『先生を消す方程式。』口あんぐり。このドラマはこれまでの田中圭を消す方程式。に挑んでいるのではないか
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

ドラマについて一晩考えてみた『先生を消す方程式。』7話

「BAKA 馬鹿!」っておまえ(朝日)が馬鹿だろとしか言えない。


【前話レビュー】妄想か芝居か――義経がゾンビ化「このドラマ、嫌いじゃないです」と言わせてほしい

『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系 / 毎週土曜よる11時〜)7話は、いじめられっ子だった朝日(山田裕貴)の妄想オチとしか考えられなくなってきた。虐げられた人間の心の中がどれだけ混沌と荒れ狂うか、理屈を超越したものに挑みたいという作り手の野望? 予定調和ではない「まさか」を本当に描こうとする、深夜ドラマの解放区。

義経(田中圭)がゾンビになって、彼を生き埋めにした刀矢(高橋文哉)、弓(久保田紗友)、薙(森田想)、力(高橋侃)を狙っている。学校のどこかに隠れている義経を退治しようと朝日は校長先生(手塚とおる)に頼み、学校を休みにして、警察に捜索を頼む。

だが、校長先生も警察(機動隊)もじつに緊張感がない。ろくに調べもしないで大人数で校内を捜査した末、催涙弾を仕掛けても出てこないからととっとと帰ってしまった。

天井や跳び箱の中に息を殺して隠れている義経。鍛えられた筋肉がコントラストの強い照明によって深い陰影をつくり、それが義経の長い時間積み重ねた恨みと重なって見える。ゾンビというとたいてい青白い顔で、目が落ち窪み、頬がこけ、ひ弱そうなのだが、義経は逆にものすごく強靭な身体で、モンスターのようだ。

「脚力すごい」と朝日に言われるほど、身体が異常に発達した猛獣化した義経が、標的に襲いかかる。言葉を発さず、その身体のみで憎悪を表現する義経の姿は、『新世紀エヴァンゲリヲン』第20話、覚醒したエヴァが、シンクロ率400%を超えて暴走し、使徒を貪り食う、壮絶回のようだった。


今回の方程式は――

追いかけっこと絶叫のせいか、すっかり頬がこけてしまった気がする刀矢に復讐しようとする義経を、間一髪、伊吹命(秋谷郁甫)が止める。

「そんなことしては静先生は喜ばない」

憎悪に支配された怪物が、たったひとつの良心によって改心することは物語にはよくあること。ここから転調。義経は、静(松本まりか)の気持ちに応えて、最後まで生徒を教育しようとする。

“義経、最後の授業”となると、本来カタルシスなのだが、「先生は生きているんですか? 死んでるんですか?」(刀矢)と、生徒たちも半信半疑。

それには答えず、過去に妹を殺した加害者である刀矢に、都合の悪いものは消せないから「一生苦しめ」「もう逃げるな」「苦しみながら生きろ」と義経は被害者の立場から語りかける。

7話の方程式はこれ↓

犯罪を犯した人生×償い=結局、犯罪者
人―命=思い出


「結局、犯罪者」というキラー過ぎるワードは、見ているこっちをゾンビ化する。口あんぐり。がおー。

理屈では割り切れない世界のなかで倫理を説くことはなかなかハードルが高い。生と死がごっちゃになっている中で、人を殺してはいけない、自らも死んではいけない、どんなことがあっても生きるしかないという呼びかけは響きづらい。少なくとも、未成年の犯罪という部分に重きを置いていないだろう。単なるフックでしかないのだと思う。


刀矢が自分のしたことに向き合って、無様でも生き続けたら、きっと仲間が助けてくれると、義経は4人に手をつながせる。そこに例の主題歌が流れる。これまでさんざん主題歌をかけたあとに裏切りの展開があったので、全然感動できない。それもまた狙いかもしれないけれど。

『先生を消す方程式。』口あんぐり。このドラマはこれまでの田中圭を消す方程式。に挑んでいるのではないか
第8話は12月19日放送。画像は番組サイトより

田中圭を自由に解き放つプロジェクトなのか

そう、まだお話は終わらない。刀矢が、義経のカラダに何か気づく。

「先生、もしかして」

そこへ朝日が現れ、また猟奇的な行為を……。

こういう展開は、小劇場の演劇などではあって、エキセントリックな人物がエキセントリックな行為で驚かすことが意外と面白かったりすることもあるのだが、それは一気に転がっていく勢いの面白さであって、テレビドラマの場合、CMで途切れるうえ、一気にラストまで見られず、来週に続くので、熱が覚めてしまう。

だが、そんな不利な状況にもかかわらず、愛する静の姿を見た義経の表情の変化の鮮やかさよ! 見開いた瞳の縁になんともいえない愛と哀しみが滲む。これこそがこのドラマの唯一の良心である。

カンタンに演じ分けられてしまう天才なのか、それなりにすごく苦心しているのか、そもそもこのドラマをどう感じているのかわからないけれど、これだけの演技の才能が使われるべき場所はほかにある。

このドラマのように、東大に合格できそうな頭のいい子どもたちが間違った道に進んでしまうことを義経が阻止しようとするように、才能は大切に育まないといけないと、深夜、ひとり真剣に考えて、朝を迎えてしまったが、ここまで不謹慎で破壊的な内容を、ある種のエリートたちがいたずらに作るだろうかと首をひねったとき、閃いたのは、ひとつ。

これまでの田中圭を消す方程式。
に挑んでいるのではないか。田中圭にぴたっと張り付いて消せない強烈な印象や期待を破壊して、彼をもっと自由に解き放とうという壮大なプロジェクト。しかも決して彼を貶すことはなく、むしろ、芝居が巧く、幅も広く、どんな状況にも対応可能であるという信頼感をますます強固にするという、考え抜かれた一作だったとしたら――。

◎最終回あらすじ
すべての記憶を取り戻した義澤経男(田中圭)と藤原刀矢(高橋文哉)、長井弓(久保田紗友)、大木薙(森田想)、剣力(高橋侃)らがいる教室に、車いすに乗せた前野静(松本まりか)を連れて現れた、頼田朝日(山田裕貴)――。
朝日は、自分に逆らえばすぐにでも彼女の人工呼吸器を外すと義澤をけん制し、今から“授業”を行うと宣言。高校時代、担任教師だった静をなぜ階段から突き落としたのか、得意げに語りはじめる。義澤は怒りに震えるものの、静を人質に取られ、身動きが取れずにいた…。

やがて朝日は義澤を刺すよう、刀矢にナイフを渡す。「お前が刺さなきゃ、静を殺す」と脅され、追い詰められた刀矢は、やむなくナイフを握りしめて――!?

義澤、朝日、静、生徒たち――それぞれに驚がくの結末が待つ、衝撃の最終話! はたして<義経VS頼朝>最終決戦の行方は…!? そして、義澤が命をかけて生徒たちに伝えたかった<いのちの授業>とは…!?


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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami

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番組情報

テレビ朝日系『先生を消す方程式。』
毎週土曜よる11:00〜

公式サイト:https://www.tv-asahi.co.jp/houteishiki/
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