
※本文にはネタバレがあります
嬉しいゲスト登場の『俺の家の話』8話
『俺の家の話』(TBS系 毎週金曜よる10時〜)第8話はダブル車椅子。寿三郎(西田敏行)のみならず寿一(長瀬智也)も車椅子生活を余儀なくされる。【前話レビュー】『俺の家の話』が他の追随を許さない理由 山賊抱っこは最大の発明
プロレスの試合中、勢い余って「必ず幸せにします」とさくら(戸田恵梨香)にプロポーズした(第7話)その帰りに山賊抱っこしたときに右足のアキレス腱を切ったのだ(これはあとでわかる流れになっているが、その場面を改めて見ると軽く「ブチッ」とSEが入っている)。
寿一の足の不調にすかさず気づいたのが寿三郎と長州力(本人)。ちょっとした不調にも敏感なふたり。長年、技を磨いてきた者たちだからこその気づきだろう。
思いがけない父と息子の車椅子生活に、寿一とさくらとの深まる恋、寿三郎の病状が悪化したための終活はじめ、再び観山家の崩壊の危機……と畳み掛けるようにさまざまな出来事が起こる。原因は、寿三郎の介護問題だが、トリガーは女性問題である。
弟・踊介(永山絢斗)が勝手に舞い上がっていただけとはいえ、寿一は踊介のさくらへの気持ちを知りながらもさくらへの恋が止まらない。恋には後先や義理人情はない。やがてLINEの送り間違いで、ふたりの秘密の仲に気づいた踊介がキレる。
「寄るな、さわるな、この女」
「さくら」でなく「女」であるのは韻を踏んだから。それはそうとして、「女」と概念化することで、さくらひとりに限ったことではない「女」の問題に拡大する。「弱き者よ、汝の名は女なり」と言ったのはハムレット。父が亡くなってすぐ叔父と再婚した母に対してハムレットは傷つき、人間というか女性不信に陥る。
女対女
さくらという「女」が加害者としたら、舞(江口のりこ)という「女」は被害者だ。「この家で女で生まれて女でいるのがどんだけしんどいか」と男が跡継ぎになる能の大家の家で、女性であることのつらさを味わってきた。父の浮気に泣かされてきた母の想いを唯一知っていた舞。夫・長田(秋山竜次)まで浮気をしていた。でも「別れない。別れたら許すことになるじゃん」と夫に対して執念深さを見せる。寿三郎のことも「多分、一生許さないからね」と冷たく言い放つ。
寿限無(桐谷健太)が初恋の人で、いまになってきょうだいだったことを知らされたことに対する心痛もあって。舞、能面のようにあっさりした顔の下に、ものすごい感情が波打っていたことを、ここが見せ場とばかり一気にまくしたてる。
寿限無は寿限無で、息子として寿三郎の介護をしていたものの、風呂の介添えに身を任せられないと言われて寿三郎の身勝手さに怒る(当然)。これも元をただせば、寿三郎が浮気したせいだ。
女対女。
「さくらさんと結婚しようと思う」
寿一は能の「隅田川」に挑み中。子供を失った母親の悲しみを理解するのに「1年かかるか10年かかるか」と寿三郎に言われた寿一。日常生活で女たちの哀しみに触れながら、役の感情に到達することができるか。ユカは、寿一は、「うちら(ファン)の分まで戦ってくれるやん。勝ったら心から笑ってくれるし、負けたら本気で悔しがってくれる、あんな気持ちええ男おらん」と評する。それは能面のようだとも。「与えてはくれるけど、こっちが返しても受け取ってくれへん」。だからこそ、さくらのように思い込みの激しい人がずっとファンとしている分には傷つかずに済む。
寿一=妖精説は、長瀬智也=妖精説に置き換えることも可能であろう。寿一、そして長瀬智也は、まさにいま、女たちのドラマをその顔に映し出しているところだ。
一方、寿三郎は、これまで、野菜の名前は忘れても、長年やってきた能のことは忘れずにいたが、能の謡も忘れてしまう。ショックを受けてひとり隅田川の岸辺に佇む寿三郎は、寿一からのビデオメッセージを見る。寿一は「あんたがボケる前に言っておきたいことがある」と感謝したうえで、「さくらさんと結婚しようと思う」と報告する。

このビデオを撮ったときに別れたかみさん(ユカ)が来ていると呼び出されること。見ているときにさくらが来てマフラーをやさしく巻くこと。もともとは寿三郎が好んで連れてきたさくらを、最初の妻と別れた寿一が愛すること。……女性たちとの関係も、仕事も、家も、あらゆるものが流転していく。寿三郎が思い出した謡と共に、人生を、人間の世界を、隅田川が見つめている。
寿三郎はグループホームに入り、ユカは再婚相手の子供を出産する。命が循環している。『俺の家の話』はドメスティックなタイトルにもかかわらず、ものすごく宇宙規模なスケールの話なのだ。
主人公が車椅子に乗っているドラマを昔、宮藤官九郎は書いていたなあ(2001年、フジテレビ『ロケット・ボーイ』)と思い返す寿一の車椅子回。
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※第9話のレビューを更新しましたら、エキレビ!のツイッターにてお知らせします
●第9話あらすじ
妹弟が去り、寿三郎(西田敏行)がグループホームへ入所し、観山家に残った寿一(長瀬智也)は、ひたすら稽古に励んでいた。そこへ、半年前に家を出た寿限無(桐谷健太)が突然の帰宅。「自分には能しかないと気づいた」と言う寿限無を誘い、寿一は寿三郎のいるグループホームへと出かける。スーパー世阿弥マ シンに扮した寿一をはじめ、慰問に来たさんたまプロレスのレスラーたちを見たお年寄りは歓声を上げる。そして、その中には寿三郎の姿もあり、寿限無は泣き笑うような気持ちでそれを見つめるのだった。
一方、寿一と結婚を誓い合ったはずのさくら(戸田恵梨香)は、この2週間ほど観山家には行かなかった。能とプロレスが頭の大部分を占め、手を出してこない寿一に不満を覚えていたのだ。
同じ頃、踊介(永山絢斗)は週刊誌の記者からある記事を見せられていた。そこには、グループホームの中庭で運動している寿三郎の姿があり……。
番組情報
TBS系『俺の家の話』
毎週金曜よる10時〜
出演:長瀬智也(プロフィール)
戸田恵梨香(プロフィール)
永山絢斗(プロフィール) 江口のりこ(プロフィール) 井之脇海(プロフィール) 道枝駿佑(なにわ男子 / 関西ジャニーズJr.)(プロフィール) 羽村仁成(ジャニーズJr.)(プロフィール) 勝村周一朗(プロフィール) 長州力(プロフィール)
荒川良々(プロフィール) 三宅弘城(プロフィール) 平岩紙(プロフィール) 秋山竜次(プロフィール)
桐谷健太(プロフィール)
西田敏行(プロフィール)
脚本:宮藤官九郎(プロフィール)
音楽:河野伸(プロフィール)
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:勝野逸未 佐藤敦司
演出:金子文紀 山室大輔 福田亮介
製作:TBSスパークル TBS
(C)TBS
番組サイト:https://www.tbs.co.jp/oreie_tbs/
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami