本能をおさえ、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。
今日10月30日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。
「BEASTARS」学校で噂のビッチなウサギ「あの子はそんな一言で片付く子じゃない」3話
『BEASTARS』コミックス3巻 原作:板垣巴留

ビッチと呼ばれるあの子


「あの子さ、色々なオスに手出しまくってて相当ヤバい子らしいんだよね。いわゆるビッチだよ。ありえないよな、あんなおとなしい顔してさ」
小さくかわいらしいメスのドワーフウサギ・ハルは、誰とでも寝る女の子だ、と後ろ指をさされ続けていた。
アニメ1話ではその噂話のせいで学校の女子から疎まれ、陰湿すぎるいじめ行為を受けていた。彼女の事を知る男子たちは、怪訝そうにして近づかない。

でもそれは本当の話だった、というところから3話はスタートする。
ここで使われている「ビッチ」という単語は、日本語でいうところの「尻軽女」や「あばずれ」のような、罵倒の言葉。英語の原義であるメス犬のことではない。ウサギのハルは誰とでもヤる子だ、という部分だけを取ると、侮蔑語ではあるものの、事実だ。
彼女の性的行動には理由がちゃんとあるのだが、当然周りはそんなことを知らない。

ハイイロオオカミのレゴシは、周囲のハルへのビッチ発言に対して、考える。

「彼女周りからビッチとか言われてるんだ。あの子はそんな一言で片付く子じゃない」
噂について否定も肯定もしない。
大事なのは「それだけではない」多面的な部分がある、という点だ。
レゴシ「花をすごく大事に育てて、自分の子供だって言ってた」「色々あるのかもしれないけど、多分いい子だよ」
絶対にいい子、と言う盲目な断定もしない。彼女の性行動に関して「色々ある」事実は、ちゃんと認めている。
レゴシは普段からアンテナを高くして、相手の「いい部分」がどこなのか、目を向けてようとする生徒だ。特にハルに対して興味がわいている彼は、彼女の行動一つ一つを敏感に観察している。

『BEASTARS』に登場する動物たちは、姿形や種の本能で、なにかとレッテルを貼られがちだ。抗えない行動様式のズレもある。ゆえに苦労する動物が沢山いる。
しかし人間同様、種でくくれない個々人には、好みや性癖など多様性がある。
今回の演劇部の話にも関わってくる。
部員の中には、女王様のバイトをしていたヒョウや、集合体恐怖症のキリンなど、普段は見せない一面を持った生徒が沢山いる。その悩みや歪みだけが、相手の評価を決めるものにはなっておらず、全員部で活躍している。。
各々の生き方は、是でも否でもない。自分と周囲が多角的に個を見つめ、受け入れるかどうかが、作中の動物たちに問われている。

自己を認める


今回の出来事で、レゴシはしっぽを振るのを抑えられないくらいに、「オス」として見られていたことに喜びを覚えている。
レゴシは、あらゆる動物から恐れられる、頑丈な身体を持っている。だから自分の爪と牙を隠し、なるべく目立たないように、迷惑をかけないようにコソコソ生きてきた。
これは彼にとって、相当な抑圧。自分の身体を否定しているうちに、自主的な発言も、感情を出すこともしなくなっている。

ハルは(望んでいたわけではないが)彼を「オスオオカミ」として認め、性的に迫った。
性的に向き合うということは、レゴシにとって一対一の対等な目線になる体験だったのだろう。捕食者・被食者、強者・弱者のようなくくりではない状況は、彼にとっては生まれてはじめて。

レゴシ「俺は暗闇に紛れているだけの怪物じゃなく哺乳類で肉食獣でイヌ科で、1匹のオスオオカミ」「少し自分が見えかかったような、明るい所に出られたような、前に歩けるような」

彼の自己肯定の始まりだ。ここから、レゴシは自分の長所短所の両面を受け止め、理解し、飲み込もうと努力し始める。
明確な自我が生まれ、思想が強度を増していくのは、もう少し先のステップの話。

各々が強くあること


一方でアカシカのルイは、自分のみを信じ、他人を一切信じていない。演劇部の中心人物として全員を鼓舞しているものの、それは本心ではなく、まがいものの言葉。彼の本心が、演劇を通じて3話でグイグイ描かれていく。

レゴシがルイに「草食」という発言をした際、彼は「俺を草食でまとめるな!」と激昂している。
肉食と草食が共に暮らす世界への思いというよりは、成長途中の青年が感じる自分自身への執着に近い。
力の強いレゴシに対して、どれだけ鍛えても身体が細いルイ。「俺に牙を見せてみろ」「俺を噛め!」とつっかかっているのは、結局は法と本能がこじれた世界での、肉食獣・レゴシへの脅しでしかない。
レゴシの牙がほんのちょっとルイの手に刺さった時、子どものように怯える表情が一瞬だけ入る。
もちろんレゴシは噛むつもりなんてない。
レゴシの爪が日々勝手に尖ってしまうように、爪と牙に怯えてしまうのは抗えない草食動物の生態だ。

レゴシ「あなたが強いことには大きな意味がある。明日みんなはそれを見に来ます。ルイ先輩の正しい強さを」
草食動物のルイがビースターとして頂点に立てば、草食動物と肉食動物が共存する世界の象徴になる。レゴシに悪意は一切ないのだが、ルイとしては力の強い肉食獣に言われるのは屈辱甚だしいだろう。じゃあどうすればいいのか、というのはルイもわかっていない。レゴシに対して激しくがなりたてる彼の姿は、横暴というよりは、幼い。

草食のルイが強くなることと、肉食のレゴシが強くなることは、ベクトルが違う。
しかしどちらにも、鍛える強さは必ずある。
原作では動物たちそれぞれの「強さ」のあり方に触れ続けている。複雑な事情も含め、アニメではどこまで表現してくれるか楽しみ。

(たまごまご)
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