亡くなった姉の預金を引き出すため、遺体を掘り起こして銀行に運んだ男性(インド)
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 インド東部にあるオリッサ州の小さな村で1人の女性が亡くなった。埋葬後、彼女の預金を引き出そうと、兄が銀行を訪れた。

 だが、銀行は本人でないと手続きができないと突っぱねた。絶望した兄は、姉の遺体を墓から掘り出して、骨となった体を銀行に持ち込んだ。

 その様子を撮影した動画がインターネット上で広がると、銀行の対応や行政に対する大きな批判と怒りを引き起こすことになった。

亡くなった姉の預金を引き出そうと銀行へ行った結果

 2026年1月26日、オリッサ州にあるディアナリという村で、カルラ・ムンダさんという女性が56歳で亡くなった。

 彼女は夫と息子を亡くしたあと実家に戻っており、弟のジトゥ・ムンダさん(52)が唯一残された身内だったという。

 カルラさんは亡くなる少し前に家畜を売って得た約1万9,000ルピー(約31,400円)のお金を、地元のオディシャ・グラミン銀行マリポシ支店に預けていた。

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 彼女が亡くなった後、弟のジトゥさんは何度も支店を訪れたが、姉のお金を引き出すことはできなかった。

 いくら事情を説明しても、銀行側は「口座名義人を連れてこい」と繰り返すばかりだったというのだ。

 4月27日、ジトゥさんは信じられない行動に出た。

 墓地に埋葬されていた骨となった状態の遺体を掘り起こし、布に包んで銀行まで担いでいったのである。

 彼は銀行までの約3kmの道を、遺体(遺骨)を肩に担いで歩き続けた。その時の様子が匿名の人物によって撮影されており、SNSに投稿されて一気に拡散した。 

 ジトゥさんはその時の状況について、後に次のように説明している。

何度も銀行に行って姉が亡くなったと伝えたにもかかわらず、彼らは私の言うことを聞かず、口座名義人を連れて来るよう言われたんです。

そこで私は苛立ちのあまり墓を掘り、彼女の死の証拠として遺体を持って行ったのです

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銀行側は「酔っぱらて遺体を持ち込んだ」と主張

 だがオディシャ・グラミン銀行の親銀行にあたるインディアン・オーバーシーズ銀行は、翌28日に声明を出してこれに反論した。

 その中で銀行側は、職員が故人を連れてくるよう求めたという話は誤りだと述べ、原因は手続きに関するジトゥさんの認識不足にあったとしている。

一部報道にあるような「銀行職員が死亡した顧客本人の出頭を求めた」という事実はありません。本件についての正確な理解と透明性確保のため、事実関係を以下の通り説明いたします。

ジトゥ・ムンダ氏が初めて当支店を訪れ、姉であるカララ・ムンダ氏名義の口座からの出金を求めました。銀行規則上、適切な権限がない第三者による出金は認められていません。

この旨を説明したところ、同氏は口座名義人が死亡していると述べました。支店長は、死亡時の精算は死亡証明書などの有効な書類提出があって初めて可能であることを明確に説明しました

 さらにその上で、当時ジトゥさんが酔っぱらっていたと主張したのだ。

ジトゥ氏は酒に酔った状態で騒ぎを起こし、数日前に埋葬されたとされる遺体を掘り起こして遺体を持ち込み、支店前に置いた上で、それが姉であると主張し、口座からの出金を要求しました。

この行為により、支店内は非常に困惑する状況となりました。直ちに地元警察に通報し、その後は警察の監督のもと対応が行われました

 これに対し、地域を管轄するパトナ警察署の責任者、キラン・プラサド・サフ警部は、銀行がジトゥさんに預金を引き出すための適切な手順を説明しなかったことが原因だと述べた。

