『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
イラスト/おうか

※本文にはネタバレがあります

ヒット要素重なる『天国と地獄』1話

日曜劇場『天国と地獄〜サイコな2人〜』(TBS系 毎週日曜よる9時〜)の第1話は視聴率16.8%(ビデオリサーチ調べ / 関東地区)と評判上々であった。

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綾瀬はるか演じる正義感の強い刑事と高橋一生演じる猟奇的殺人犯(容疑者)の魂が入れ替わる。ファンタジックな設定は放送前からアナウンスされていた。
それこそがこのドラマの売りである。第1話は25分拡大スペシャル。その間、いつふたりが入れ替わるかと目が離せなかった。入れ替わったのは――

1時間を5分超えたところ。それまでは、ごく普通の警察もの的な流れで、殺人事件の真相をめぐり手柄を取り合う個性豊かな警視庁の人々の駆け引きが描かれていた。そこまでの引っ張り方が見事だった。そして、満月を使った演出もあやしい雰囲気を盛り上げた。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
(C)TBS

主人公・望月彩子(綾瀬はるか)は正義感が強く、何かと「〜すべき」と人に倫理観を押し付け、煙たがられている。真面目に捜査しているにもかかわらず、ほかの者たちばかりが手柄を立てるのでストレスが溜まるばかり。あるとき、撲殺された上に、口内に大量のパチンコ玉を詰められた猟奇的な殺人事件が起こり、望月は手柄を立てるチャンスを得る。

イケメン経営者・日高陽斗(高橋一生)はかつてアメリカでシリアルキラーの容疑をかけられたことがあったことを突き止め、日高に捜査令状を出せるところまで調べ上げたが、後輩の八巻英雄(溝端淳平)の勇み足によって、悔し涙にくれる。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
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いつも汚い手を使って捜査し手柄をあげている河原三雄(北村一輝)から、自分の手柄を優先しているだけと指摘され、言葉に詰まる望月。
それでもあくまで汚い手をつかわず、地道にコツコツ捜査した結果に基づき、日高を追い詰め自首をすすめるが、歩道橋でもみ合った末、ふたりとも転倒、その結果、互いの魂が入れ替わってしまう。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
(C)TBS

第1話の白眉は入れ替わってから。目を冷ました日高(中身は望月)の第一声の「はっ」から「そうか、あのあと……」というか細い声。そして起き上がってからの一連の仕草。真に綾瀬はるかが乗り移っているようだった。おそらく、綾瀬はるかをはじめとし、女性の動きをよく観察し、真似ているのだろう。

指先にまで神経を届かせ、やわらかに動かしている。こういう作業には、かつて高橋が、舞台『から騒ぎ』(08年)で女性役を演じた経験が生きていると考えられる。歌舞伎の女形の手法である。女性の仕草を徹底的に研究し、女性らしく見える究極の部分を取り入れることで、実際の女性以上に女性らしく見えるのである。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
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そのためには自在にコントロールできる身体能力も必要で、女形はちょっと肩を落とすこともやる。女性に限らず、モノマネはその人らしさを誇張することが大事。
高橋一生はみごとにそれをやっていた。

一方、綾瀬はるか。サイコパスらしき日高の魂をカラダに入れた望月は、いつものサバサバした雰囲気とは違い、ちょっと色っぽくなって、八巻をドキリとさせる。

日高のかばんの中には、凶器らしき石が入っていた。証拠がせっかく見つかって日高が捕まっても、その精神は望月である。犯罪者・日高は望月の肉体の中で逃げおおせる。前半、望月の生真面目な性格と、海千山千の警視庁の組織の中で割りを食っている悔しさなどを丹念に描いているからこそ、日高と肉体が入れ替わってしまったショックは大きい。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
(C)TBS

さすが、構成力の高さを誇る森下佳子脚本。『JIN』も彼女が優れた原作漫画を確実に脚本化したもので、近年のヒットドラマのひとつ『義母と娘のブルース』(18年)もそう。原作もののまとめも巧みだが、オリジナルでも、朝ドラ『ごちそうさん』(13年)や大河ドラマ『おんな城主 直虎』(17年)と長編を組み立てるアイデアと胆力も抜群。

カラダを奪われた主人公がどうやって犯罪に立ち向かうか、望月のがむしゃら過ぎて融通の利かない性格がこの事件を通してすこし成長するのか。とても気になるはじまりだった。


『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
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望月と考え方が違う、不正をしても罪を暴く河原を演じる北村一輝の、嫌なヤツか本当は良い人かわからない混沌とした魅力と荒くれ者感や、控えめな後輩・八巻を演じる溝端淳平が、同じく日曜劇場『新参者』シリーズや『BOSS』(フジテレビ系)などで演じてきた、場をわきまえつつうまく支え息抜きになる安定の部下感、望月の謎の同居人・渡辺陸を演じる柄本佑など、脇もしっかり固めていて、満足度が高い。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
(C)TBS

日曜劇場は『テセウスの船』(20年1月期)のヒットから、『危険なビーナス』(20年10月期)、『天国と地獄』とミステリーものが続く。今回は、ミステリーのみならずファンタジーが加味されている。

その昔、SFドラマは当たらないと言われていたが、日曜劇場は、江戸時代にタイムスリップした医者の『JIN -仁-』(09年)を大ヒットさせ、それがコロナ禍の2020年の再放送でも人気だったこと、同じくタイムスリップして過去に起きた冤罪を晴らすミステリー『テセウスの船』も人気と、SFが当たらないジンクスを打破してきた。

『天国と地獄』人気の入れ替わりもの×ミステリーのヒット要素重なる日曜劇場新ドラマ
(C)TBS

そこに今回の、ジャンルミックス――入れ替わりもの×ミステリーである。入れ替わりものは大ヒットしたアニメーション映画『君の名は。』(16年)によって受け入れられやすくなっている。ヒット要素が重なった『天国と地獄』は大きく跳ねる可能性がある。

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番組情報

TBS系
『天国と地獄〜サイコな2人〜』
毎週日曜よる9時〜

出演:綾瀬はるか 高橋一生
柄本佑 溝端淳平 中村ゆり
迫田孝也 林 泰文 野間口徹 吉見一豊 馬場 徹 谷 恭輔
岸井ゆきの 木場勝己
北村一輝

脚本:森下佳子
編成・プロデュース:渡瀬暁彦
プロデュース:中島啓介
演出:平川雄一朗、青山貴洋、松木彩
音楽:高見優

製作著作:TBS
(C)TBS

番組サイト:https://www.tbs.co.jp/tengokutojigoku_tbs/


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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