【写真】17年ぶりに映画主演する板谷由夏の撮り下ろしカット【8点】
──実際にあった事件をもとに、社会問題を描く本作。出演の決め手を教えてください。
板谷 決め手はもう高橋伴明さん一本でした。伴明さんが映画を撮る、それを一緒にやらないか、と言ってくれた。断る理由は一つもないですよね。
事件については、ニュースとして存じ上げていましたし、今の時代だからこその事件だなと悲しく思ったりもしたんですけど、伴明さんがその事件を題材にしたいと思われたのはすごく伴明さんらしいなと。この事件を通じて、世の中に強いメッセージを伝えたいんだろうなと感じました。
──高橋伴明監督とは、約20年ぶりのタッグとお伺いしています。久々の高橋監督はいかがでしたか。
板谷 タッグなんて恐れ多いですよ。(連合赤軍事件の映画化に挑む、スタッフとキャストたちの姿を描いた)『光の雨』(2001)ではキャストの一人として参加していた感じだったので、もう巨匠。
──撮影現場はいかがでしたか。
板谷 一番印象に残っているのは伴明さんの現場は早い、ということですね。めちゃくちゃ早いんです。無駄なものを撮らないから。リハ1回、本番1回で終わっちゃうんです。私は「今のOK?監督、これで大丈夫?」と思ったりするんですけど、伴明さんは「じゃあ、帰るぞ~」って(笑)。1回しか撮らないから、そういう意味では緊張感がありました。
──板谷さんが演じる主人公の三知子について、高橋監督からこんな風に演じてほしいというリクエストはあったのでしょうか。
板谷 それが無いんですよ(笑)。何も言われなかったんです。これを撮りたいのが分かるだろう?という感じで。伴明さんはもっと全体像を見ていらっしゃるから、三知子という女性のことは任せる。お前が作ってくれという感じだったと思います。もちろん大まかなイメージはありましたけど、細かいところでこうしてほしい、というのは無かったですね。
──共演者の皆さんの印象もお聞かせください。
板谷 皆さん、濃い方ばかりですよね。どなたもキャッチボールするのが心地いい方々でした。(古参のホームレスを演じた)根岸季衣さんと柄本明さんは、伴明さんとはまた違った意味で巨匠。お二人とも全部を受け止めようとしてくださる方ですし、すごく助けて頂きました。特に柄本さんは演じるのがバクダンという、三知子に物事を伝えてくれようとしてくれる役だったので、安心感がありました。
(三知子が働く居酒屋の店長役とマネージャー役の)大西礼芳さんと三浦貴大さんという若い二人も面白かったですね。とてもお芝居が好きなんだろうなっていうのが伝わってきました。
──主人公の三知子は、コロナ禍によって仕事と家を同時に失い、ホームレスに転落してしまう役どころ。板谷さんが演じるにあたって、一番意識していた部分はどんなところでしょうか。
板谷 悲壮感はあんまり出したくないなと思っていました。三知子自身が「私は不幸」と思ってしまうと物語の見え方が変わってしまうのかなと。三知子は自尊心ゆえに「助けて」が言えずにホームレスになってしまう女性。自分が不幸だと思っていたら多分「助けて」と言えたと思うんですよね。
自分のことを不幸だと思えないから「助けて」も言えず、周りの物事に流されていった結果、ホームレスになってしまった。「世の中、不条理だな」とは感じていたと思います。なので、私は台本のなかに身を投げたというか、三知子に起こることを同じように受けていく。受け身でいることを意識していたように思います。
──コロナ禍でどんどんと追い詰められていく三知子の姿には、胸が苦しくなることがありました。演じていて、つらくなることはありませんでしたか。
板谷 シーンによっては心情的につらいことはありましたけど、つらい……というよりも、孤独感が強かったです。私は悪いこともしていないし、まじめに生きてきただけなのに、なんで独りぼっちなんだろうっていう気持ちはずっとありましたね。
──完成した映画を観て、どんな感想を持ちましたか。演じていたときと印象が変わった部分などはありましたか。
板谷 率直な感想は、高橋伴明節全開だな、でした。伴明さんが言いたかったことは、これなんだと改めて実感しましたし。ずっと三知子の目線で作品を観ていたのもあって、完成した映画からは全体像として伴明さんが伝えたかったメッセージをより強く感じました。それは、観ていただいた方にも強く伝わるはずです。(取材・文 吉田光枝)
▽ヘアメイク:結城春香
スタイリスト:古田ひろひこ
衣装:SINME
【後編はこちら】板谷由夏がホームレスに転落する女性に「コロナ禍で同じような経験をした人はたくさんいるはず」