2026年内に大気圏落下が迫る観測衛星を、ロボット宇宙機が軌道上でドッキングして押し上げるという、史上初のミッションのテストが始まった。
NASAは民間宇宙企業カタリスト・スペース・テクノロジーズと協力し、今年中に大気圏へ落下する可能性が90%に迫るスウィフト観測衛星を救うべく、ロボット宇宙機「LINK」の環境試験を2026年4月14日に開始した。
宇宙の爆発現象を20年以上見つめ続けた観測衛星
2004年11月20日、アメリカ・イギリス・イタリアが共同開発したガンマ線バースト観測衛星「スウィフト」が、デルタIIロケットによって打ち上げられた。
ガンマ線バーストとは、大質量星が崩壊するときや中性子星同士が衝突するときに放たれる、宇宙で最も強力なエネルギー爆発現象のことだ。
その謎を解き明かすため、スウィフトには、ガンマ線・X線・紫外線・可視光という4つの波長帯で同時に観測できる宇宙望遠鏡を3台搭載した。
スウィフトは、ガンマ線バーストを検知すると自動的に向きを変えて追跡するという、当時としては画期的な能力を持っていた。
その後、ミッションを率いたゴダード宇宙飛行センターの主任研究員ニール・ゲーレルス博士が2017年2月6日に逝去したことを受け、2018年1月10日に「ニール・ゲーレルス・スウィフト」と改称された。
打ち上げから約22年、スウィフトの活躍は多岐にわたり、2025年7月に発見されたばかりの恒星間天体「3I/ATLAS」の解明にも一役買った。
しかし今、この観測衛星が深刻な危機に直面している。
残された時間はあとわずか、太陽活動の活発化が命取りに
宇宙空間は真空に見えるが、地球の大気は高度が上がるにつれて薄くなるだけで、完全には消えない。
高度数百kmの低軌道を周回する宇宙機は、この極めて希薄な大気による空気抵抗によって少しずつ減速し、軌道高度が下がり続ける。
速度が落ちれば軌道はさらに低くなり、より濃い大気にさらされてさらに減速するという悪循環だ
スウィフトの状況を一気に悪化させたのが、太陽活動の活発化だ。
太陽は約11年周期で活動が増減する「太陽活動周期」を繰り返す。活動が極大になる時期には太陽風が強まり、地球の上層大気が熱せられて膨張する。
膨張した大気はより高い高度まで広がるため、低軌道の宇宙機が受ける空気抵抗が一気に増大する。
太陽活動周期は2024年10月にピークを迎え、スウィフトはその直撃を受けた。
2025年11月時点で、スウィフトが2026年6月までに大気圏に突入して燃え尽きる確率は50%、2026年末にそうなる確率は90%に達した。
このままでは22年間の観測の積み重ねが、大気圏の炎の中に消えてしまう。
少しでも時間を稼ぐため、スウィフト側でも対策が進んだ。
2026年2月には搭載する紫外線・光学望遠鏡とX線望遠鏡の運用を停止。
2026年4月7日にはバースト警報望遠鏡の観測も止めた。
消費電力を減らすことで太陽電池パネルを大気ドラッグが最小になる角度に固定でき、軌道の低下速度を抑えることができる。
この対策により、ブースト作戦を試みられる猶予期間が数ヶ月延びた。
史上初、軌道上で押し上げる救出作戦
NASAはこの事態を受け、アリゾナ州フラッグスタッフに拠点を置く民間宇宙企業カタリスト・スペース・テクノロジーズと契約を結んだ。
投じられた資金は約47億円(3,000万ドル)。カタリスト社に課せられたのは、ロボット宇宙機をスウィフトに接近・ドッキングさせて軌道を押し上げるという、史上初の軌道ブースト作戦だ。
このミッションのため、ロボット宇宙機「LINK」が開発された。
2026年4月14日、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで振動試験と熱試験が始まった。
NASAゴダードのスウィフト主任研究員であるS・ブラッドリー・チェンコ氏は「NASAがカタリスト社と契約を結んでからまだ7ヶ月ほどです。
LINKはノースロップ・グラマン社が開発したペガサスXLロケットで宇宙へ向かう。
このロケットは地上からではなく、航空機の機体下部に搭載されて高高度まで運ばれ、そこで切り離されて点火する「空中発射方式」をとる。
スウィフトが周回する特殊な軌道には米国内のどの宇宙港からも直接到達できないため、この方式が選ばれた。
打ち上げはバージニア州のNASAウォロップス飛行施設で行われる予定で、時期は2026年6月以降とされているが、詳細は現時点では未公表だ。
スウィフトを救うことはできるか?がんばれLINK!
カタリスト社CEOのグォンヒー・リー氏はこう語る。
スウィフトは今も貴重な科学データを生み出しています。このミッションは、もともと軌道上での保守・整備を想定して設計されていない宇宙機の寿命を、迅速かつコスト効率よく延ばすことを目指しています(リー氏)
これまで軌道上で保守・整備が行われた宇宙機はごく限られており、しかもそれらはすべてあらかじめそうした作業を前提とした設計が施されていた。
だがスウィフトはそうした設計を持たない。その宇宙機に対して初めて軌道上でのブーストを試みる点が、このミッションの画期的な意義だ。
もしLINKがスウィフトを予定の軌道まで押し上げることに成功すれば、今後の宇宙運用のあり方が根本から変わる可能性がある。
老朽化や軌道崩壊に直面した衛星機に対し、設計段階では想定されていなかった保守・整備を後から行うという新たな選択肢が生まれるからだ。
NASAとカタリスト社が今年挑むのは、宇宙機の「使い捨て」から「修理・延命」へという発想の転換を、実際に宇宙で証明する最初の一歩でもある。
人工衛星や宇宙機が宇宙のゴミや藻屑とならずに、いつまでも元気で活躍していられるよう、我々もこのミッションの行方を見守っていこう。
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References: Testing Begins for Katalyst-NASA Swift Boost Mission[https://science.nasa.gov/blogs/swift/2026/04/17/testing-begins-for-katalyst-nasa-swift-boost-mission/]











