その一方で、アッシュのおネェ言葉なキャンディー・バーダンスが入り、ギャップがすさまじい回。終わった後印象に残るシーンが、てんでバラバラなのが楽しい。
とりあえず月龍の私服がやたら派手でしたね…。

●ディノの偏愛
物語序盤では、残虐変態マフィア、といったラスボス感満載だった、ディノ・ゴルツィネ。アッシュを性的に搾取し、心をずたずたにした張本人。アッシュが自分に牙をむきはじめてからというもの、やれ生け捕りにするだの、この手で殺すだの、剥製にするだのと、彼の執着も暴走しっぱなし。
そんな彼が、今回人体実験される寸前だったアッシュを救出している。
麻酔で倒れていたアッシュが目覚めた時、ゴルツィネが語りかける。
「何というざまだ。あれほど威勢のいいたんかを切ったお前がその醜態は何だ」
麻酔は一時間で覚める、と確認した上で、ゴルツィネはその間ずっと待っていた。一時間あれば彼ならアレやらコレやらなんでもできそうなものだが、ただひたすら待っていたようだ。
「わしをにらみ付けるだけの気力は残っているようだな、ならば必ず生き延びろ。
敵意じゃなく、叱咤激励だ。このシーンで、視聴者からは「いいやつか悪いやつかわからない」という声がちらほらあがった。
善悪で言えば、ディノは極悪人だ。少年たちをさらって売りさばき、闇でお金をしこたま儲け、バナナフィッシュに手を出して、アメリカの政治に踏み込んでいるんだから、善人要素はゼロだ。
ただ、彼は「アッシュのためなら何もかも失っても構わない」くらいの意気込みをずっと見せている点で、最初から一切ぶれない。
ゴルツィネのアッシュに対する感情は、性愛も芸術も野望も憎しみも、何もかも混じってわけがわからないことになっている。
今回アッシュを救った際も、アッシュが元気になって這い上がってきたら、また追い詰めてやるっていうんだから、彼の愛情はかなり面倒くさい。自らの野望のために利用をする目論見もあるのだろうが、今回一旦見逃しているように、いろんなところで回りくどい。
ゴルツィネの一途すぎるねじれた感情は、意外と多くの人の共感や美学に触れたのか、原作連載時かなり人気だったことが「BANANAFISH ANOTHER STORY」に収録されている「うらBANANA」で語られている。
●二人のチャイニーズ
アッシュ死亡のニセ報道で再び動き出した二人のチャイニーズ、月龍とシン。
ここしばらくの月龍は、身内に薬を使ったりとやりすぎな行動が目立つ。手段を選ばなくなってきた。
彼はエイジに真正面から言う。
「ぼくは彼にとって恐ろしい敵になるだろう。だからはっきり言っておく。これからも僕は君を狙う」
彼の残忍さや知識量や技能等々、実力はさんざん描かれてきたので、迫力のあるセリフなのは間違いない。けれども強い言葉を使いすぎるので、どうにも精神的には負けかけていて、虚勢張っているようにも見えてしまう。
エイジに「撃てよ」と煽り、「なぜお前なんだ!」と嫉妬を向ける、どうにもすっきりしない様子の月龍。
それに対しての、年下のシンの言動が印象的。
「あんたそんなに死にたいのか?」と問いかけつつ、ひねくれて街を歩いていく月龍の後を「やっぱほっとけねえもんな」と追いかけるシン。
月龍はシンの保護者として立ち回っているが、実際はシンの方が冷静でまっすぐなのが、ちらほら見えてくる。
シンは、アッシュに勝てない自分をちゃんと理解した上で、リーダーとしての責務を背負い成長し続けようとする、次世代の少年だ。
面倒くさい想いを抱えた人間が多い中、騙し合いをせずど直球で突き進む姿勢は、見ていて気持ちがいい。
ここから先、アッシュ・エイジを客観的に捉える別の視点の主役級キャラとして、シンは物語を背負っていくことになる。
(たまごまご)