ジトゥさんは読み書きのできない部族出身の男性です。

彼は法定相続人や指名受取人が何なのかを、まったく知りませんでした。

銀行員たちは、亡くなった人の口座からお金を引き出す手続きを彼に理解させることができなかったのです

銀行の対応に人々の怒りが炸裂

 銀行側の主張は、SNSで拡散された映像に衝撃を受けていたインドの人たちの、怒りの火に油を注ぐ結果となった。

 ネット上では銀行に批判が殺到。その一方で、亡くなった親族の遺産を受け取る際に遺族が直面する、官僚的な障壁を指摘する声もあった。

  • 農村部の銀行事情は本当にひどい。教育を受けていない高齢者を銀行員が苦しめ、何度も手続きをさせるんだ
  • 今でもインドの部族の状況はとても悲しい
  • ダリット(不可触民)や部族の人々はいつもこんな扱いを受けている。初めてでも最後でもない
  • できるだけ現金は手元に置いた方がいい。インドの銀行システムはひどすぎる。銀行員は自分を首相か何かだと思ってるんだ
  • 恥ずかしい。2万ルピー(約33,000円)のためにここまで追い詰められるとは、民主主義とは何なのか。貧困層の教育に使われた莫大な資金はどこへ行ったのか
  • この国では公職についただけで自分を王だと思い込み、一般市民を無知で従うべき存在だと考える人が多い。本来は市民のための職なのに。アンベードカルの言葉どおり、この国で民主主義は成功しないのかもしれない
  • 銀行は規則を守ったかもしれないが、思いやりがなかった。
    教育を受けていない貧しい部族の人にとって、手続きの厳格さと説明不足が大きな苦しみになった
  • 銀行は彼が絶望する前に、死亡証明書の取得をサポートするべきだった。後から「酔っていた」なんて言うのは恥ずべきことだ
  • 銀行は傲慢になりすぎて、貧しい人の苦しみが見えていない。「手続き」を理由に苦しめる一方で、富裕層には巨額の不良債権を簡単に与えている
  • 銀行職員の完全な失敗だよ。無慈悲ここに極まれり、だ。SNSで批判されたから言い訳しているだけだ
  • 少しでも思いやりがあれば、こんなことは起きなかった。世界中に恥をさらしたんだよ
  • 高給もらってても、まともに説明できないなら意味なんてないだろ。政府は農村の人々には母語での対応が必要だってわかってない。貧しい人も将来のために貯金を引き出したり預けたりする権利があるはずだ。
  • トランプが「インドは地獄だ」って言った意味がわかったよ
  • 俺たちはトランプに腹を立てていたけど、彼は真実を言っていたのかも

農村を支える(はずの)インドの銀行事情

 ここで少し、インドの銀行について説明しておこう。インドでは農村や低所得者向けの金融サービスを提供するため、地域農村銀行(RRB)を運営している。

 これは一般の銀行のサービスがいきわたらない農村の人々や小規模事業者、ダリットや部族民などの低所得者層に、預金や小口融資などのサービスを提供するためのものである。

 本来なら、顧客である農村の人たちを支えるために、各種手続きの支援を行うことが、RRBには期待されているはずだった。

 RRBの運営は、中央政府・州政府・親銀行がそれぞれ50%・15%・35%を出資して行っており、実際の経営やノウハウの提供は、親銀行が担っている。

 今回の事案では、ネットでの批判があまりにも大きかったため、親銀行であるインディアン・オーバーシーズ銀行が声明を出したものとみられている。

 主に銀行に勤める人たちからは、銀行側を支持する声も上がっている。
 以下の写真は今回の事案の舞台となったマリポシ支店の前に集まり、団結を表明する銀行員たち。

 だが、「デリケートな事件なので、今は笑顔で写真を撮るのは止めた方がいいのでは?」という意見も寄せられていた。

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州当局が事件の調査を開始

 騒ぎが大きくなったため、4月28日になって、オディシャ州のモハン・チャラン・マジ首相が調査を命じる事態となった。

 州政府側は今後同じような事態が起こるのを防ぐため、北部管区の歳入管区長官に対し、詳しい調査を行うよう指示したという。

 これを受けて、州の歳入大臣スレシュ・プジャリ氏は、この件は現在調査中で、銀行側の対応に対し、何らかの措置が取られるだろうと述べた。

 なお、ジトゥさんには地区の赤十字基金から、3万ルピー(約5万円)が支援され、死亡証明書と相続人証明書も無事に交付された。

 カルラさんの遺体は警察の立ち会いのもと、再び墓地に埋葬された。

 また警察の支援により、ジトゥさんには姉の口座に残っていた1万9,402ルピー(約32,000円)のお金が、無事に支払われたそうだ。

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一律のサービス提供が難しい「巨大多民族国家」インド

 こういった「たとえ亡くなっていても、本人にしか手続きができない」系の事案は、ときおり発生しているようだ。

 2025年5月には中国で、重病で寝たきりの父親をストレッチャーに乗せて銀行に来た結果、父親がその場で死亡するという事件が起こっている。

 日本では死亡届を出せば戸籍にその旨が記載されるので、相続手続きの際は戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)をとれば、本人の死亡は確認できる。

 代々さかのぼっての戸籍が必要だったり、相続人が複数いれば分割協議書が必要だったりと面倒ではあるが、被相続人の死亡は一発で確認できるのだ。

 だが世界の大半の国では、戸籍のような一元管理モデルはないので、行政による「死亡証明書」が必要となるケースが多い。

 インドの場合も、地方自治体が発行する死亡証明書が必要なのだが、農村部の場合はうまく機能していないこともあるようだ。

 その原因として、今回のような手続きに関する知識の不足や、公的機関へのアクセスの難しさ、多言語国家ならではの言語の壁などが挙げられる。

 インドの人口は2026年5月1日現在1,474,529,716人で、世界の総人口の約17.8%を占めている。

 また、国としての指定言語が22言語、1万人以上の話者がいる言語だけで121言語あるとも言われていて、「インドはひとつの世界」と言われるのも納得できる。

 この国をまとめ、行政サービスを隅々まで行きわたらせるのは至難の業であることは想像に難くない。

 IT大国と言われ、急成長を続けているインドだが、人口が多い分、まだまだ国民に広く行き渡る対応は不十分なようだ。

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References: Death proof sought for withdrawal, man takes sister's skeleton to bank | India News - The Times of India[https://timesofindia.indiatimes.com/india/death-proof-sought-for-withdrawal-man-takes-sisters-skeleton-to-bank/articleshow/130592320.cms] / BBC[https://www.bbc.com/news/articles/clypl5jrjqlo]

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