していた。
「彼女の幸せな暮らしぶりを見ても、あの判断は間違っていなかったはずだ。でも、本当にそうなのか? 僕にはもう、何もわからない」
日暮は、依頼という形で判断を「dele. LIFE」に委ねた。責任をもって、圭司と祐太郎はその答えを出した。
二度目の死が訪れるのは、まだ先
「人は二度死ぬという。一度目は、肉体の死を迎えた時。二度目は、誰からも忘れられた時」(日暮)
目的地を告げず、圭司は祐太郎に車を走らせる。辿り着いた先には、日暮が死の直前に描いた絵と同じ風景が。現在、日暮の母親が住む家である。
「日暮さんは死ぬ間際に、自分を捨てた母親を思い出してたわけか」(祐太郎)
日暮は、美香を傷付けないために己の人生を犠牲にした。重治の真実を暴くと、自分と同じように彼女は孤独になる。優しい嘘を付くことで罪を背負い、転落することで、見ず知らずの美香の幸せを守り続けた。身寄りのない日暮からすると、この判断に迷いはなかった。
家から、日暮の母親が出てきた。何の変哲もない、ありふれた日常を過ごしている。日暮が手にすることのできなかった幸せである。日暮は、実の母から「忘れる」という死を与えられていた。
圭司と祐太郎は、日暮の母に接触しなかった。
「俺たちが覚えとけばいい。マザコンの元天才超能力少年のことを。そうすれば、まだ日暮裕司に二度目の死は訪れない」(圭司)
2人だけではない。日暮の能力を美香は信じ続けた。「dele. LIFE」へ依頼したことで、日暮は人の心に残り続ける。二度目の死は、まだ訪れそうもない。
その場を去る圭司と祐太郎に一礼をした日暮。真実を暴かなかった彼が最後に思いを馳せたのは、母親だった。孤独すぎて切ない。
(寺西ジャジューカ)
【配信サイト】
・ビデオパス
・AbemaTV
・テレ朝動画
金曜ナイトドラマ『dele』
原案・パイロット脚本:本多孝好
脚本:本多孝好、金城一紀、瀧本智行、青島武、渡辺雄介、徳永富彦
音楽:岩崎太整、DJ MITSU THE BEATS
ゼネラルプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)
プロデューサー:山田兼司(テレビ朝日)、太田雅晴(5年D組)
監督:常廣丈太(テレビ朝日)、瀧本智行
撮影:今村圭佑、榊原直記
制作協力:5年D組
制作著作:テレビ朝日