岸田文雄首相(65)が発表した骨太の方針。肝心の財源はあいまいなまま。

待っているのはさらなる負担増だという。

「国の税収(一般会計)が3年連続で過去最高額を更新しており、2022年度の税収は71兆円と、初の70兆円台に達する見通しであることが、6月28日に判明しました。国の“収入”は右肩上がりですが、一般家庭は物価高に加え増税がのしかかり、生活は苦しくなるばかりです」(全国紙記者)

税収が増えている背景には、上がり続ける「国民負担率」がある。社会保障に詳しい関東学院大学経済学部の島澤諭教授が解説する。

「“国民負担率”は、租税負担および社会保障負担を合わせた公的負担の、国民所得に占める割合です。租税負担とは、所得税や法人税、ガソリン税、消費税など、ありとあらゆる税金のこと。社会保障負担は健康保険料や厚生年金保険料などです。国民負担率が高ければ高いほど、年収に対して公的負担が大きいということになります」

今年2月、財務省は国民負担率が2023年度には46.8%になる見通しだと発表した。つまり、国民所得の約半分が税金や社会保障料となっているのだ。

■来年にも50%を超える可能性

「岸田内閣では“異次元の少子化対策”を打ち出しています。国民所得を財務省試算のとおり421.4兆円、少子化対策の費用を3.5兆円とすると、国民負担率は0.8%押し上げられます。つまり先日発表された財務省の見通しよりさらに高く47.6%に達する可能性も。

近年中に50%を超えるのも、ほぼ間違いないでしょう」

国民負担率が上がることで、どれほどわれわれの家計に影響があるのだろうか。酒居会計事務所の酒居徹地さんが、年収500万円の40代会社員と、配偶者(収入なし)、高校生の子供がいる場合の手取り額の推移を試算している。まずは国民負担率がまだ35.6%だった2000年。

「健康保険料が16万7760円、厚生年金保険料が31万8900円、雇用保険料が2万円、所得税が9万4600円、住民税が6万8100円だったため、年収500万円家庭の手取り額は、433万640円でした」

ところが国民負担率が37.2%に上がった2010年となると、手取り額はぐっと減っている。

「健康保険料が26万6千172円、厚生年金保険料が39万5千27円、雇用保険料が3万円、所得税が6万8千900円、住民税が15万5千700円となり、手取り額は408万4千201円です」

国民負担率47.5%となった2022年の手取り額は400万1千50円にまで減っている。同じ年収500万円でも、20年あまりで約33万円も手取りが少なくなったのだ。さらに消費税の増税などで、この“手取り”を消費したときに払う税金も大きく増えていることを忘れてはならない。

国民負担率は、今後どのように推移していくのか。前出の島澤さんが、過去のデータや、内閣府『中長期の経済財政に関する試算(令和5年1月24日経済財政諮問会議提出)』の名目経済成長率などをもとにシミュレーションした。

「2024年度にはさっそく国民負担率は51%と、50%を超えるという結果でした」

前出の2022年のデータと比較すると、国民負担率は3.5ポイントも増えるという。さらに、5年後の2028年には国民負担率は54.7%に。はたして、どんな負担増が待っているのだろう。

「少子高齢化で、社会保険料の負担が増加傾向にあります。一般的に『増税』には強い反発がありますが、『社会保険料の引き上げ』と聞くと、助け合いの精神もあり、比較的受け入れられやすい。

今後も、社会保険料を狙い撃ちにした負担増が予想されます」(島澤さん)

■重すぎる負担でむしろ少子化は加速

生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんはこう指摘する。

「税金や社会保険料などが上がっていっても、受けられるサービスは下がっていく印象です。たとえば医療分野では、昨年、一定以上の所得がある75歳以上の医療費の自己負担割合が、1割から2割に増えています。

毎月支払っている介護保険料も、値上げの一途。2000年度に始まった介護事業ですが、当初の1号被保険者(65歳以上)の介護保険料基準額は全国平均で月2911円でした。それが現在は6014円と倍増しているのです。介護保険の自己負担も、来年度には原則1割負担が2割になることが議論されています」

第一生命経済研究所のレポートによると、国民負担率が1%上がるごとに、潜在成長率が0.11%下がり、中長期的な経済成長率が抑制されると報告されている。

「高い負担は手取りを減らします。すると、将来への不安が出ることから、少子化を加速させるとともに、老後への備えも減らしてしまう。企業業績にも影響を及ぼし、経済活力を衰退させます。

そうした状況を防ぐため、社会保障のスリム化も重要です。たとえば“子供の医療費は無料だから”と緊急を要さない病状でも医療を受けてしまうケースもあるので、せめてワンコインを徴収して、過剰な医療を抑制する。

また、高齢者でも、ある程度の所得があれば医療費の負担割合を上げるなどの、バランスも必要です。社会保障をスリム化し、家計も企業も減税し、自由に使えるお金を増やすことで、経済成長を促すのが得策と考えます」(島澤さん)

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