ここ数年、全世界で注目を集める日本のシティ・ポップ。
今回、音楽プロデューサーであり、大阪音楽大学ミュージックビジネス専攻教授、経産省監修「デジタルコンテンツ白書」編集委員を務める脇田敬さんが、シティ・ポップの世界でのトレンド化と、それに続く日本発音楽のグローバル化のアプローチについての考察を寄稿してくれました。
豊富なライブやマネジメント現場の経験とデジタル時代の音楽ビジネス知識を活かしたマネジメント、プロデュース、プロモーションを行い、また音楽ビジネス知識を広める発信や著述活動を行う脇田さんが見据える”シティ・ポップ”の世界のトレンド化と新たなジャンル”アジアン・ポップ”とは?前後編にわたってお送りします。
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ここ数年、全世界で注目を集める日本の「シティ・ポップ」。
山下達郎や竹内まりや、大瀧詠一や細野晴臣などのはっぴいえんど系から、角松敏生やオメガトライブなどのAOR系、同時代の楽曲クリエイターが提供したアイドルポップスまで、私たち日本人が見落としていた70年代、80年代の日本のニューミュージック、歌謡曲が海外で愛されています。
「音楽に国境はない」とよく言われますが、「シティ・ポップ」と呼ばれる作品が生まれた70-80年代、海外進出は夢の世界でした。しかし、サブスクリプションやSNS、動画サイトなどが中心である現在は、いつどんな形で遠い国で日本の音楽が流行るか予測が難しいぐらい国内海外の壁は無くなっています。
この記事では、なぜ「シティポップ」が世界のSNSでバズったり、世界のトップ・アーティストたちが取り入れているのか。それは、はたして「ブーム」なのか。そして、このグローバルな時代において、国内海外を隔てず日本発のグッド・ミュージックを広めるには、どんなアプローチを行なっていけばいいのか。日本アーティストの取り組みなども交えて、前後編に分けて考えてみたいと思います。
■「シティポップ」が海外メジャーアーティストのトレンドに!
昨年あたりから、コアな音楽マニアの中の注目だと思われていた「シティ・ポップ」が、世界のメジャートレンドにも登場しています。特に私たちを驚かせたのは、2021年松原みきの「真夜中のドア~Stay with me」がSpotifyのグローバルバイラルチャートで長期にわたって1位になったことでしょう。リリースから40年経った日本の曲が、突然全世界で聴かれる状況は今までにないことでした。
2022年に入り、2021年の年間1位のアーティストであるザ・ウィークエンドが最新アルバムに収録の「Out of time」で、亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をサンプリングし話題に。さらに、現在大ヒット中の元ワン・ダイレクションのハリー・スタイルズのニューアルバム『Harry’s House』のタイトルの由来が細野晴臣の『HOSONO HOUSE』だったり、最もトレンドを的確にキャッチしないといけない立場である世界のトップクラスのアーティストが、この「シティ・ポップ」を取り上げています。
この「シティ・ポップ」への注目は、当時のトレンドと繋がった再評価というより、全世界のインターネット・ミュージックのコミュニティ内で新たに「発見」され、YouTubeやSoundCloudなどの投稿により、広まったと見るのが当たっていると思います。
ダフト・パンクの2013年のアルバム『Random Access Memories』は、当時の音楽シーンに大変なインパクトを残したアルバムです。このアルバムが与えたインパクトの中で、70-80年代のアメリカ西海岸音楽へのリスペクトを表したことは「シティ・ポップ」のトレンドと大きく関係しています。「シティポップ」と呼ばれる日本の作品が当時目指したのは、まさに70-80年代のアメリカ西海岸音楽、それからディスコを取り入れたAORといったジャンルだからです。
インターネットの音楽コミュニティに大きな影響力を持ったダフト・パンクのこのアルバム以降、打ち込みのダンスミュージックと良質の生音をミックスした音楽はトレンドの主流となります。「シティ・ポップ」の火付け役と呼ばれる韓国人DJのNight Tempoも今一番世界で売れているアーティストであり、亜蘭知子をサンプリングしたザ・ウィークエンドも、はっきりとダフト・パンクからの影響を明言しています。このダフト・パンク『Random Access Memories』以降、ディスコ、AOR、フュージョンが混じった70-80年代のアメリカ西海岸音楽がトレンドとなり、そして「シティポップ」のような変種にも注目が集まっていったと言えます。
そして、このようなインターネットで広まった「音ネタ」をより広く知らしめたのがTikTokの流行です。松原みき「真夜中のドア~Stay with me」がSpotifyバイラルチャートで世界1位を長期間記録した事も、TikTokでのバズが大きく影響しています。
日本のポップスの過去カタログ作品は、デジタル配信されていない音源も多いですが、「真夜中のドア」は公式で配信され、TikTok内で使用できる状態であったことが、大きなヒットに繋がりました。
海外の音楽トレンドの中で音楽マニアやクリエイターたちに発見され、数年かけ世界のネットワークで広まり、TikTokの波に乗って、全世界のメインストリームでネタになるほどになりました。「シティ・ポップ」は、日本製の音楽でありながら、海外の流れの中で独自の広がり方を見せているのです。
後編は”シティ・ポップ”以外の音楽ジャンルや、更に今後発展していくだろう世界のトレンドの中での日本に注目してみようと思います。
(原稿:脇田敬)