●新ドラマで“完璧な暗殺シナリオ”を書くコンサルタントに
WOWOWの新ドラマ『連続ドラマW コンサルタント―死を執筆する男―』(6月7日スタート、毎週日曜22:00~ ※全6話)で主演を務める伊藤健太郎。ミステリー小説家を夢見る冴えない青年が、謎の組織に引き込まれ、“完璧な暗殺シナリオ”を書くコンサルタントへと変貌していくダーク・サスペンスだ。


まもなく29歳を迎える伊藤は、この作品で何をつかもうとしているのか。役者としての現在地と、その内側にある感覚を、率直な言葉で語ってくれた――。

○脚本にあった「妙に現実と地続きに感じる怖さ」

「最初にタイトルを見た時、“え? どういうこと!?”って思いました」

そう笑いながら振り返る伊藤。最初に渡されたタイトルは、翻訳本の邦題にあたる『暗殺コンサル』だったという。

「“お、アクションか!”と思ったんですけど、どうやらそうでもなくて。“そうか、小説家か…”って。脚本を読んだら、設定がすごく新しかったんですよね。自分もいろんな作品を観てきましたけど、こういうタイプはなかなか経験がなかったので、単純に面白いなと思いました」

原作は、韓国作家イム・ソンスンによる小説『コンサルタント』。主人公・伊崎耀は、ミステリー小説家を目指しながらも芽が出ず、鬱屈した日々を送っている青年だ。そんな彼が、謎の男・黒川秋峰(GACKT)と出会ったことをきっかけに、“事故死”や“病死”に見せかけた暗殺シナリオを書く“コンサルタント”へと変貌していく。

“暗殺を設計する会社”という現実離れした設定でありながら、脚本を読んだ伊藤は「妙に現実と地続きに感じる怖さがあった」と話す。

「“自分の幸せって、誰かの不幸の上で成り立ってる”とか、“人は誰かの死にコミットせずに生きられない”とか。
文字として受け取った時に、“確かにそうだよな”と思わされるセリフがすごく多かったんです。最近のニュースとか世界情勢を見ても、“実際に世界のどこかでは誰かが死んでるんだよな”と考えさせられたりして」

本作のプロデューサー・廣瀬眞子氏も「“あり得ない”設定を“あり得るかもしれない”と証明してくださった」と伊藤の芝居を評している。伊藤は「そういうふうに受け取っていただけるのは、すごくうれしいですし、自分が目指している方向性のひとつでもあります。まだ“それが自分の武器です”と胸を張って言えるところまでは行けてないですけど、もっと大きくしていきたいなと思います」「一見あり得ないことにリアリティを持たせられる俳優になりたい」と、思いを口にした。

○理解できた「環境に感化されて変わっていく感覚」

伊崎という人物について、伊藤は「人間の隠したい部分や、恥ずかしい部分が詰まったキャラクター」と表現する。劇中で特に印象的なのは、小説家志望の青年だった伊崎が、いつしか“暗殺コンサルタント”という危険な仕事に順応していく過程だ。

だが自身は、「人が変わる時は、明確なきっかけなんてないことの方が多い」と捉えていた。

「人生って、“あれ? なんでこれ始めたんだっけ…?”と、後から振り返るとよく分からないことは結構あると思うんです。伊崎も、最初から強い意志があったというより、流れの中で気づいたらそうなっていた感覚に近いのかなと」

その変化を後押ししたのが、“環境”だった。カンパニーに入った伊崎は、髪型もスーツも住む部屋も変わり、立ち振る舞いまで別人のようになっていく。

「最初は“こういう人ってこうだよな”と演じていた部分もあると思うんです。でも、気づいたらそれが染みついていくというか。
本来の自分じゃないはずなのに、環境に感化されて変わっていく感覚はすごく理解できました」

俳優である自身も、衣装やヘアメイク、セットが与える影響の大きさを日々感じているという。

「衣装、ヘアメイク、美術…そういうチームの皆さんが作ってくださる環境は、本当に大きいんですよね。今回も、昔の伊崎は目線を泳がせたり、ちょっと猫背気味にしたりしていたんですけど、カンパニーに入ってからはスーツを着て背筋を伸ばして、自信があるように見せたりとか。その変化はかなり意識しました」

●GACKTとの現場は「書けないことばっかり」
物語の鍵を握る黒川を演じるのはGACKT。伊藤は「本当にピッタリだった」と語る。

「黒川って、人間っぽくないんですよね。つかみどころがなくて、ミステリアスで。だからこそ、この役を誰が演じるかって作品にとってすごく大事だと思っていたので、GACKTさんに演じていただけたのはありがたかったです」

もっとも、撮影前は“壁のある人なのでは”というイメージもあったという。

「だから逆に、俺からいっぱい話しかけようと思って現場に行ったんですよ。でも実際は、本当にフランクな方でした。趣味の話とか、筋トレとか、食事とか、いろんなことを聞かせてもらって、すごく楽しかったですね」

現場では「書けないことばっかりですよ」と、下ネタを交えた軽快なやり取りも多かったそうで、「GACKTさんの生態について、かなり詳しくなりました」と笑う。

中田秀夫監督については、「すごくクレバーで、理論的な方」と表現した。


「僕はどちらかというと感覚派なんですけど、監督は全部を論理的に説明してくださるんです。だから逆に分かりやすい部分も多かったですし、一緒に作っていく感覚がすごくありました」

その一方で、監督が没頭するあまり、GACKTに演出をつけながら彼を置いて一人で歩いていってしまった一幕もあったという。

「監督だけ角を曲がって行っちゃって(笑)。GACKTさんはまだ後ろにいるのに、“ここはこうで…”ってずっと説明してるんですよ。途中で“あれ? いない!”と気づいて、監督がひょっこり顔を出して戻ってきてました。とても真面目で素敵な方だなと思いました(笑)」
○「まずは、つべこべ言わずとにかくやってみよう」

伊崎が抱える葛藤のひとつに、「好きで始めたはずのことが、いつしか違うものになっていく」という感覚がある。自身も、その感覚には強く共感したという。

「20代前半の頃は、同時に3~4作品を掛け持ちしていた時期もあったんです。今思えば、とてもありがたいことなんですけど、何をやってるのか分からなくなる瞬間があったんです。“好きで始めたはずなのに、なんでこんな感情になってるんだろう…”って」

その後、活動休止期間を経て、自身の仕事との向き合い方にも変化があった。

「1年空けたのは大きかったですね。そこで一回リセットされた感覚もありましたし、年齢を重ねて、少し俯瞰(ふかん)して物事を見られるようになった部分もあると思います。
感謝の気持ちも、年々すごく大きくなっています」

現在所属する事務所の社長であり、俳優の先輩でもある小栗旬に相談することはあるのか――。そんな質問には、「いや、本当は相談した方がいいのかもしれないですが、僕、あんまり人に相談しないんですよね…」と率直に答えた。

「もちろん、意見をもらうのはありがたいんです。でも、最終的には自分自身で決めて、自分でやるしかないと思ってるので。“まずは、つべこべ言わずとにかくやってみよう”っていうタイプなんですよね。悩むより、動いて解決するほうかもしれないです」

放送・配信中の6月30日、伊藤は29歳になる。かつて、「30歳までの3年間が正念場」と語っていた伊藤にとって、本作との出会いはどんな意味を持つのか。

「この数年で、今まで求められていなかった役をやらせてもらうことも増えてきました。これから迎える30代に向けて、役者としての深み…みたいな言葉は、僕自身はあんまり好きじゃないのですが、きっと自分なりの武器を作っている途中なんだと思います。“これだけは、他の誰にも負けない!” なんて、まだ全然言えないですけどね」

そう語る表情には、肩の力の抜けた穏やかさと、その奥で絶えず燃え続けるような熱が同居していた。

ヘアメイク:西岡達也(ラインヴァント)
スタイリスト:佐々木悠介

渡邊玲子 映画配給会社、新聞社、WEB編集部勤務を経て、フリーランスの編集・ライターとして活動中。国内外で活躍する俳優・映画監督・クリエイターのインタビュー記事やレビュー、コラムを中心に、WEB、雑誌、劇場パンフレットなどで執筆するほか、書家として、映画タイトルや商品ロゴの筆文字デザインを手掛けている。
イベントMC、ラジオ出演なども。 この著者の記事一覧はこちら
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