ギアゴーストと佃製作所のあいだに割り込もうとする者が現る


「ゴースト編」ではこれまで、トランスミッションメーカーのギアゴーストが、外資系メーカーのケーマシナリーに特許侵害で訴えられたことを軸に物語が展開してきた。その裏にはギアゴーストから、ケーマシナリー側に情報を流す内通者の存在があった。第4話ではその正体があきらかになる。


一方、主人公である佃製作所の社長・佃航平(阿部寛)は、危機に陥ったギアゴーストを支援するため買収しようと、先方の社長の伊丹(尾上菊之助)と副社長の島津(イモトアヤコ)と交渉を進めていた。そこへ来て伊丹は、ケーマシナリー側の仲介で、小型エンジンメーカーのダイダロスからもひそかに買収の打診を受ける。ケーマシナリーとしては、ギアゴーストがダイダロス傘下に入ることで和解に持ち込もうという狙いだ。じつは伊丹とダイダロスの社長・重田(古舘伊知郎)には過去に因縁があった。

重田の父親(中尾彬)は帝国重工の下請けの小さなメーカーを経営していたが、あるとき、突如として契約を帝国重工の的場(神田正輝)から打ち切られ、倒産に追いこまれてしまう。契約打ち切りを宣告されたとき、父とともに的場に土下座していたのが重田であり、それに対し的場の部下として居合わせたのが帝国重工時代の伊丹だった。前回、第3話で流れたそのシーンが第4話でもフラッシュバックすると、そこに重田がいたという見せ方がうまい。重田はその後、父親が失意のうちに亡くなると、その隠し資産を元手にダイダロスを設立し、仇を討つかのように伊丹の前に現れたのである。

これと並行して佃製作所の社内でも、大きなできごとが持ち上がる。経理部長の殿村(立川談春)が、病気になった郷里・新潟の父(山本學)に代わって家業である農業を引き継ぐため、会社をやめることを決めたのだ。第4話の終盤では、殿村がそのことを佃に打ち明ける。彼はその決意を佃に讃えられながら、会社が支援するギアゴーストの裁判だけは最後までみんなと一緒に闘わせてほしいと懇願するのだった。

「下町ロケット」中村梅雀演じる善人弁護士の化けの皮がはがれる、そして殿さん!4話
イラスト/まつもとりえこ


内通者に中村梅雀というキャスティングが見事


第2話、第3話ではドラマオリジナルのエピソードが中心となっていたのに対し、ここまであげた第4話の展開は、池井戸潤の原作小説『下町ロケット ゴースト』の後半部分にかなり忠実になぞっていた。ただし、同じ展開でも、原作を読むと比較的あっさりとした印象を受ける。逆にいえば、それだけドラマはこってりとした描写になっているということだ。

ギアゴーストからケーマシナリー側に情報を流していた内通者を明かすのも、結構ひっぱった。最初はギアゴーストの社員の柏田(馬場徹)かと思わせぶりに見せておきながら──柏田がケーマシナリーの弁護士の中川(池畑慎之介)とさも電話をしているかのようなカットを挿入しながら──、じつは内通者は、ギアゴーストの顧問弁護士・末長(中村梅雀)だったとようやく判明する。

あらためて振り返ると、末長役に中村梅雀というのが絶妙なキャスティングだったことに気づかされる。温厚でいかにも善人といったキャラだけに、身内がだまされたのも無理はないと思わせる説得力。それでいて、今回の訴訟を裏で仕掛けていたとわかるや、そのタヌキぶりが目につくようになる。伊丹たちに内通者ではないかと鎌をかけられ、すっとぼけるさまはまさにそれだった。また、じつは旧知の仲だった相手方の弁護士・中川とのツーショットは、まるでタヌキとキツネのようでビジュアル的にもハマっていた。

田植えのエピソードが思わぬ形で活かされる


殿村が農家を継ぐことを決意するまでの経緯も、原作とくらべるとかなり濃密に描かれていた。米作りのことを知りたいと言う殿村に、すでに先祖代々の田んぼを手放すことを決めた父は「おまえはおまえのままでいい」と会社にとどまるよう促す。このとき、父は佃製作所をいい会社だと褒めるのだが、このセリフは、それまでに佃たちが殿村の実家を訪ねては、泥だらけになりながら田植えを手伝ったりしていたからこそ出たものだった。
社長と社員が一体となってあらゆる物事に取り組む佃製作所の社風が、田植えというドラマ独自のエピソードを通じて、殿村の父にもしっかりと伝わっていたのである。

このあと、殿村は父親がついに田んぼを手放すことになったと佃に電話で伝えた。だが、父が田んぼの前に一人たたずみながら、夕日に向かって拝む姿を目にして心を動かされる(これは原作にもあるシーン)。このときのBGMは前回に続き、少年合唱団LIBERAの歌う「ヘッドライト・テールライト」。それもあいまって、殿村と一緒に見ているこちらも胸が熱くなった。

こうして殿村が退職する決意を固め、寂しさが漂うなか、物語は一気に裁判になだれ込もうとしていた。佃はギアゴーストを援護するべく、ケーマシナリーが特許侵害と訴える技術が、特許申請前にすでに発表されていたものだと証明するため、社員たちと手分けして過去の論文を漁る。そうしてやっと一つの論文(島津の卒業した大学の院生が発表していたもの)を見つけ出すも、顧問弁護士の神谷(恵俊彰)は、まだこれだけでは裁判に勝てないという。はたして佃たちはその壁をいかにして乗り越えるのか。また、ここへ来て佃製作所だけでなく、ダイダロスからも買収を持ちかけられた伊丹は、果たしてどちらを選ぶのか。第2部となる「ヤタガラス編」に向け、新たな序章としても今夜放送の第5話は見逃せない。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ゴースト』(小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健太
【製作著作】TBS
編集部おすすめ