「ドラマ25」は金曜日の深夜0時50分過ぎから始まる深い時間帯のドラマ枠で、「SR サイタマノラッパー〜マイクの細道〜」や「セトウツミ」、先日映画化された「宮本から君へ」などの野心的なドラマを生み出してきた。
前クールの「サ道」からは「趣味ドラマ」とでも呼ぶべき路線が始まっているようで、今回、ドラマの中でフィーチャーされているのが「ひとりキャンプ」。芸人のヒロシがYouTubeで広めた「ソロキャンプ」と同じもので、アニメ「ゆるキャン△」では主人公の志摩リンがひとりキャンプを楽しんでいた。
主演は三浦貴大と夏帆。「ひとりキャンプ」というタイトルの文字が象徴するように、ふたりは共演するわけではなく、三浦が奇数話、夏帆が偶数話の主人公を演じるという変則的なスタイルをとっている。監督は奇数話が映画「ウルトラミラクルラブストーリー」などの横浜聡子、偶数話が映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」などの冨永昌敬。

「ひとりキャンプ」は低成長時代の趣味
ひとりキャンプでやることと言えば、「火を起こして料理して食う」に尽きる。筆者はひとりキャンプの経験はないが、実はソロキャンプやたき火料理のYouTube動画はたまにボーッとしながら見てしまうことがある。また、家族でキャンプに出かけたときの「たきビール(たき火を見ながらビールを飲む行為)」はたまらなく好きだ。
主人公の健人(三浦貴大)の得意技は缶詰料理。オープニングでは缶詰のコーンをバターで炒めて黒胡椒を振り、ハグハグ食べながらビールをグビグビ飲んでいた。こんなの美味いに決まっている。
健人はひとりキャンプをわりかし無表情で楽しんでいる。
「控えめで慎ましく、主張をしすぎない。とびっきり美味いわけでもないが、いかなるときもこちらの期待を裏切らない。この缶詰という食べ物」
これが、健人による缶詰評。すると、「まるであなたみたい」と理恵子の声がする。健人は缶詰のような男なのだ。人々が宇宙へ行くという新聞記事を読んで、こんなことを呟く。
「また宇宙へ行くのか。手が届かないから美しいものだって世の中にはたくさんあるのに」
健人には欲があまりなさそうだ。高価なキャンプ道具を揃えて悦に入ることもないだろう。きっと「人脈」とか言い出したりしないし、ガツガツと欲深いホリエモンの本や自己啓発本も読んだりしないと思う。無理して背伸びするのではなく、地に足がついている。
ひとりキャンプを楽しむ人は、健人のような人が多いのかもしれない。恋人を失ったら、すぐさま新しい恋人をつくろうとあがくのではなく、しみじみと思い返したりする。富士山に登るより、富士山を遠くから眺めて満足する。孤独を愛しているわけでもないが、ひとりでもお金をかけずに楽しめる。ひとりキャンプは、低成長時代の趣味とも言える。
「変化とか成長とか胡散臭い言葉に人生をかすめ取られたりしない、孤粋なソロキャンパー、健人と七子。二人がとても好きだ」。
(大山くまお)
作品情報
ドラマ25「ひとりキャンプで食って寝る」
監督:横浜聡子(奇数話)、冨永昌敬(偶数話)
脚本:冨永昌敬、保坂大輔、飯塚花笑
音楽:荘子it(Dos Monos)
出演:三浦貴大、夏帆
主題歌:Yogee New Waves「to the moon」
プロデューサー:大和健太郎、滝山直史、横山蘭平
制作:テレビ東京、東京テアトル
※動画配信サービスひかりTV、Paraviで放送1週間前から先行配信
※放送後にTVerで配信中