以前にも書いたが、筆者は音楽オンチだ。とくにクラシックのことはチンプンカンである。
この映画「ヴィヴァルディと私」はバイオリン協奏曲「四季」の作曲家として知られるアントニオ・ヴィヴァルディ(1678~1741年)とその教え子の物語。ヴィヴァルディは赤貧のうちに生涯を終え、没後200年を経過した20世紀初頭に自筆譜が発見されて高く評価された。「四季」の譜面もそのときに見つかったという。本作を見て初めて知った。まことに映画は勉強になる。
1716年、ヴェネツィアのピエタ院。赤ちゃんポストに置き去りにされたチェチリアは、母の姿も愛情も知らずにこの院で育ち、毎晩こっそりベッドから抜け出してはろうそくの灯りで宛名のない母への手紙を綴っていた。
院から出て外の世界で暮らすには、母親が迎えに来るか、貴族に見いだされ結婚するしかない。結婚も貴族から院への寄付が前提で持ちつ持たれつの関係だった。
そんな中、ピエタ院にヴィヴァルディ(ミケーレ・リオンディーノ)がバイオリン教師として赴任。卓越した才能を持つチェチリア(テクラ・インソリア)を見出し、第一バイオリンのリーダーに任命する。ヴィヴァルディの厳しい練習に耐え、技術を高めるチェチリア。
そんな折、ピエタ院が決めたチェチリアの結婚相手である将校が戦争から戻る。結婚が迫ったある日、事件が起こるのだった……。
チェチリアは世界と自分を隔てる壁の向こうに自由を求めた
製作国はイタリアとフランス。ヨーロッパ映画だけに淡々と物語が語られる。孤児院の暮らしの中で抑圧されたチェチリアと、彼女の才能を見出し、自己の音楽を大成しようと努めるヴィヴァルディ。分かりやすく言えば、男と女の師弟関係を描くストーリー。スポ根ドラマならぬ音楽根ドラマだ。そこに女性同士の妬みやピエタ院の厳しい掟、貴族のエゴなどが幾重にも重なってドラマを重厚に味付けしている。
特に注目したいのが当時の孤児院の経営体質だ。金持ち貴族のご機嫌を取ってスポンサーになってもらい、その寄付に依存しなければならない。
そのため収容されている少女たちは軍人など貴族の妻になる運命を背負っている。
本作を手がけたダミアーノ・ミキエレット監督はこう語っている。
「イマジネーションを形にし、音楽を奏でることで名声がもたらされる――これこそヴィヴァルディが追い求めたものだったが、チェチリアには違っていた。音楽を通して世界を想像するだけでは満足できなかった。彼女は、世界と自分を隔てる壁の向こうに自由を求めたのだ」
いつの時代も弱い者が虐げられる。ピエタ院の少女たちもそうした歴史の犠牲者だ。本作を見終わったとき、筆者は3月17日にトランプとネタニヤフが行ったイランの女子小学校爆撃で175人の児童らが殺された悲劇を思い出した。(シネスイッチ銀座、ユーロスペースほか全国順次ロードショー/配給=彩プロ)
(文=森田健司)

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