国税庁の調査によれば、年収1000万円を超える給与所得者は全体の上位6.2% 。努力の末に手にしたこの「1000万円」という数字は、多くの人にとって家族を守るための誇りであり、安心の証だったはずです。
しかし、いざその壁を越えてみると、待ち受けていたのは「ゆとりある暮らし」ではなく、重い税負担と物価高が家計を圧迫するシビアな現実ではないでしょうか。

インターネットメディアやSNSでは給与所得者向けの節税術が溢れています。しかし、日々の生活の中で数十万円の節税に励む以上に 、私たちが真に警戒すべきは、家計を根底から揺るがす「相続税」の落とし穴かもしれません。

特に、父親が亡くなり母親と子が遺産を相続する「一次相続」において、多くの家族が安易に選ぶ「配偶者の税額軽減(1.6億円までの非課税枠)」には、致命的な落とし穴が潜んでいます。

一次相続での納税をゼロにするこの仕組みは、一見すると救世主です。しかし、これが将来的に母親が亡くなった際の「二次相続」において、子供たちから数千万円単位の資産を奪い去る要因となるかもしれません。

こうした悲劇を招く最大の原因は、日本特有の「親子のコミュニケーション不足」にあります。「親の金に執着するのは卑しい」と口を閉ざす子供。「子供にお金の話をするのは品がない」と背を向ける親。この美徳ともいえる心理的ハードルこそが、本来守れるはずの資産を、国庫へと流出させてしまうのです。

そこで今回は、場当たり的な節税ではなく、一族の純資産を最大化するための「納税デザイン」を考えます。親子の対話を阻む「心の壁」をどう乗り越え、経営的視点で資産を守るべきか。
岩永悠税理士に専門家の視点から深掘りしてもらいました。

○一次相続で目先の税負担を回避した結果、トータルで大きな負担が生じるリスク

── 親子でお金の話を避けてきた結果、一次相続で母もしくは父(被相続人の配偶者)が相続する場合も多いですが、現場ではどのような「手遅れな事態」が起きているのでしょうか?

岩永氏:結論から言うと、一次相続で目先の税負担を回避することを優先した結果、二次相続で大きな負担が生じるケースが数多く見受けられます。

例えば、「一次相続=父、二次相続=母」というケースでは、主に以下のような4つの課題が発生します。
○「小規模宅地等の特例」の使い逃し

「小規模宅地等の特例」は、適用要件が厳格であり、一次相続の時点から二次相続を見据えた設計が不可欠です。これを見落とすと、二次相続において本来大幅に評価減できたはずの土地がそのまま課税対象となり、税額が跳ね上がります。
○配偶者への資産集中による「流動性不足」(最も多いケース)

配偶者が全財産を相続した場合、現金は生活費や介護費として徐々に減少していきます。一方で不動産はそのまま残るため、結果として「資産はあるが現金がない」状態に陥りやすくなります。

この状態で二次相続が発生すると、「納税資金の確保」が困難となり、不動産の売却を余儀なくされるケースも見受けられます。
○相続人の減少に伴う「税負担の増加」

二次相続では相続人が減るため、基礎控除額が縮小します。さらに相続税は「累進課税」であるため、資産が集中した状態で基礎控除額が減れば、適用税率が上昇します。その結果、同じ財産規模であっても、二次相続の方が税負担は圧倒的に重くなる構造です。
○遺産分割トラブル(いわゆる“争族”)の誘発

配偶者に資産を集中させた場合、二次相続では子のみが相続人となります。
遺言がない状態では、それぞれの生活環境や利害が直接対立しやすく、分割協議が難航する傾向があります。特に不動産が主な財産である場合、分割が困難となり、共有状態(1つの不動産を複数人で共有する状態)の長期化や、売却トラブルに発展するケースも見受けられます。

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岩永悠 いわながゆう アイユーコンサルティンググループ代表/税理士法人アイユーコンサルティング代表社員。西南学院大学卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。26歳で税理士登録。税理士法人2社で経験を積み、2013年独立。15年法人化。資産税に特化した税理士法人として、わずか数年で西日本トップの相続税申告件数を誇るまでに急成長させる。現在はグループビジョンに掲げる「日本のミライに豊かさを」の体現に向け、相続・事業承継分野を基軸に企業の成長支援や海外事業など多角化を推進。
社労士法人や行政書士法人等も擁する国内有数の総合コンサルティンググループを牽引している。主な著書「事業承継を乗り切るための組織再編・ホールディングス活用術」(23年改訂版発刊、24年重版) この監修者の記事一覧はこちら
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