新年度がスタートした2023年4月3日、多くの企業で入社式が行われた。

ウクライナ危機、世界的なインフレと景気後退リスク、さらにAI(人工知能)時代の到来という未曽有の歴史の大転換のさなかだからこそ、多くの社長が心の底から新入社員を歓迎し、「一緒にこの危機を乗り越えていこう!」と熱いエールを送った。

J‐CAST 会社ウォッチ編集が、「心を震わす社長の挨拶」を独断で選んでみた。

GMOインターネットグループ熊谷社長「EQ(心の知能指数)が大事な時代に」

入社式「心を震わす社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【3:仕事と人生に哲学を持とう編】>の続きです。

ついにAIが人間を超える「シンギュラリティ」(技術的得意点)が到来したのか。2023年3月末日までに起業家イーロン・マスク氏ら1000人以上のテクノロジー関係者が、今後半年間、最先端のAIの開発を中止するよう求める公開書簡に署名した。

理由は、「人間と競合する知能を持つAIは、人類と社会に深刻なリスクとなりうる。統御する管理体制を先に作るべきだ」というものだった。特に、対話型AI「CHAT GPT」(チャットGPT)の出現は、今年の入社式でも大きな話題になった。改めてAI時代にどう働くべきか、熱く語る社長が相次いだ。

インターネットインフラ事業の「GMOインターネットグループ」(東京都渋谷区)は、インターネット事業を開始して28年になる「老舗」だ。2023年度から高度なIT専門知識を持つ新卒社員の年収を従来の2倍の710万円とする「新卒年収710万円プログラム」などを開始した。

ウェブサービスのエンジニアとして起業経験のある学生や、ブロックチェーンに関する論文が学会で評価された学生らを採用したという。そんな卓越したスキルを持つ新入社員たちを前に熊谷正寿社長はこう切り出した。

「(私たちは)言葉遣いにこだわりを持っています。例えば、『従業員』のことを『パートナー』と呼んでいます。『子会社』のことは『グループ会社』と呼んでいます。同じく『買収』『M&A』こういう言葉も使いません。我々は『仲間づくり』と呼んでいます。上から目線の言葉では心がひとつにならないからです」

このように、最初に、言葉遣いをすごく大事にする会社だということに理解を求めた。

そして、「Chat GPT」が登場した現在、「今年はAI元年」「今がIT革命の時代だ」として、「私自身、ドキドキわくわくしています」と語りながらも、AIとの向き合い方をこう訴えた。

「本質的に大事なのは『人間だからできること』『人間じゃなければできないこと』です。それは『EQ』です。『EQ』は心の知能指数です。もっとわかりやすく言うと、人の気持ちを感じとることです」
「仕事は、お客様や周りの仲間たちに喜んでもらうためにあると思います。相手に喜んでいただけるかどうかというのは、『EQ』が高くないとわからない。
ナンバーワンのサービスを作って提供することは一番の基本。でも、それだけではお客様に喜んでいただけない。『EQ』高く、お相手のそれぞれの心の状況を見ながら一番いいプロダクトを提供していかないといけないのです」
「私たちがなぜ言葉を大事にしているのか。それは『EQ』を大切にしているからです。グループの仲間の感情を大事にしているからこそ、言葉を大事にしているのです」

そして、こう結んだ。

「皆さんは良い習慣を身に付けてください。一番最たる例は、目を見る習慣です。日本人は目を見る遺伝子が植え付けられていません。でも、目を見ることはコミュニケーションの基本です。目を見ずに相手の気持ちはわかりません。『EQ』を高めたかったら目をみること。でも、目を見るのは、意識的にしないと絶対無理です」
フラー山﨑社長「AIの進化を楽しみながらも、信じるな」

新潟市に本社があるデジタル支援サービス、フラーの山﨑将司社長は祝辞を読み上げた後、こう切り出した。

「今の祝辞、いかがでしたでしょうか。実はこの祝辞は、『Chat GPT』が生成しました。一般的な挨拶としては当たり障りのない言葉ばかりだったのに、気がつけましたでしょうか。シンギュラリティは2045年に到達すると言われていましたが、いきなりやってくるわけではなく、とうとう目に見える形で近づいてきました」

