【再発見 ちょうど10年前のテレビ】
黒柳徹子が聞き手を務める対談番組「徹子の部屋」(テレビ朝日系)。始まったのは1976(昭和51)年2月2日だ。
そして、今からちょうど10年前の2016年5月、黒柳の自伝的エッセーをもとにした土曜ドラマ「トットてれび」(NHK)が放送されていた。それにしてもよく思いついたものだ。若き日の黒柳を、満島ひかりに演じさせようだなんて。
物語の舞台はテレビ草創期。日本のテレビ放送開始は1953(昭和28)年で、黒柳はNHKの専属女優第1号だ。昭和30年代は、ほぼ毎日出演という怒涛の活躍が続いた。「チロリン村とくるみの木」「ブーフーウー」「若い季節」「夢であいましょう」、特殊撮影技術を駆使した実験作「魔法のじゅうたん」の司会も黒柳だった。
当時のテレビはドラマも含めてすべてが生放送だ。どんなにリハーサルを重ねても、本番で出演者がセリフを飛ばす(忘れる)ことや、スタッフの見切れ(画面に映り込む)なんて日常茶飯事だった。このドラマの中でナレーターの小泉今日子が言う通り、まさに「ムチャクチャだけど熱い日々」だったのだ。
黒柳が憑依したような満島のハイテンション演技はもちろん、ドラマで蘇る今は亡きスターたちも見ものだった。森繁久弥(吉田鋼太郎)、渥美清(中村獅童)、沢村貞子(岸本加世子)らが、それぞれ“なりきり”の演技で競い合う。
中でも森繁は、22歳だった黒柳にとって「近所のちょっとエッチなおじさん」的な存在だ。接した女性全部に(もちろん黒柳にも)、「ね、一回どう?」とコナをかける様子が大いに笑えた。
注目すべきは、満島の黒柳徹子役が一般的な伝記ドラマの“似せる”演技とは大きく異なっていたことだ。声質や話し方をコピーするのではなく、黒柳の「呼吸のリズム」や「間の取り方」を体に落とし込んでいく。
さらに黒柳の“好奇心の速度”を演技の核に置き、次の瞬間に世界が変わるような目の動きを徹底して作った。視聴者は「似ている」ではなく、黒柳徹子が「そこにいる」ことを実感。こうして本作は満島の“隠れた代表作”となった。
ドラマも含めすべてが生放送だった時代。出演者も作り手たちも不慣れで、機材も乏しかった。しかし、それを補って余りある熱気とエネルギーがあった。
制作陣はプロデューサーに訓覇圭、演出が井上剛、音楽は大友良英という「あまちゃん」チームだ。脚本は「花子とアン」の中園ミホ。黒柳徹子という放送界の“生きるレジェンド”の若き日々は、そのままテレビの青春でもあった。
(碓井広義/メディア文化評論家)

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