そして、AI時代にエンジニアやデザイナーとして生き残るための「心がけ」を3つあげた。

「1つ、新しい技術を楽しむこと。
自分の仕事が奪われるんじゃないか、と不安に思うのではなく、時代の進化から目を逸らさずに、誰よりも早く受け入れて、楽しく使いこなせる人を目指してください」
「2つ、見抜く眼を養うこと。
AIのいうことがすべて正しいと、盲目的に信じてはいけません。AIは、間違えることもあります。近いうちにAIが価値のない投稿を量産する時代が来るかもしれません。そのような時代を生き抜くには、正しいものを正しいと見抜ける力をつけることが重要です」
「3つ、人の気持ちを汲み取ること。
相手の気持ちを考えて、尊重し、礼節を持って接すること。一緒に働くメンバーの気持ちを考え、顧客の気持ちを考え、ユーザーの気持ちを考えること。
ヒトを惹きつけるには、ヒトの気持ちを汲み取ることが重要ですが、AIにはそれができません」
三井物産・堀社長「志と五感、それはAIにないものだ」

三井物産の堀健一社長は、「志」がビジネスパーソンの基本であり、それはAIにはないものだと訴えた。

「皆さんが、『世の中に役立つ仕事をしたい』という意志と覚悟をもって、入社されたと確信しています。最初こそ小さな一歩かもしれませんが、日々弛まぬ努力を継続することで、世界の進歩に貢献出来るようになるはずです」
「皆さんがこれから目指すのは、世界中の『志』の高い人たちとの協業、競争です。そのような人達と肩を並べ伍していくには、個々人が世界標準のビジネスパーソンとして成長を追求していくことが求められます」
「その心構えとして、大切にしてもらいたいことが2つあります。1つが、志の体現に向けた道のりは一人ではなく、共に成し遂げようとする仲間がいるということ。当社のロゴの『Mitsui & Co.』には『三井物産とその仲間たち』という意味を込めています。そして、三井物産は『志』溢れる多様な仲間が集う場であります」
「もう1つ大切なことは、謙虚な心です。成長は謙虚な心から生まれます。ビジネスパーソンとして現場に何度も出向き、五感を働かせて何が本質なのかを考え抜く、同時に将来についてイマジネーションを働かす。我々がAIを使いこなしたとしても、この部分は志ある人間がやっていくことだと思います」

AIには持ちようがない「五感を働かせること」、そして「志」の大切さを強調したのだった。

世界から食品ロスをなくす畑入社式、「心を震わす」新入社員の挨拶

このようなAI時代に、真逆の入社式を行なった会社がある。

世界から食品ロスをなくすことを使命に、食品のサブスクリプションサービスを提供しているオイシックス・ラ・大地(東京都品川区、高島宏平社長)だ。

なんと、群馬県昭和村にある提携産地の畑の中で行なったのだ。

新入社員29人に「オフィス」で働く前に、産地の苦労・工夫・農家の想い、そして畑や野菜に触れる喜びを知ってもらおうと、スコップと長靴姿で「食の現場」を入社初日に体感させたのだ。29人は、なんと畑の中から自分の入社証書を掘り起こして「収穫」したあと、入社への想いをトマトの苗に込めて植えた。

ここは「入社式・心を震わす挨拶」シリーズの締めとして、オイシックス・ラ・大地の新入社員たちの汗と泥まみれの声を紹介したい。

Tさん「もともと大学でデザインを学んでいました。食×デザインの道で就職先を探していたときに、オイシックス・ラ・大地に巡り合いました。これから先は、WEBサイトを通じて『美味しい』『食べてみたい』と思っていただけるようなデザインをすることで、まだオイシックス・ラ・大地を知らない人にも使っていただけるような仕事をしていきたいと思います」(女性)
Wさん「大学で教育学部を専攻しており、教育実習などに行く中で、子供の食育環境を変えたいという思いがありました。教育現場で食育をするのも大切だが、家庭で食育ができることが望ましいと思い、親の食への意識を変えることが必要だと思い、色んな方向からアプローチできるオイシックス・ラ・大地に入社を決めました。一人ひとりの食の時間が楽しくなり、食への意識が少しでも変えられるような仕事にチャレンジしていきたいと思います」(女性)
Sさん「ホテルのウェディングのアルバイトをしていたときに、捨てられる食品をみて、食品ロスに課題感を持ちました。また、親が栄養士だったこともあり、小さなことから食に関心があり、幅広く食に携われるオイシックス・ラ・大地に入社しました。これからは、商品開発などを通じて、新しい食体験をしていただけるような仕事にチャレンジしていきたいと思っています」(女性)

(福田和郎)

2023年度「心を震わす社長の挨拶」シリーズ
入社式「心を震わす社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:ビジネスで大切なこと編】
入社式「心を震わす社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:熱き志で人々と社会に尽くす編】
入社式「心を震わす社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【3:仕事と人生に哲学を持とう編】
入社式「心を震わす社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【4:AI時代、人間らしく働く編】

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